A.I.(2001)の解説・評価・レビュー

A.I. Artificial Intelligence SF(近未来)
SF(近未来)

キューブリック&スピルバーグが描いた未来 ---

『A.I.』(原題:A.I. Artificial Intelligence)は、2001年に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督によるSF映画で、故スタンリー・キューブリックが長年温めていた企画を受け継いで完成させた作品。人間に限りなく近い感情を持つ人工知能ロボットの少年デイビッドが、自分を愛してくれない母親の愛を求め、壮大な旅に出る姿を描く。主演はヘイリー・ジョエル・オスメントで、ロボットとしての無垢な存在感と感情の葛藤を見事に表現している。

本作は、人間と機械の関係性や、愛情とは何かをテーマに深く問いかける作品であり、未来的な都市や荒廃した世界を描いたビジュアルとともに独自の雰囲気を醸し出している。興行収入は全世界で約2億3,500万ドル(当時のレートで約120億円)を記録し、公開当時から賛否が分かれたものの、テーマの深遠さや美しい映像表現が広く評価された。また、ジョン・ウィリアムズによる音楽や、スピルバーグ監督らしい繊細な演出が、物語の感動を一層引き立てている。

『A.I.』あらすじ紹介(ネタバレなし)


未来の地球では、環境破壊と人口制御が進み、人工知能を搭載したロボットが人間の生活に溶け込んでいた。ある日、画期的な感情を持つロボットの試作品デイビッドが、子どもを失った人間の夫婦ヘンリーとモニカに引き取られる。人間の子どものように振る舞うデイビッドは、母親役のモニカに愛されることを望むが、やがてモニカとの関係は崩れ、デイビッドは家を追い出されてしまう。

母親の愛を取り戻すため、「青い妖精」という存在が人間にしてくれるという童話『ピノキオ』を信じ、デイビッドは相棒のテディとともに旅に出る。道中、彼は魅惑的なギグロ型ロボットのジョーと出会い、荒廃した未来社会の中をさまざまな人々やロボットと関わりながら旅を続ける。しかし、世界は過酷で、デイビッドの望む愛や人間になる夢は容易には叶わない。彼の果てしない探求の旅は、どこへとたどり着くのか。人間と機械の境界、そして愛の本質を巡る物語が描かれる。

『A.I.』の監督・主要キャスト

  • スティーヴン・スピルバーグ(54)監督
  • ヘイリー・ジョエル・オスメント(13)デイビッド
  • ジュード・ロウ(28)ギグロ・ジョー
  • フランシス・オコナー(34)モニカ・スウィントン
  • サム・ロバーズ(39)ヘンリー・スウィントン
  • ウィリアム・ハート(51)アレン・ホビー博士
  • ジェイク・トーマス(11)マーティン・スウィントン
  • ロビン・ウィリアムズ(声の出演)ドクター・ノウ

(年齢は映画公開当時のもの)

『A.I.』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 3.0 ★★★☆☆
・大切な人と観たい 5.0 ★★★★★
・ひとりでじっくり 4.0 ★★★★☆
・家族愛を考えさせられる映画 5.0 ★★★★★
・監督二人の違いを探すのも見どころ 5.0 ★★★★★

ポジティブ評価

『A.I.』は、スタンリー・キューブリックとスティーヴン・スピルバーグの才能が融合した、壮大で感動的なSF映画として高く評価されている。本作の最大の魅力は、感情を持つ人工知能ロボットの視点を通して、人間と機械の関係性や「愛とは何か」という深遠なテーマに切り込んだ点にある。特に、ヘイリー・ジョエル・オスメントの演技は圧巻で、無垢なロボット少年デイビッドが母親の愛を求めて葛藤する姿に多くの観客が心を打たれた。
また、スピルバーグ監督による未来社会の描写や、荒廃した地球のビジュアルは美しく、視聴者を物語に引き込む。ジョン・ウィリアムズによる音楽も切なさを補完する。

さらに、本作は感情的なドラマ性と同時に、倫理的・哲学的な問いを視聴者に投げかける。人間が機械に抱く愛情や、機械が人間に抱く忠誠心と愛情の描写は、ChatGPTが普及しAIが急速に身近になった現代こそ、通じるテーマではないだろうか。

本作の元となるのが「スーパー・トイズ(Supertoys Last All Summer Long: And Other Stories of Future Time)」というブライアンノルディスによる1969年の著。作家の先見性と想像力に驚かされる。レビューの大半が英語であるが、アマゾンでの販売を見つけたのでシェアしておく(要翻訳!)。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

『A.I.』は、スタンリー・キューブリックが構想した冷徹でシニカルな要素と、スティーヴン・スピルバーグの持つ感傷的な演出が混在しており、映画全体の方向性がやや曖昧になっていると指摘する批評家もいる。これは低評価というより、両者の比較を感じながら視聴することもある種の楽しみ方なのかもしれない。後半の展開やラストシーンについては、テーマを感動的にまとめようとするスピルバーグのアプローチが過剰で、その視点で見るとひとつの見所と言える。

こぼれ話

『A.I.』は、映画界における二大巨匠、スタンリー・キューブリックとスティーヴン・スピルバーグのコラボレーションによって生まれた特別な作品である。もともとこのプロジェクトはキューブリックが1970年代から構想していたもので、原作はブライアン・オールディスの短編小説「スーパー・トイズ」。しかし、技術的制約やストーリーの難解さから制作が進まず、キューブリックはスピルバーグが監督する方が適していると判断して企画を託した。結果的に、1999年にキューブリックが亡くなった後、スピルバーグが彼の構想を忠実に再現しつつ、独自の感性を加える形で完成させた。

撮影にあたっては、デイビッド役のヘイリー・ジョエル・オスメントが「人間らしくない動き」をするために細心の注意を払い、瞬きを一切しない演技を自ら提案したというエピソードがある。また、彼が相棒のテディ役となるロボット型のぬいぐるみと自然な掛け合いを見せるため、制作チームは高度なアニマトロニクスを駆使してリアリティを追求した。

さらに、劇中に登場する未来の世界の描写には、専門家や科学者の助言が取り入れられており、スピルバーグのこだわりがうかがえる。特に、荒廃した都市や高度な人工知能が浸透した社会のデザインは、未来の人間とテクノロジーの関係性を象徴的に描く。

この映画の制作背景や俳優たちの努力、そしてキューブリックとスピルバーグという異なる映画作家のビジョンが交錯した点は、『A.I.』を単なるSF映画以上の特別な作品にしている。映画を深く知ることで、観客はそのテーマや映像美をより一層楽しむことができるだろう。

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