ドライビング Miss デイジー(1989)の解説・評価・レビュー

Driving Miss Daisy ヒューマンドラマ
ヒューマンドラマ

史上最高齢の主演女優賞と、モーガン・フリーマンの出世作 ---

1989年公開の『ドライビング Miss デイジー』(原題:Driving Miss Daisy)は、ブルース・ベレスフォード監督によるヒューマンドラマ映画で、南部の人種問題を背景に、白人女性と黒人運転手の交流を描いた作品。アルフレッド・ウーリーの同名舞台劇を原作とし、主演はジェシカ・タンディとモーガン・フリーマン。
物語は、1948年のアメリカ・ジョージア州アトランタを舞台に、気難しい未亡人デイジーと、彼女の雇われ運転手ホークが、長年にわたる関係を築いていく様子を描く。最初は互いに距離を置いていた二人だったが、次第に信頼と友情を育んでいく。

本作は、人種差別を直接的に描くのではなく、個人同士の絆を通じて社会の変化を映し出す点が特徴的。温かみのあるストーリーと繊細な演技が高く評価され、 1990年のアカデミー賞では作品賞主演女優賞(ジェシカ・タンディ)を含む4部門を受賞 した。また、モーガン・フリーマンの演技も称賛され、彼のキャリアにおける代表作の一つとなった。

『ドライビング Miss デイジー』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


1948年、ジョージア州アトランタ。裕福なユダヤ人の未亡人デイジー・ワーサン(ジェシカ・タンディ)は、運転に失敗して車を破損させてしまう。息子のブーリー(ダン・エイクロイド)は母の安全を考え、新しく運転手を雇うことを決める。こうして雇われたのが、温厚な黒人男性ホーク・コルバーン(モーガン・フリーマン)だった。
しかし、頑固なデイジーは「自分はまだしっかりしている」と主張し、ホークの存在を頑なに拒む。ホークも無理に距離を詰めようとはせず、忍耐強くデイジーに接する。やがて、彼の誠実さや優しさが次第にデイジーの心を開かせ、二人は少しずつ信頼関係を築いていく。

時は流れ、公民権運動が広がる中で、彼らの関係も変化していく。社会の分断や偏見が根強く残る中、デイジーとホークは長年にわたり支え合い友情を深めていくーーーー。

『ドライビング Miss デイジー』の監督・主要キャスト

  • ブルース・ベレスフォード(49)監督
  • ジェシカ・タンディ(80) デイジー・ワーサン
  • モーガン・フリーマン(52) ホーク・コルバーン
  • ダン・エイクロイド(37) ブーリー・ワーサン
  • パティ・ルポーン(40) フローリー・ワーサン
  • エスター・ローレ(75) イダ・ワーサン
  • ジョー・セネック(72) ミス・マッカーサー
  • ウィリアム・ホールマン(60) テルマ・ラウ

(年齢は映画公開当時のもの)

『ドライビング Miss デイジー』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 2.0 ★★☆☆☆
・大切な人と観たい 5.0 ★★★★★
・ひとりでじっくり 4.0 ★★★★☆
・優しい会話劇 5.0 ★★★★★
・名女優&名男優 5.0 ★★★★★

ポジティブ評価

『ドライビング Miss デイジー』は、静かに心を打つヒューマンドラマとして今なお多くの人々に愛される。ストーリーの描き方は控えめで上品。アメリカ南部の人種問題を扱いながらも、直接的な対立や衝突を前面に出すのではなく個人同士の関係を通じて社会の変化を映し出すという手法をとっている。
ジェシカ・タンディは気難しくプライドの高いデイジーの変化を繊細に演じ、モーガン・フリーマンは温厚で忍耐強いホークを、優しさとユーモアをにじませて表現した。車の中という限られた空間で交わされる会話を通じて、少しずつ変化していく二人の関係が物語の核となる。ジョージア州の美しい風景とともに描かれる時間の流れは、どこかノスタルジーを感じさせ、映画全体に優雅な空気をもたらす。

