ギャングがビジネスマンに転身?スタローンがコメディに挑戦 ---
1991年公開の『オスカー』(原題:Oscar)は、ジョン・ランディス監督が手がけたクライム・コメディ映画で、シルヴェスター・スタローンがコメディに挑戦した異色の作品。フランスの舞台劇『オスカー』を原作とし、禁酒法時代のギャングのボスが「堅気のビジネスマン」へと転身しようとするドタバタ劇を描く。
主人公スナップス・プロヴォローネは、亡き父の最期の願いを聞き入れ、裏社会から足を洗うことを決意する。しかし、その日から彼の人生は大混乱。部下、銀行家、警察、さらには娘を名乗る謎の女性までが次々と現れ、家の中は大騒動に。さらに、行き違いと勘違いが重なり、思わぬ事態へと発展していく。
本作は、これまでアクション映画のイメージが強かったスタローンがコメディに挑戦したことでも話題となった。しかし、スタローンのシリアスな演技と映画全体の軽快なコメディのトーンが噛み合わず、公開当時は批評家から厳しい評価を受けた。一方で、テンポの良いセリフ回しや豪華キャスト陣のコミカルな演技を楽しむファンも多い作品。
『オスカー』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
禁酒法時代のアメリカ。シカゴの大物ギャング、スナップス・プロヴォローネ(シルヴェスター・スタローン)は、死の間際の父に「堅気のビジネスマンになれ」と誓いを立てる。翌朝から彼は裏社会から足を洗い、正真正銘の紳士として生きることを決意する。しかし、”普通の生活”がこれほど難しいとは、彼はまだ知らなかった。
ビジネスマンへの転身を進める最中、部下の会計士アンソニー(ヴィンセント・スパーノ)がやってきて、「娘さんと結婚したい」と言い出す。驚いたスナップスだったが、「えっ、うちの娘!?」と戸惑っているうちに、さらに衝撃の事実が発覚する。アンソニーは会社の金を横領し、その金を持参金として娘との結婚を申し込もうとしていたのだ。スナップスは激怒しながらも話をまとめようとするが、そこへ本物の娘リサ(マリサ・トメイ)が「私、別の男性と駆け落ちする!」と宣言。
次々と現れる”娘を名乗る女性”、金を巡るドタバタ、さらには警察が家を監視しているという噂まで飛び交い、スナップスの新しい人生は朝からカオス状態に。右往左往する彼のもとに、銀行家、仕立屋、元部下、さらには謎のカバンを抱えた男まで押しかけ、事態はどんどんややこしくなっていく。
果たしてスナップスは無事にギャングからビジネスマンへ転身できるのか? そして、最後に本当の娘は誰なのか? 混乱と勘違いの連続が巻き起こる中、物語は予測不可能な結末へと突き進んでいく。
『オスカー』の監督・主要キャスト
- ジョン・ランディス(41)監督
- シルヴェスター・スタローン(44) スナップス・プロヴォローネ
- オーネラ・ムーティ(36) ソフィア・プロヴォローネ
- マリサ・トメイ(26) リサ・プロヴォローネ
- ヴィンセント・スパーノ(29) アンソニー・ロッセーノ
- ピーター・リガート(43) オルド・プリモータ
- ティム・カリー(45) ソーンダイク博士
- カートウッド・スミス(48) ケルシー警視
- ドン・アメチー(82) ジュゼッペ神父
(年齢は映画公開当時のもの)
『オスカー』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 4.0 ★★★★☆ |
・大切な人と観たい | 2.0 ★★☆☆☆ |
・ひとりでじっくり | 3.0 ★★★☆☆ |
・スタローンの挑戦 | 5.0 ★★★★★ |
・古き良き喜劇 | 4.0 ★★★★☆ |
ポジティブ評価
