名優たちの競演!禁酒法時代を駆け抜けるクライム・サスペンス ---
『アンタッチャブル』(原題:The Untouchables)は、1987年に公開されたアメリカ映画である。監督はブライアン・デ・パルマ、主演はケビン・コスナーが務めた。物語は、禁酒法時代のシカゴを舞台に、財務省特別捜査官エリオット・ネスがギャングのボス、アル・カポネに立ち向かう姿を描いている。ネスは、ベテラン警官マローン、射撃の名手ストーン、税理士ウォレスとともに「アンタッチャブル」と呼ばれるチームを結成し、カポネの犯罪組織に挑む。
本作は第60回アカデミー賞で助演男優賞(ショーン・コネリー)を受賞し、作曲賞(エンニオ・モリコーネ)、美術賞、衣装デザイン賞にもノミネートされた。日本では1987年10月3日に公開され、ギャング映画の名作として高く評価されている。
『アンタッチャブル』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
1930年代、禁酒法が施行されるシカゴでは、アル・カポネ(ロバート・デ・ニーロ)率いる犯罪組織が密造酒の流通を牛耳り、警察の腐敗が蔓延していた。財務省特別捜査官エリオット・ネス(ケビン・コスナー)は、カポネを摘発するためにシカゴへ赴任するが、初めの捜査は警察内部の裏切りによって失敗に終わる。
そんな中、ネスは正義感の強いベテラン警官ジム・マローン(ショーン・コネリー)と出会い、彼の助言を受けて信頼できる仲間を集める。銃の名手である新人警官ジョージ・ストーン(アンディ・ガルシア)、会計の知識を持つオスカー・ウォレスを加え、4人のチーム「アンタッチャブル」を結成。カポネの密輸ルートを追い、摘発を進める。
次第に組織に打撃を与えていくネスたちだったが、カポネ側も報復に動き、激しい攻防が繰り広げられる。汚職と暴力が渦巻くシカゴで、ネスたちは信念を貫き通し、カポネを法の下に裁くことができるのか。彼らの戦いは次第に過酷なものへと変わっていく。
『アンタッチャブル』の監督・主要キャスト
- ブライアン・デ・パルマ(47)監督
- ケビン・コスナー(32)エリオット・ネス
- ショーン・コネリー(57)ジム・マローン
- アンディ・ガルシア(31)ジョージ・ストーン
- チャールズ・マーティン・スミス(34)オスカー・ウォレス
- ロバート・デ・ニーロ(44)アル・カポネ
- ビリー・ドラゴ(41)フランク・ニッティ
- パトリシア・クラークソン(28)キャサリン・ネス
(年齢は映画公開当時のもの)
『アンタッチャブル』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 4.0 ★★★★☆ |
・大切な人と観たい | 2.0 ★★★☆☆ |
・ひとりでじっくり | 4.0 ★★★★☆ |
・豪華キャスト | 5.0 ★★★★★ |
・善と悪の対決 | 5.0 ★★★★★ |
ポジティブ評価
禁酒法時代のシカゴを舞台に、正義と腐敗の対決をドラマチックに描いた『アンタッチャブル』。クラシックなクライム・サスペンスの要素を持ちながら、”善”のチームワークで”悪”を追い詰めるプロットが他のギャング映画と一線を画し、目を引くものがある。
キャスト陣の魅力が特に高評価。経験豊富な刑事を堂々と演じ、アカデミー助演男優賞を獲得したショーン・コネリーは元より、正義感に燃える捜査官のケビン・コスナー、役作りのために実際に体重を増やし、カポネ特有の話し方や仕草を徹底的に研究したロバート・デニーロ、銃の名手を演じたアンディ・ガルシアなど、それぞれがオスカー級の演技であり、どの役者を切り取っても見ごたえがある。それぞれの一瞬一瞬が強烈な印象を残す。
