1980年代の傑作ロードムービー ---
1988年公開の『レインマン』(原題:Rain Man)は、 バリー・レヴィンソン監督 によるヒューマンドラマで、主演は ダスティン・ホフマン と トム・クルーズ。自閉症の兄とその弟が旅を通じて絆を深めていく物語であり、感動的かつユーモラスな展開が特徴の作品である。
物語は、野心的な若手ビジネスマン チャーリー・バビット(トム・クルーズ) が、亡き父の遺産を期待して遺言を確認するが、そこに記されていたのは 彼の存在すら知らなかった兄、レイモンド(ダスティン・ホフマン) に全財産が相続されるという事実だった。レイモンドは サヴァン症候群を持ち、驚異的な記憶力と計算能力を備えているが日常生活には大きな制約がある。納得のいかないチャーリーは、遺産の管理権を取り戻すため、レイモンドを連れ出し、アメリカ横断の旅に出ることになる。
本作は、サヴァン症候群の認知を広めるきっかけとなり、公開当時大きな話題を呼んだ。第61回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞(ダスティン・ホフマン)を受賞 し、特にホフマンのリアリティあふれる演技は絶賛された。また、トム・クルーズもそれまでのアイドル的なイメージを脱却し、演技派俳優としての評価を高めることとなった。ロードムービーとしての要素と感動的な兄弟の物語が融合し、今なお多くの人々に愛される名作である。
『レインマン』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
ロサンゼルスで輸入車販売業を営む チャーリー・バビット(トム・クルーズ) は、成功を夢見る野心的な青年。しかし、経営は順調とは言えず、資金繰りに苦しんでいた。そんなある日、疎遠だった父の死を知らされ、遺産相続のために故郷へ戻る。だが、父の莫大な財産は、チャーリーではなく存在すら知らなかった彼の兄、レイモンド(ダスティン・ホフマン) に全額相続されることになっていた。
レイモンドは サヴァン症候群 を持ち、並外れた記憶力や計算能力を持つ一方で、対人関係が苦手であり、規則正しい生活を強く求める。遺産を手に入れるために納得のいかないチャーリーは、レイモンドを精神病院から無理やり連れ出し、彼を利用しようとする。しかし、レイモンドは飛行機を極端に怖がるため、二人はやむを得ず車でのアメリカ横断の旅を始めることになる。
旅の途中、チャーリーはレイモンドの独特な習慣やこだわりに苛立ちを覚えつつも、次第に兄の存在を理解し、深い絆を感じるようになる。やがて旅を通じて変化していく自分自身の気持ちにも気づき始める。
『レインマン』の監督・主要キャスト
- バリー・レヴィンソン(46)監督
- ダスティン・ホフマン(51) レイモンド・バビット
- トム・クルーズ(26) チャーリー・バビット
- ヴァレリア・ゴリノ(32) スザンナ
- ジェリー・モレン(54) ジョン・ムーニー医師
- ジャック・マードック(61) ミスター・バビット(回想シーン)
- マイケル・D・ロバーツ(41) バーニー
- ルシンダ・ジェニー(34) アイリス
(年齢は映画公開当時のもの)
『レインマン』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 2.0 ★★☆☆☆ |
・大切な人と観たい | 3.0 ★★★☆☆ |
・ひとりでじっくり | 5.0 ★★★★★ |
・ダスティン・ホフマンの名演技 | 5.0 ★★★★★ |
・「サヴァン症候群」 | 4.0 ★★★★☆ |
ポジティブ評価
『レインマン』は、兄弟の絆を描いた感動的なロードムービー であり、ヒューマンドラマとして非常に完成度の高い作品である。本作が評価される理由のひとつは、繊細な演技を披露したダスティン・ホフマン(アカデミー主演男優賞を受賞)。彼は役作りのため、サヴァン症候群の実際の患者と交流することでリアルなキャラクターを作り上げた。彼が演じるレイモンドは、単なる「特別な才能を持つ人物」ではなく、細かなこだわりや繊細な感情を持つ生身の人間として描かれている。
一方のトム・クルーズは当時、『トップガン』などの作品でアイドル的な人気を誇っていた彼だが、本作では自己中心的だった男が旅を通じて変化していく姿を自然に演じ、新たな演技の幅を披露した。チャーリーが最初はレイモンドを利用しようとしながらも、次第に兄弟としての愛情を抱いていく過程が感動を呼ぶ。
本作のもう一つの魅力は、アメリカ横断のロードムービーとしての側面。旅をしながら少しずつ心を通わせていく兄弟の姿は、ユーモアと成長の物語としても楽しめる。また、レイモンドがカジノで驚異的な計算能力を発揮するシーンなど、エンターテイメント性も魅せる。
『レインマン』はサヴァン症候群への理解を広めるきっかけとなった作品でもある。それまで一般にはあまり知られていなかったこの症状が本作を通じて広く認識されるようになり、後の映画やドラマにも影響を与えた。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
この映画の欠点を見つけるのは難しい。ただ、海外レビューサイトを眺めていると「平凡」「退屈」と評する意見もいくつか散見される。
その視点から『レインマン』の構成を改めて考えると、本作は主に、ダスティン・ホフマンの演技力とトム・クルーズの魅力によって成り立っていると言える。もしホフマンの演技が平凡に映り(その後、同様のキャラクターを演じた作品が増えたため、既視感を覚える可能性もある。もっとも、ホフマンがその先駆けであるのだが‥)、さらにトム・クルーズに全く関心がなければ、やや小難しいテーマを扱った平均的な旅の映画と受け取られるかもしれない。
大きなアクションがあるわけでなく、繊細な心の動きを描いた作品のため、そういう点においても退屈と感じる人は中にはいるかもしれない。
こぼれ話
本作のレイモンド・バビットのキャラクターは、実在のサヴァン症候群の人物であるキム・ピークをモデルにしている。キム・ピークは、驚異的な記憶力を持ち、9000冊以上の本を暗記していたが、一方で日常生活には介助が必要だった。ダスティン・ホフマンは役作りのために彼と何度も面会し、彼の仕草や話し方を研究した。しかし、レイモンドのキャラクターには映画的な脚色が加えられており、特にカジノのシーンのような計算能力は、キム・ピーク自身の能力とは異なる部分もある。
一方で、トム・クルーズの貢献も見逃せない。当時の彼は青春映画で人気を博していたが、本作では 自己中心的な青年から成長する姿を繊細に演じ、演技派俳優としての評価を高めた。ホフマンが絶賛される一方で、トム・クルーズの演技も本作の成功に大きく貢献していると、監督や批評家からも評価されている。
撮影中、ダスティン・ホフマンとトム・クルーズは長時間を共に過ごし、実際に兄弟のような関係を築いたという。クルーズは後に「ダスティンが演じるレイモンドのように、彼には何度も忍耐を試された」と冗談交じりに語っている。二人の自然なやりとりは、こうした撮影時の関係性が反映された結果とも言える。
映画の中で二人が訪れるカジノのシーンは、実際にネバダ州のカジノで撮影された。撮影当時、トム・クルーズとダスティン・ホフマンがカジノのフロアを歩いていると、本物のディーラーたちが彼らを見て「お客様、ゲームに参加されますか?」と声をかけたという。どうやら、スタッフと俳優の区別がつかなかったらしい。
みんなのレビュー