エビータ(1996)の解説・評価・レビュー

Evita アーティスト出演
アーティスト出演ミュージカル歴史ドラマ

アルゼンチンのカリスマ女性を描いたミュージカル映画 ---

1996年公開の『エビータ』(原題:Evita)は、アラン・パーカー監督が手がけたミュージカル映画で、アルゼンチンの“国民的英雄”エバ・ペロンの生涯を描く。原作は、ティム・ライス作詞、アンドリュー・ロイド・ウェバー作曲による同名のブロードウェイ・ミュージカルであり、壮大なスケールの音楽と映像で映画化された。
物語は、貧しい家庭に生まれながらも、野心と強い意志でアルゼンチンのファーストレディへと上り詰めたエバ・ペロン(マドンナ)の波乱に満ちた人生を追う。彼女はカリスマ的な魅力で民衆の支持を集めるが、一方で上流階級や軍部からの反発も受ける。

主演のマドンナは、圧倒的な存在感と歌唱力でエバ・ペロンを演じ、第54回ゴールデングローブ賞で主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞。また、主題歌「You Must Love Me」はアカデミー賞歌曲賞を獲得。興行的にも成功し、全世界で約1億4,100万ドル(当時のレートで約130億円)の収益を記録した。

『エビータ』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


1952年、アルゼンチンのファーストレディ、エバ・ペロン(マドンナ)が病に倒れ、民衆が深い悲しみに包まれる。映画は彼女の死から始まり、回想形式で彼女の生涯をたどる。

貧しい家庭に生まれたエバは、地方都市フニンで育つが、より大きな成功を夢見てブエノスアイレスへと旅立つ。女優としてのキャリアを積みながら、次第に社会的な影響力を持つようになり、やがて軍人であり政治家のフアン・ペロン(ジョナサン・プライス)と出会う。二人は結婚し、フアン・ペロンがアルゼンチン大統領に就任すると、エバはファーストレディとして民衆の支持を集めていく。
彼女は、労働者階級や貧困層を支援する福祉政策を推し進め、「庶民のためのエビータ」として国民の英雄となる。しかし、一方で上流階級や軍部からの反発を受け、政治的緊張が高まる。

映画全編がミュージカル形式で展開され、語り手であるチェ・ゲバラ(アントニオ・バンデラス)の視点を交えながら、エバ・ペロンの波乱に満ちた人生がドラマチックに描かれる。

『エビータ』の監督・主要キャスト

  • アラン・パーカー(52)監督
  • マドンナ(38)エバ・ペロン
  • アントニオ・バンデラス(36)チェ・ゲバラ
  • ジョナサン・プライス(49)フアン・ペロン
  • ジミー・ネイル(42)アグスティン・マガルディ
  • ヴィクトリア・サス(年齢不詳)ホアナ
  • ジュリアン・リットマン(年齢不詳)ブラザー・ホアン
  • オルガ・メレディス(年齢不詳)ブランカ

(年齢は映画公開当時のもの)

『エビータ』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 3.0 ★★★☆☆
・大切な人と観たい 4.0 ★★★★☆
・ひとりでじっくり 3.0 ★★★☆☆
・20世紀アルゼンチン史 5.0 ★★★★★
・マドンナの熱演に注目 5.0 ★★★★★

ポジティブ評価

『エビータ』は、壮大なミュージカルと歴史ドラマが融合した作品。ブロードウェイ・ミュージカルを原作に持つ本作は、映画ならではのスケール感を活かし、豪華な衣装や壮麗なセットとともに、エバ・ペロンの波乱に満ちた生涯を描いている。
主演のマドンナは、これまでのポップスターとしてのイメージを覆し、エバ・ペロンの野心を力強く演じた。アントニオ・バンデラス演じるチェ・ゲバラは、視聴者の視点となる重要な役割で、エバ・ペロンの生涯を俯瞰しながら、時に批判的な立場で物語を進める語り手として機能する。

音楽面では、映画のために新たに書き下ろされた「You Must Love Me」が、マドンナの繊細な歌声と相まって感動を生み出し、アカデミー賞歌曲賞を受賞するほどの評価を得た。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

『エビータ』は、ほぼ全編が歌で進行する「オペラ形式」のため、通常の映画のような台詞のやり取りを期待すると、最初は戸惑うかもしれない。ミュージカル映画に慣れていない視聴者にとっては、ストーリーを追うのがやや難しく感じられる部分もある。
海外レビューでは、エバ・ペロンをヒスパニック系が演じていないことに対する不満がちらほら。

こぼれ話

「エビータ」の愛称で知られるエバ・ペロン(1919-1952)は今でもアルゼンチンで人気が高く、エノスアイレスのエビータ博物館 で彼女の遺品が展示されている。没後60年となる2012年には、エバの肖像画が描かれた100アルゼンチン・ペソ紙幣が発行された。

エバ・ペロンの肖像

紙幣に描かれるエバ・ペロン

主演のマドンナは、当初からエバ・ペロン役に強い関心を持ち、製作陣に熱心にアピール。最終的に役を獲得すると、自ら監督のアラン・パーカーに手紙を書き、役作りへの意気込みを伝えたという。さらに、彼女は撮影に先立ってアルゼンチンを訪れ、歴史資料を読み込み、スペイン語の発音やエバの話し方を研究するなど、徹底的な準備を行った。映画の中で彼女が着用した衣装は90着以上あり、その多くが実際のエバ・ペロンの服装を再現したものだった。

アルゼンチン国内での撮影は決してスムーズなものではなかったという。エバ・ペロンの評価は今日でも賛否が分かれるため、映画の撮影に反対する声も多く、ブエノスアイレスでのロケーション撮影は緊張感に包まれていた。特に、大統領府カサ・ロサダのバルコニーで「Don’t Cry for Me Argentina」を歌うシーンの撮影時には、現地の一部の市民から抗議の声が上がったという。しかし、最終的には歴史的な建物での撮影が許可され、映画の象徴的なシーンが誕生することとなった。

アントニオ・バンデラス演じるチェは、実在の革命家チェ・ゲバラをモデルにしたキャラクターだが、映画の中では彼が実際にエバ・ペロンと関わったわけではなく、「庶民の視点から物語を語る存在」として機能している。バンデラスはそれまでミュージカル経験がなかったものの、情熱的な演技と歌唱力でこの役を見事に演じきり、彼のキャリアにおいても新たな挑戦となった。

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