バトルランナー(1987)の解説・評価・レビュー

The Running Man SF(近未来)
SF(近未来)バイオレンス

スティーヴン・キング原作、メディア風刺の近未来SF ---

1987年公開の『バトルランナー』(原題:The Running Man)は、近未来デストピアを描いたアメリカ映画。原作はリチャード・バックマン(スティーヴン・キングの別名義)による同名小説であるが、映画化に際して内容に差異がある。監督はポール・マイケル・グレイザー、主演はアーノルド・シュワルツェネッガー。物語の舞台は2017年、世界経済が崩壊し、警察国家が支配する近未来社会である。
主人公のベン・リチャーズ(シュワルツェネッガー)は、無実の罪で投獄された後、視聴者参加型の過激なテレビ番組『ランニング・マン』に強制的に参加させられる。この番組は、囚人が「ストーカー」と呼ばれる刺客から逃げ延びれば自由を得られるという内容で、国民的な人気を博している。

映画は、メディアの暴力性や大衆操作といった社会問題を風刺的に描いており、公開当時から議論を呼んだ。興行収入はアメリカとカナダで約3,812万ドル(当時のレートで約550億円)を記録。なお、本作はアカデミー賞の受賞歴はない。

『バトルランナー』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


西暦2017年、世界経済は崩壊し、政府は独裁的な警察国家と化していた。社会は厳しい管理下に置かれ、民衆は暴力的なテレビ番組で娯楽を強いられている。警官であるベン・リチャーズは、食糧暴動を鎮圧する際に市民の虐殺命令を拒否したため、冤罪を着せられ投獄される。

数年後、ベンは仲間とともに刑務所から脱走するが、逃走中に再び捕らえられ、人気テレビ番組『ランニング・マン』への参加を強制される。この番組は、囚人が「ストーカー」と呼ばれる賞金稼ぎたちに追われながら、決められた区域を生き延びるという殺人ゲームであった。もし勝ち残れば自由を得られるが、これまでの参加者は誰一人生還していない。

番組の司会者ダモン・キリアンは、ベンの過去を歪曲して彼を冷酷な殺人犯として視聴者に紹介し、彼の敗北を煽る。ベンは、ほかの挑戦者たちとともに戦いを繰り広げ、次々とストーカーを倒していく。やがて、ゲームの真実を知った彼は、政府とテレビ局による情報操作を暴くため、番組の内部へと乗り込んでいく。

『バトルランナー』の監督・主要キャスト

  • ポール・マイケル・グレイザー(44)監督
  • アーノルド・シュワルツェネッガー(40)ベン・リチャーズ
  • マリア・コンチータ・アロンゾ(30)アンバー・メンデス
  • リチャード・ドーソン(55)デーモン・キリアン
  • ヤフェット・コットー(48)ウィリアム・ラフリン
  • マーヴィン・J・マッキンタイア(40)ハロルド・ワイス
  • ジェシー・ベンチュラ(36)キャプテン・フリーダム
  • ジム・ブラウン(51)ファイアーボール

(年齢は映画公開当時のもの)

『バトルランナー』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 5.0 ★★★★★
・大切な人と観たい 2.0 ★★☆☆☆
・ひとりでじっくり 4.0 ★★★★☆
・レトロフューチャー! 5.0 ★★★★★
・テレビ&メディア風刺 4.0 ★★★★☆

ポジティブ評価

『バトルランナー』は、1980年代後半に台頭した「メディア批判」をテーマとするSFアクション映画の一つである。当時、テレビ番組の過激化が進み、視聴率至上主義が社会問題として議論されていた。本作は時代を風刺しながら、エンターテインメントとして成立させた点が特徴的である。殺人ゲームを視聴者が熱狂的に消費する世界観は、後のリアリティ番組やインターネット文化を予見したかのような要素を含んでいる。

