恋人たちの予感 (1989)の解説・評価・レビュー

When Harry Met Sally... ラブコメディ
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『恋人たちの予感』(1989)は、 ロブ・ライナー監督 、 ノーラ・エフロン脚本 によるロマンティック・コメディの名作。主演は ビリー・クリスタル と メグ・ライアン 。「男女の友情は成立するのか?」というテーマを軸に、長年にわたる二人の関係をユーモラスかつ温かく描く
物語は、大学卒業後の ハリー(ビリー・クリスタル) と サリー(メグ・ライアン) が、シカゴからニューヨークへ向かう長距離ドライブを共にするところから始まる。初対面の二人は意見が合わず、気まずい別れを迎えるが、その後10年の間に偶然再会を繰り返し、次第に友情を築いていく。しかし、お互いに異性としての意識が芽生え始めたとき、彼らの関係は微妙に揺れ動く。

脚本を担当したノーラ・エフロンは、本作のリアルでウィットに富んだ会話劇を生み出し、その後のロマンティック・コメディのスタイルに大きな影響を与えた。特に、メグ・ライアンが演じた 「有名なレストランのシーン」 は、映画史に残る名場面の一つとなっている。

本作は、ロマンティック・コメディとしては異例の高評価を受け、 ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞(BAFTA)などにノミネート された。また、現代でも多くの映画ファンに愛され続けており、 「理想的な恋愛映画」の一つ として評価されている。

『恋人たちの予感』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


1977年、シカゴ大学を卒業した ハリー・バーンズ(ビリー・クリスタル) と サリー・オルブライト(メグ・ライアン) は、偶然の縁で一緒にニューヨークまで車で向かうことになる。長距離ドライブの間、ハリーは 「男女の友情は成立しない」 という持論を展開し、恋愛観の違いから二人は衝突。旅の終わりには、お互いにもう二度と会うことはないだろうと思って別れる。

それから5年後、空港で偶然再会した二人は、それぞれ別の恋人と付き合っていたが、特に親しくなることはなく再び別れる。さらに5年後、ニューヨークの書店で再び出会ったハリーとサリーは、今度はお互いに失恋の傷を抱えていた。そこから二人は、恋愛相談をし合う気楽な友人関係を築いていく。

長い年月をかけて、友情を育んできたハリーとサリーだったが、次第に互いを異性として意識し始め、二人の関係は微妙に揺れ動く。恋人未満の関係を続ける彼らは、果たして本当の気持ちに気づくことができるのか——?

『恋人たちの予感』の監督・主要キャスト

  • ロブ・ライナー(42)監督
  • ビリー・クリスタル(41) ハリー・バーンズ
  • メグ・ライアン(27) サリー・オルブライト
  • キャリー・フィッシャー(33) マリー
  • ブルーノ・カービー(40) ジェス
  • スティーヴン・フォード(33) ジョー
  • リサ・ジェーン・パースキー(31) アリス

(年齢は映画公開当時のもの)

『恋人たちの予感』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 3.0 ★★★☆☆
・大切な人と観たい 5.0 ★★★★★
・ひとりでじっくり 3.0 ★★★☆☆
・ラブコメの教科書 5.0 ★★★★★
・四季のニューヨーク 4.0 ★★★★☆

ポジティブ評価

『恋人たちの予感』は、 ロマンティック・コメディの教科書として今なお高い評価を受けている。最大の魅力はテンポの良い会話劇とリアルな恋愛観で、その描写は古典となった今でも共感を呼ぶ。

ノーラ・エフロンの脚本の巧みさが際立つ本作の会話は、単なるセリフの応酬ではなく男女の恋愛観の違いや人生の選択をユーモラスに描き、まるで実際のカップルの会話を聞いているような心地よさがある。ハリーとサリーが繰り広げる「男女の友情は成立するのか?」という議論は、現代の私たちの生活の中でも定番の話題ではないだろうか。映画の多くのロマンスが「一目惚れ」や「劇的な運命」によって展開するのに対し、本作は 長年の友情が徐々に愛へと変わる過程を丁寧に描いている。

主演の ビリー・クリスタルとメグ・ライアンの相性も抜群。ビリーは軽妙なユーモアを交えつつも時折見せる繊細な感情表現が魅力的で、メグは完璧主義者でありながらどこかチャーミングなサリーを自然体で演じている。

ニューヨークの美しい風景とジャズの名曲たちもまた、本作の魅力を引き立てている。四季折々のマンハッタンを背景にしたロマンチックな演出は、まるで観客自身がニューヨークの街を歩いているかのような気分にさせてくれるし、ハリー・コニック・Jr.によるジャズの楽曲も作品に洗練された雰囲気を与えている。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

この作品のネガティブな評論としては、男性主人公ハリー・バーンズについて海外批評家が「マンスプレイナー」と指摘しているのが気になった。マンスプレイニングとは、男性が女性よりも知識があると前提して教えるような口調で話すことを指し、場合によっては見下した態度とも解釈される。現代的な視点であるが、ハリーに対してそのような感情を抱く声も一定数存在する。
1980年代は現在よりも「上昇婚」志向が強い時代で、こうしたやりとりが自然に受け入れられていた背景もある。気になるほどではないが、視点によってはそのような側面を持つ作品ともいえる。

こぼれ話

本作の脚本を担当したノーラ・エフロンは、ロブ・ライナー監督との会話をもとにハリーのキャラクターを作り上げた。ライナー自身が離婚を経験しており、男性の恋愛観や友情に対する考えをエフロンに語るうちに、「男女の友情は成立するのか?」というテーマが生まれた。このため、ハリーの皮肉っぽいユーモアや恋愛に対するシニカルな考え方には、ライナー監督自身の価値観が色濃く反映されている。
劇中でハリーとサリーが何度も再会する展開は、偶然に頼ったものではなく、「人生の中で何度も交錯しながら関係が深まる」という現実的な描写を意識したものだった。エフロンは、恋愛とは「一瞬の出会いで決まるものではなく、時間をかけて成熟するもの」という考えを持っており、それが本作のストーリーに反映されている。

主演のビリー・クリスタルとロブ・ライナーは私生活でも親しい友人であり、撮影中の即興のやり取りがそのまま採用されたシーンが多いという。ハリーとサリーが電話越しに同じ映画を観るシーンは、クリスタルのアドリブによるものだった。クリスタルはコメディアンとしての才能を発揮し、台本にないセリフを即興で付け加えることがたびたびあったが、ライナー監督はそれを積極的に取り入れた。
メグ・ライアン演じるサリーがレストランで繰り広げるシーンは、アイデアを出したのはメグ・ライアン自身だった。脚本には「サリーがハリーに対して大胆な主張をする」としか書かれていなかったが、ライアンが「こういう方法で表現したらどう?」と提案したところ、ライナー監督は大喜びで採用。その結果、レストランの女性客が放った「私も同じものをください(I’ll have what she’s having.)」というセリフが生まれた。このセリフは、実は監督の母親が演じたエキストラによるものだったというのも、映画ファンの間ではよく知られている。

公開後、本作は批評家から高評価を受け、特に「リアルな恋愛の描写」が称賛された。『ユー・ガット・メール』や『ラブ・アクチュアリー』といった後の作品にも、本作のエッセンスが色濃く受け継がれていると評論されることが多い。

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