『オスカー』は、クラシックなドタバタ喜劇のスタイルを取り入れた、テンポの良いコメディ作品である。ジョン・ランディス監督ならではの軽快な演出と、90分間ノンストップで繰り広げられる勘違いと混乱の連続は、まるで舞台劇を観ているような感覚を味わえる。次々と登場する個性的なキャラクターがスナップス・プロヴォローネ(シルヴェスター・スタローン)を翻弄し予想外の展開が続く構成は今見ると新しい。ドアの開け閉めだけで笑いを取るクラシックななコメディスタイルが随所に活かされている。
スタローンは、、ギャングのボスながらもどこか間の抜けた愛すべきキャラクターを作り上げた。彼の誇張されたリアクションや、周囲の騒動に振り回される姿は、普段の寡黙でタフなイメージとは真逆で新鮮に映る。
脇役も手堅いキャスティング。マリサ・トメイは、お嬢様育ちだが自由奔放なリサ役で存在感を発揮し、ティム・カリー演じる家庭教師ソーンダイク博士の几帳面なキャラクターとの対比が笑いを生む。ドン・アメチーやカートウッド・スミスといったベテラン俳優たちも、それぞれの持ち味を生かしながら、混乱に拍車をかける役割をしっかり果たしている。
『オスカー』は、軽快なセリフの応酬と、古典的コメディの楽しさを詰め込んだ作品であり、テンポの良い喜劇が好きな人にはうってつけの一本。「アクションなしのスタローン」を観るというだけでも、一見の価値はあるかもしれない。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
公開当時、興行として失敗したこの映画。確かにこの古いコメディスタイルが現代の視聴者に合うかどうかは評価が分かれる。舞台が1930年代、フランスの舞台劇を元にしているところで、1991年よりももっと古い映画のようにも見える。笑えるかどうかという点では微妙なところだが(人による)、知的な脚本の楽しい映画である。テンポが早く、会話の行き違いや勘違いを繰り返す展開の末、最期は綺麗にまとまる良作。批評家から散々な評価を受けたとされる映画だが現在は名誉を取り戻している。
次々と新たな登場人物が現れ、関係性がややこしくなっていくため、途中で「えっ、今この人は何の話をしてるんだっけ?」と混乱する場面が正直あるかもしれない。英語圏の視聴者は、スタローンが棒読みだと指摘するが、どうだろうか。
こぼれ話
『ロッキー』や『ランボー』シリーズで筋肉とアクションの象徴となったスタローンによる挑戦的な作品。しかし、散々な評価を受けて結果的に再びアクション路線へ戻ることになったのは、彼にとって複雑な心境だったかもしれない。
監督のジョン・ランディスは、『ブルース・ブラザーズ』(1980)や『星の王子 ニューヨークへ行く』(1988)といった名作コメディを手がけた人物だが、本作では「舞台劇らしいドタバタ感」にこだわった。そのため、映画のほぼ全編が屋内で進行し、登場人物たちがひたすら入れ替わり立ち替わり騒ぎ続ける構成になっている。しかし、このスタイルは視聴者の好みが分かれ、「舞台劇の魅力が映画でも活きている」と評価する声がある一方で、「ずっと部屋の中でドタバタしてるだけ」と感じる人もいた。
ちなみに、本作の原作であるフランスの舞台劇『オスカー』は、1967年にルイ・ド・フュネス主演で映画化されており、そちらは当時フランス流のドタバタコメディとして高い評価を得ていた。
マリサ・トメイにとっては、本作が彼女のキャリア初期の代表作の一つとなった。後に『いとこのビニー』(1992)でアカデミー賞助演女優賞を受賞し、実力派女優としての地位を確立するが、本作ではまだ若手女優らしい弾けた演技を披露しており、その個性が光っている。また、家庭教師役のティム・カリーは、本作の中で最もテンションの高いキャラクターの一人として、持ち前のコメディセンスを発揮。彼の独特の喋り方と表情は、作品全体のカオスな雰囲気をさらに盛り上げている。
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