G.I.ジェーン(1997)の解説・評価・レビュー

ミリタリーアクション
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四半世紀を過ぎて見直される、”女性の挑戦” ---

1997年公開のアクションドラマ映画『G.I.ジェーン』(原題:G.I. Jane)は、リドリー・スコット監督が手がけ、デミ・ムーアが主演を務めた。物語は、アメリカ海軍の特殊部隊「Navy SEALs」の選抜訓練に志願した女性士官ジョーダン・オニール(デミ・ムーア)が、過酷な試練に立ち向かう姿を描く。軍内部の性別に関する偏見や過酷な訓練のリアルな描写が話題となった。

本作は、デミ・ムーアが役作りのために頭を丸刈りにしたことでも注目を集めたが、興行的には成功とは言えず、全世界で約4,800万ドル(当時のレートで約57億円)の興行収入にとどまった。また、アカデミー賞などの主要な映画賞での評価は得られなかったものの、過酷な軍事訓練の描写やリドリー・スコットらしい重厚な映像美は一定の評価を受けた。現在では、90年代のタフな女性像を描いた作品として再評価されることも多い。

『G.I.ジェーン』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


アメリカ海軍では、女性の戦闘部隊配属をめぐる議論が続いていた。そんな中、女性士官ジョーダン・オニール(デミ・ムーア)は、史上初めて特殊部隊「Navy SEALs」の選抜訓練に参加することとなる。彼女は「女性でも男性と同等に戦えることを証明する」という使命を背負い、極限の環境でのサバイバル訓練や、熾烈な肉体的・精神的テストに挑む。

しかし、訓練の過酷さは想像を絶し、教官のアージャイ大尉(ヴィゴ・モーテンセン)をはじめとする上官や仲間たちの多くは、彼女が耐えられず脱落することを期待していた。さらに、軍内部には「女性が特殊部隊に参加すること」への偏見が根強く、彼女は孤立しながらも必死に食らいついていく。やがて、彼女は仲間たちの信頼を得るため、そして自身の限界を超えるために、ある重大な決断を下すことになる——。

『G.I.ジェーン』の監督・主要キャスト

  • リドリー・スコット(59)監督
  • デミ・ムーア(35)ジョーダン・オニール大尉
  • ヴィゴ・モーテンセン(39)ジョン・ジェームズ・ウルゲイル曹長
  • アン・バンクロフト(66)リリアン・デヘイヴン上院議員
  • スコット・ウィルソン(55)セーラム指令官
  • ジェイソン・ベギー(37)ロイス・ハーパー少佐
  • ダニエル・フォン・バーゲン(46)セオドア・ヘイズ海軍長官
  • ジョン・マイケル・ヒギンズ(34)軍参謀総長

(年齢は映画公開当時のもの)

『G.I.ジェーン』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 3.0 ★★★☆☆
・大切な人と観たい 3.0 ★★★☆☆
・ひとりでじっくり 3.0 ★★★☆☆
・迫力のデミ・ムーア 5.0 ★★★★★
・軍事訓練のリアル 4.0 ★★★★☆

ポジティブ評価

『G.I.ジェーン』は、デミ・ムーアの体当たりの演技が際立った作品。本作の最大の魅力は、徹底した特殊部隊の訓練描写である。極限状態のサバイバル訓練はリアルに基づいて描写され、息つく間もない肉体的・精神的テスト、そして仲間や上官との緊張感あふれる関係性など、軍隊映画としての完成度が高く、過酷な環境に身を投じることで主人公が成長していく過程は、スポーツ映画のような爽快感もある。ヴィゴ・モーテンセン演じる厳格な教官との対決構造も、本作のドラマをより引き締める。

デミ・ムーアはこの役のために本格的な軍事訓練を受け、筋力を鍛え上げ、さらには象徴的なスキンヘッド姿が大きな話題に。単なる「女性が男性と同じ環境で戦う」というテーマにとどまらず、軍内部の政治や偏見といった社会的な側面も描かれている点が興味深い。本作は女性の地位向上をストレートに訴える作品というよりも、「個人の能力が性別に関係なく評価されるべき」という普遍的なメッセージを含んでいる。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

20世紀の終わりに物議を醸した話題作。肉体を鍛え上げたデミ・ムーアがこの年のゴールデンラズベリー賞(ラジー賞)でワースト主演女優賞を受賞してしまったのは、今日のジェンダー論争にも繋がる性差別的な土台に基づくのか、単に演技によるものなのか。ちなみにデミ・ムーアは前年(1996)にも『素顔のままで』により同賞を獲得している。
鍛えた女性が”フィジカル”面において男性と同等に渡り合うことについて、現実的なのかどうかという議論が後を絶たず、この時代に一定の反感を持たれた(揶揄された)。一方、現実のNavy SEALsにおいて、2021年7月に米海軍が史上初めて女性の加入資格を獲得したことを発表した。約25年という年月を経て、相応の能力を有する女性に門戸が開かれるとう映画のストーリーが現実のものとなった形だ。『G.I.ジェーン』という作品の評価は今改めて見直されており、世界の各レビューサイトにおいても総合評価は概ね高い。

などというムズカシイ話や、政治、思想的な背景を横において単にエンターテイメントとして楽しめる作品だということに疑いはない。『グラディエーター』『ハンニバル』『アメリカン・ギャングスター』などを生み出したリドリー・スコット監督の流石の手腕といったところだろう。

こぼれ話

『G.I.ジェーン』は、デミ・ムーアの大胆な役作りや、過酷な撮影環境など、多くの話題を生んだ作品だ。
まず、本作で最も注目を集めたのが、デミ・ムーアのスキンヘッド姿。彼女はこの役のために自ら髪を剃り落とし、徹底的なフィジカルトレーニングを実施。撮影中は実際の軍事訓練を受け、腕立て伏せや長距離走、さらには水中での過酷なテストにも挑んだ。ムーアは「この映画のために人生で一番体を鍛えた」と語っており、まさに肉体を張った演技だった。

また、ヴィゴ・モーテンセンが演じたウルゲイル曹長は、厳格で冷徹な教官として登場するが、撮影現場では意外にもキャストやスタッフに対して優しく、リラックスした雰囲気を作ることを心がけていたという。彼は役に入り込むことで知られる俳優だが、本作では「リアルな軍曹になりすぎると、共演者が精神的にやられてしまう」と考え、適度にユーモアを交えて撮影に臨んでいたとか。

本作の撮影に協力した米軍は、当初は全面的な支援をする予定だったが、映画のテーマが「女性兵士の扱い」に関わるため、途中で距離を置いたというエピソードもある。とはいえ、リドリー・スコット監督はリアリティを損なわないように細部にこだわり、軍事アクションの演出には徹底的にこだわった。その結果、本作の訓練シーンは、今でも「実際の特殊部隊訓練を最もリアルに描いた映画のひとつ」として語られることがある。

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