本作にはいくつかの象徴的なシーンが存在するが、中でもユニオン駅での銃撃戦は映画史に残る名場面。階段を転がるベビーカーを背景に繰り広げられるスローモーションの銃撃戦は、エイゼンシュテインの『戦艦ポチョムキン』へのオマージュとも言われ、デ・パルマらしい視覚的なこだわりが光る。
サントラを手掛けたのは、イタリアの巨匠エンニオ・モリコーネ。静かな緊張感と激しいアクションのメリハリを演出した音楽が映画の雰囲気を格上げしている。娯楽映画としても一級品である。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
この映画の弱点は、主にプロットにある。正義感に燃える主人公の人物像は比較的単純で、内面的な葛藤や成長の過程が深く掘り下げられているとは言い難い。「善」の立場に重点を置いたストーリーは劇的な展開に欠け、中には退屈と感じる視聴者もいる。ロバート・デ・ニーロのアル・カポネは圧倒的な存在感を示しているものの登場シーンが意外と少なく、「悪」側の描写をもう少し観たかったという視聴者もいるのではないだろうか。
実在の人物を扱うものの、脚色の多さが賛否を分ける要因の一つとなっている。実際のエリオット・ネスの活動とは異なる演出が多く、史実に忠実な犯罪映画を求めるとやや違和感を覚える可能性がある。映画としての娯楽性を重視しているため、細かい事実関係よりも、ドラマチックな構成が優先されている点は留意しておくべきだろう。あるいは、そのあたりのムズカシイことを考えず、クラシックな勧善懲悪のドラマとして楽しむのが正しい鑑賞スタイルかもしれない。
こぼれ話
『アンタッチャブル』は、実在の財務省特別捜査官エリオット・ネスのチームをもとにした作品だが、映画では多くの脚色が加えられている。実際の「アンタッチャブル」はもっと大人数のチームであり、ネス自身もそこまで劇的な活躍をしたわけではなかった。しかし、映画では物語をよりドラマチックにするため、ネスを中心とした少数精鋭のチームに再構成され、よりシンプルかつ熱い物語へと仕上げられた。
ロバート・デ・ニーロが演じたアル・カポネは、映画史に残る悪役の一人として知られているが、その役作りにも並々ならぬこだわりを見せた。デ・ニーロはカポネの外見を再現するために実際に体重を増やし、さらに彼が当時身につけていたシルクの下着を再現するために、衣装の下に本物のシルクのアンダーウェアを着て演技をしていたという。スクリーンには映らない部分にまでこだわる姿勢は、まさに「役に生きる俳優」ならではのエピソードである。
ショーン・コネリーが演じたジム・マローンは、本作の中でも特に人気のあるキャラクターの一人だが、実は彼の役名や設定は映画オリジナルのもの。史実には存在しないキャラクターながら、コネリーの重厚な演技が視聴shに強い印象を残し、彼はこの役でアカデミー賞助演男優賞を受賞した。ちなみに、撮影中のコネリーは「この役がなければ、私は単なる『元・ボンド』の俳優として終わっていたかもしれない」と語っていたという。
映画の名場面のひとつであるユニオン駅の銃撃戦は、ロシア映画『戦艦ポチョムキン』のオデッサ階段のシーンへのオマージュとして作られている。ベビーカーが階段を転がる演出はあまりにも有名で、後の映画やドラマでも頻繁に引用されることになった。ちなみに、このシーンの撮影ではベビーカーの動きを何度も調整しながら慎重に撮影が進められ、最終的には編集でさらに緊張感を高める工夫が施されたという。
音楽を担当したエンニオ・モリコーネは、これまで数多くの名作映画を手掛けてきたが、本作のスコアは特に評価が高く、シンプルでありながらも力強いテーマ曲は映画の雰囲気を決定づけるものとなった。特に、オープニングの印象的なリズムは観客の緊張感を一気に高める効果があり、本作の持つ重厚な雰囲気を象徴している。
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