アーノルド・シュワルツェネッガーは、本作でも強靭ななフィジカルを活かしつつもユーモアを交えたアクションを展開する。彼の演じるベン・リチャーズは知略も駆使しながら敵と対峙していく。敵キャラクターである「ストーカー」たちは、それぞれ個性的な武器や戦闘スタイルを持ち、視覚的にもバラエティに富んでいる。ファイアーボールやダイナモといったキャラクターは、一種のスーパーヴィランのような存在感を放ち、戦闘ごとに異なる見せ場を作り出している。

番組司会者キリアンを演じたリチャード・ドーソンは実際のクイズ番組『ファミリー・フュード』(1976~現在、TBS系列”クイズ100人に聞きました”の元となった番組)の司会者を長年務めており、本作ではその経験を活かしたリアルな演技を披露している。彼の演じるキリアンは知的なカリスマ性を持ち、結果として作中のテレビ番組の狂騒的な雰囲気に妙な説得力を与えている。シュワルツェネッガーとの対決は、肉体派と頭脳派のコントラストが見所となっている。

映像面では、1980年代特有の未来観が色濃く反映され、現在視点でみると派手なネオンカラーやレトロフューチャーなデザインが魅力的。低予算ながらも、荒廃した都市やテレビ局のスタジオセットが作品の雰囲気を高めている。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

映画の面白さに水を差すわけではないが、映画は元の小説と内容が大きく異なり、その点について他ならぬ原作者のスティーヴン・キング(リチャード・バックマン名義)自身が失望したと明言している。ディストピアを舞台に全体主義国家への警鐘を鳴らしていた原作のテーマ性が薄れ、映画はTVショーに焦点を当てたメディア風刺を行うものの、後はシュワルツェネッガーのスター性に頼った勧善懲悪的な物語に留まったことが主な批判理由。
未来社会を舞台にしているものの設定の作り込みはやや甘く、ディストピア映画としての説得力は弱い。特に、番組『ランニング・マン』のシステムやルールは突っ込みどころが多く、どこまでがリアルなゲームなのか、どこまで演出されたものなのかが曖昧なまま進行する。ゲーム参加者の運命がテレビ局側の都合で簡単に変えられる点も物語のサスペンス要素を削ぐ要因になっている。

ひとことで言うと「軽い」映画になったという点で、視聴者の好みによって賛否が分かれた。全体的に、80年代アクション映画のノリを楽しめる作品ではあるが、設定の深掘りやストーリーの緻密さを求める視聴者には向かないかもしれない。細かいツッコミはひとまず置いておき、シュワルツェネッガーの豪快なアクションを堪能することが最適な楽しみ方と言えるだろう。

こぼれ話

『バトルランナー』の監督を務めたポール・マイケル・グレイザーは、テレビドラマ『刑事スタスキー&ハッチ』で主演を務めた俳優として知られていたが、映画監督としての経験は浅かった。そのためか、本作の演出にはテレビ的なテンポやカメラワークが多用されており、特にバトルシーンではその傾向が顕著に表れている。主演のアーノルド・シュワルツェネッガーは後に本作について「監督の経験不足が影響しており、もっと映画的なスケール感を出せたはずだ」とコメントしている。

また、番組司会者デーモン・キリアンを演じたリチャード・ドーソンは、実際にアメリカの人気ゲーム番組『ファミリー・フュード』の司会者として活躍していた人物である。そのため、本作での冷酷かつカリスマ的な司会ぶりには妙なリアリティがある。彼は撮影現場でもテレビ司会者さながらの態度を崩さず、番組スタッフを演じた俳優たちにも本物のテレビ局スタッフのように接していたという。

さらに、作中に登場する「ストーカー」たちのデザインや演出は、プロレスのキャラクターから影響を受けている。実際、キャプテン・フリーダム役のジェシー・ベンチュラは元プロレスラーであり、当時のアメリカン・プロレスのエンターテインメント性が本作にも取り入れられていることが分かる。
80年代らしい過剰な演出と社会風刺を織り交ぜた『バトルランナー』は、現在ではシュワルツェネッガーの存在感と適役のバラエティ溢れる個性が光った、異色のディストピアSFアクション・エンターテイメントと位置づけられている。

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