主婦が地球を救う!SFのアカデミー作品 ---
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022年)は、ダニエル・クワンとダニエル・シャイナートの「ダニエルズ」コンビが共同監督・脚本を務めたアメリカのSFアクション映画である。主演はミシェル・ヨー。物語は、異なるマルチバースの中で人生を送る主婦が、家族や世界の運命をかけて戦う姿を描く。
本作のテーマには、家族愛やアイデンティティ、可能性に満ちた人生への問いかけが込められており、その大胆なビジュアル表現と感動的なストーリーが幅広い層の観客に支持された。
製作総指揮にはルッソ兄弟が名を連ねており、緻密な脚本と独創的な演出が高く評価された。本作は第95回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞など計7部門を受賞し、アジア人初の歴史的な快挙を成し遂げた。興行的にも、2500万ドル(35億円)の製作費に対し全世界で1億ドル(140億円)以上の興行収入を記録するなど、インディペンデント映画として大成功を収めた。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のあらすじ(ネタバレなし)
エヴリン・ワンは、夫ウェイモンドとともに家族経営のコインランドリーを切り盛りしている中年女性。だが、結婚生活は冷え切り、娘ジョイとの関係も険悪で、世代間の溝が深まるばかり。さらに、国税庁の厳しい監査官デドラに税務調査で追い詰められ、人生の重圧に押しつぶされそうになっていた。
そんな中、突然現れた夫の別の人格によって、「マルチバース」という無限の並行世界が存在することを知らされる。
エヴリンは、無数の世界における自身の異なる姿や選択を目の当たりにし、これらすべてをつなぎ合わせる鍵を握る特別な存在であると告げられる。混沌としたマルチバースの中で、突如として押し寄せる破壊の脅威に立ち向かうため、彼女は未知の能力を開花させなければならない。愛する家族を守り、失われた絆を取り戻しながら、自身の可能性と価値を見つけ出す壮大な冒険が幕を開ける。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の監督・主要キャスト
- ダニエル・クワン(34)監督
- ダニエル・シャイナート(34)監督
- ミシェル・ヨー(59)エヴリン・ワン
- キー・ホイ・クアン(50)ウェイモンド・ワン
- ステファニー・スー(31)ジョイ・ワン/ジョブ・トゥパキ
- ジェイミー・リー・カーティス(63)ディアドラ・ボーベアドレイ
- ジェームズ・ホン(93)ゴン・ゴン(祖父)
- タリー・メデイロス(40)レキューイ・チェ(税務局職員)
(役者の年齢は公開時点のもの)
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 5.0 ★★★★★ |
・大切な人と観たい | 3.0 ★★★☆☆ |
・ひとりでじっくり | 3.0 ★★★☆☆ |
・カンフー映画がみたい! | 4.0 ★★★★☆ |
・平行世界・不思議 | 5.0 ★★★★★ |
コメディ・アクション・ドラマの融合
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を直訳すると、「全てのことが、あらゆる場所で、一度に」。多元宇宙のカオスをタイトルに表し、多次元の世界観を映し出す大胆なビジュアルは、編集と脚本の巧みさによって限られた予算の中でもインパクトを生み出している。
ミシェル・ヨーを中心としたキャスト陣の熱演は圧巻で、特にヨーはコメディ、アクション、ドラマを完璧に演じ分けた。家族愛や自己探求を描いたドラマ要素が軸にありながら、コメディと哲学的要素を融合させたトーンも独特で、新しいジャンルの可能性を提示した作品といえる。
いくつかの賛否が分かれる要素
マルチバースを扱った複雑な構造や奇抜な演出は、人によってはやや難解に映った様子。また、ネットでは「下ネタが無理」という声も。映画のテンポやトーンに対する評価は好みが分かれる点も否めない。また、多くのメッセージを盛り込みすぎた結果、テーマが散らばったように感じるとの指摘もある。
こぼれ話
この映画は、2016年から製作が進められ、当初ジャッキー・チェン主演の企画として構想されていたが、最終的にミシェル・ヨーが主演に決定。ヨーのキャリアを集大成する作品として大きな意味を持つものとなった。
さらに注目すべきは、キー・ホイ・クアンの復帰である。彼は『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』以来、俳優として長らく表舞台から離れていたが、本作での感動的な演技が絶賛され、アカデミー賞助演男優賞を受賞した。
また、製作会社A24は、インディペンデント映画に革新をもたらす存在として知られており、本作はその象徴的な成功例となっている(1億ドル超えの興行収入は同社史上初)。斬新なアイデアと文化的背景の多様性が融合した本作は、SF映画の新たな可能性を切り拓いたといえるだろう。
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