アカデミー賞で作品賞を含む4部門を受賞したことが示すように、本作は映画としての地位を獲得。ジェシカ・タンディは、当時80歳で主演女優賞を受賞し、史上最高齢でのオスカー獲得女優として映画史に名を刻んだ(男優賞の歴代最高齢は2021年『ファーザー』のアンソニー・ホプキンス83歳)。モーガン・フリーマンも本作での評価をきっかけに、その後ハリウッドでの地位を確立することとなった。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

このアカデミー作品は、称賛の一方で長年にわたって批判にも晒されてきた。
批判の対象は人種差別表現そのものにある。それを描いた作品といえばそれまでだが、その後の関係の変化を差し引いたとしてもデイジーのホークに対する接し方に顔をしかめる視聴者は多い。ホークは終始温厚で、どんなにデイジーに冷たく扱われても反発せず忍耐強く付き合い続けるが、その人物像があまりにも「良き従者」として描かれているのは白人視点の「良い黒人像」であり、舞台が1948年だと理解した上でも不当に感じる視聴者が少なからずいたようだ。

繰り返しになるが、映画はアメリカ南部の人種差別を意図して描いており、それを是認しているわけでは毛頭ない。ただ冷静に考えると、日本人がどこか外国で差別を受けていたとして、日本人の従者が罵声を浴びながらも終始温厚で、経年の果てに最後に分かり合えたというプロットの映画を観て「ああ、よかった~」とはやはりならないかもしれない。視点を変えるとまた違った絵が見えてくる。これらの理由から、同年の『ニュー・シネマ・パラダイス』こそが作品賞に相応しかったという声も一定数存在する。

しかしながら、俳優陣の演技と、そこに流れる美しい風景、会話劇の妙など、『ドライビング Miss デイジー』が優れた作品であることに異論はない。映画が現実を映し出すものであるならば、上記の批判的な要素さえも、ある時代の空気を捉えた作品として歴史的価値を見出すことも出来る。一見の価値ありである。

こぼれ話

『ドライビング Miss デイジー』は、もともと 1987年にオフ・ブロードウェイで上演された舞台劇が原作であり、映画化される前から高い評価を受けていた。実は、ホーク・コルバーン役のモーガン・フリーマンは、舞台版でも同じ役を演じており 、その自然な演技が評価されて映画版への続投が決まった。彼はすでに50代だったが、この作品をきっかけにハリウッドでの地位を確立し、後の『ショーシャンクの空に』(1994)や『セブン』(1995)へと続く大ブレイクの礎を築いた。

一方で、主人公デイジーを演じた ジェシカ・タンディは当時80歳 で、映画史上最高齢でのアカデミー賞主演女優賞受賞という快挙を成し遂げた。彼女は『鳥』(1963)など数々の作品に出演してきたベテラン女優だったが、本作での繊細な演技が決定打となり、キャリアの集大成ともいえる成功を収めた。余談だが、彼女の実生活の夫は『コクーン』(1985)で知られる俳優 ヒューム・クローニンであり、映画界の名優夫婦としても有名だった。

また、本作のプロデューサーである リリアン・ギッシュ(『國民の創生』〈1915〉の主演女優)に、デイジー役をオファーしたという逸話もある。しかし、当時すでに90代だったギッシュは出演を辞退し、その結果タンディが抜擢されたという経緯がある。もしギッシュが演じていたら、さらに映画史的な意味を持つ作品になっていたかもしれない。

興味深いのは、本作が アカデミー賞作品賞を受賞したにもかかわらず、監督賞にはノミネートすらされなかったという点である。ブルース・ベレスフォード監督の手腕は高く評価されたものの、なぜか候補には挙がらなかった。このケースは非常に珍しく、現在でも「作品賞を受賞したのに監督賞にノミネートされなかった作品」として語られることが多い。

また、映画のロケ地が観光地化する現象はアメリカあるあるだが、本作も例外ではない。舞台であるジョージア州アトランタのロケ地には、現在も映画ファンが訪れることがあり、特にデイジーの家として使用された邸宅は観光スポットのひとつになっている。物語の中心となるデイジーの車も、時代を象徴するアイコンとして印象深く、多くの映画ファンにとって忘れられない存在だ。

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