『アビエイター』(原題:The Aviator)は、2004年に公開されたアメリカの伝記映画で、マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオ主演のタッグによる作品。映画は、実業家・映画プロデューサー・航空のパイオニアであるハワード・ヒューズの若き日の成功と苦悩を描く。映画製作や航空事業での栄光と、それに裏打ちされた精神的苦難に焦点を当てた物語は、20世紀のアメリカの発展と個人の葛藤を鮮やかに映し出している。
本作は第77回アカデミー賞で11部門にノミネートされ、助演女優賞(ケイト・ブランシェット)を含む5部門を受賞した。また、興行収入は2億1,400万ドル(当時のレートで約280億円)を記録し、視覚効果や美術、衣装などの豪華さでも高い評価を受けている。
『アビエイター』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
若き映画プロデューサーであり相続財産を背景にした実業家のハワード・ヒューズ(レオナルド・ディカプリオ)は、1920年代後半に巨額を投じて戦争映画『ヘルズ・エンジェルス』を製作し、映画業界でその名を知られる存在となる。その後、航空業界へ進出したヒューズは、TWA(トランス・ワールド航空)を率いて大胆な事業戦略を展開し、技術革新と競争で業界に革命をもたらす。
一方、彼の私生活は波乱に満ちており、女優キャサリン・ヘプバーン(ケイト・ブランシェット)やエヴァ・ガードナー(ケイト・ベッキンセール)との恋愛関係が注目を集める。しかし、完璧主義と強迫性障害に苦しむ彼の精神状態は徐々に悪化。政府やライバル企業との争いが激化する中、ヒューズは孤立を深めながらも、自らのビジョンを実現すべく壮大な飛行艇「スプルース・グース」の完成に挑む。しかし、その成功の影には、天才ゆえの孤独と狂気が漂っていた。
『アビエイター』の監督・主要キャスト
- マーティン・スコセッシ(62)監督
- レオナルド・ディカプリオ(30)ハワード・ヒューズ
- ケイト・ブランシェット(35)キャサリン・ヘプバーン
- ケイト・ベッキンセール(31)エヴァ・ガードナー
- ジョン・C・ライリー(39)ノア・ディートリッヒ
- アレック・ボールドウィン(46)フアン・トリップ
- ジュード・ロウ(32)アーロル・フリン
- アラン・アルダ(68)ラルフ・オブライエン上院議員
(年齢は映画公開当時のもの)
『アビエイター』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 2.0 ★★☆☆☆ |
・大切な人と観たい | 3.0 ★★★☆☆ |
・ひとりでじっくり | 5.0 ★★★★★ |
・華やかな20世紀初頭 | 5.0 ★★★★★ |
・濃厚な人間ドラマ | 4.0 ★★★★☆ |
上質な伝記映画
『アビエイター』は、マーティン・スコセッシ監督が描いた時代背景の再現と人物描写の両面で評価が高い作品。上質な伝記映画である。
レオナルド・ディカプリオが演じるハワード・ヒューズは、ヒューズの天才的なビジョンと、潔癖症や強迫性障害に苦しむ姿を表現。”タイタニックのイメージを払拭する演技”としてキャリアに記憶される。ケイト・ブランシェットはキャサリン・ヘプバーンを演じ、実際の人物像を徹底的に研究した成果がアカデミー賞助演女優賞の受賞につながった。
1920年代から40年代にかけての華やかなハリウッドと航空業界を描き、ヒューズという人物を通じて、夢と狂気が表裏一体であることを表現した。飛行シーンや製作シーンの視覚効果は臨場感に満ちており、視聴者を当時の空の時代へと引き込む。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
実業家の伝記映画であるが、事業戦略や航空業界への具体的な影響についての描写よりもハワード・ヒューズという人物の内面(精神的苦悩、強迫性障害)に焦点が当てられ、また物語のテンポがややゆったりとしている為、3時間近い上映時間が一部の観客には冗長に感じられる。
何度もドキュメンタリー番組などで取り上げられる人物のため、ディカプリオがイメージと違うという声も一部にある(実在のヒューズは身長が190センチあったのだとか)。
こぼれ話
ハワード・ヒューズ(1905–1976)は、航空業界や映画産業で多大な功績を残した実業家で、特にアメリカではかなりの有名人。日本で知名度がそれほど高くないのは、不動産チェーンを除き、現存する企業に名が残っていないからかもしれない。
彼はヒューズ・ツール社を相続して巨万の富を築き、航空業界ではヒューズ・エアクラフトを設立し、革新的な航空機開発や飛行記録の樹立で業界を牽引した。また、TWA航空を買収し、国際航空網の拡大に寄与した。映画プロデューサーとしても成功を収め、特に『地獄の天使』(1930年)は高い評価を受けた。
ちなみに、アイアンマンの主役、トニー・スタークはハワード・ヒューズがモデルになっている。
助演女優賞のケイト・ブランシェットは、キャサリン・ヘプバーンを演じるにあたり、彼女の映画やインタビュー映像を徹底的に分析し、特有のアクセントや仕草を習得した。これにより、ブランシェットの演技は「ヘプバーン本人がそこにいるかのようだ」と絶賛された。
映画に登場する飛行艇「スプルース・グース」のシーンでは、実物大のレプリカを製作し、CGと実写を巧みに組み合わせて迫力のある飛行シーンを再現した。撮影時には色彩の再現にもこだわり、1920~30年代の「テクニカラー」の雰囲気を模倣するために特別なカラーフィルタリングが施されている。細部への徹底的なこだわりが、本作の評価を支えている要因となっている。
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