トップガン (1986)の解説・評価・レビュー

Top Gun ミリタリーアクション
ミリタリーアクション青春・学校ドラマ

音速の友情、限界を超える空のドラマ ---

『トップガン』(原題:Top Gun)は、1986年に公開されたアメリカのアクション映画である。監督はトニー・スコット、主演はトム・クルーズ。アメリカ海軍のエリート戦闘機パイロット養成学校「トップガン」に参加した若きパイロット、ピート・“マーヴェリック”・ミッチェルの成長と葛藤を描く。

本作は、アメリカ海軍の全面協力のもと、実際のF-14戦闘機を使用したリアルな空中戦の映像とスピード感あふれるアクションシーンが話題となり、大ヒットを記録した。興行収入は全世界で3億5,700万ドル(当時のレートで約600億円)を超え、1986年の年間興行収入ランキングで第1位を獲得。トム・クルーズは本作でスター俳優としての地位を確立し、その後のキャリアに大きな影響を与えた。
音楽面でも成功を収め、ケニー・ロギンスの「デンジャー・ゾーン」やベルリンの「愛は吐息のように(Take My Breath Away)」が大ヒット。特に「愛は吐息のように」はアカデミー賞歌曲賞を受賞し、映画とともに80年代を象徴する楽曲となった。

本作の影響は映画界にとどまらず、アメリカ海軍への志願者が急増するなど社会現象を巻き起こした。日本では1986年12月6日に公開され、以降も度々リバイバル上映されるなど、長年にわたり高い人気を誇っている。2022年には続編『トップガン マーヴェリック』が公開され、36年ぶりに復活したマーヴェリックの物語が新たな世代にも受け入れられた。

『トップガン』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


アメリカ海軍のエリート戦闘機パイロット養成学校「トップガン」に、若きパイロット、ピート・“マーヴェリック”・ミッチェル(トム・クルーズ)が選抜される。彼は天才的な操縦技術を持ちながらも、無鉄砲で自己流のスタイルを貫く性格のため、上官や同僚たちから問題視されることが多かった。相棒のリオ(レーダー迎撃士官)であるニック・“グース”・ブラッドショー(アンソニー・エドワーズ)とともに訓練に励むが、トップガンには彼以上の優秀なライバルたちが揃っていた。
特に、冷静沈着で完璧な技術を誇るアイスマンことトム・カザンスキー(ヴァル・キルマー)とは、実力を競い合う関係となる。そんな中、マーヴェリックはトップガンのインストラクターである美しい女性教官、チャーリー・ブラックウッド(ケリー・マクギリス)と惹かれ合うようになる。しかし、彼の過去には、伝説のパイロットだった父親が謎の墜落事故を起こしたという影があり、その真相はマーヴェリックの心に重くのしかかっていた。

ある日、訓練中の事故により、マーヴェリックは最も大切な存在であるグースを失ってしまう。自責の念と悲しみに打ちひしがれ、飛ぶことへの恐怖を抱くようになった彼は、トップガンのプログラムを続けるかどうかの決断を迫られる。
果たしてマーヴェリックは、ライバルたちとの戦い、愛する人との関係、そして自分自身の過去と向き合いながら、一人前のパイロットとして成長することができるのか――。

『トップガン』の監督・主要キャスト

  • トニー・スコット(42)監督
  • トム・クルーズ(24)ピート・“マーヴェリック”・ミッチェル
  • ケリー・マクギリス(29)チャーリー・ブラックウッド
  • ヴァル・キルマー(27)トム・“アイスマン”・カザンスキー
  • アンソニー・エドワーズ(24)ニック・“グース”・ブラッドショー
  • トム・スケリット(53)マイク・“ヴァイパー”・メットカーフ
  • マイケル・アイアンサイド(36)リック・“ジェスター”・ヘザーリー
  • ティム・ロビンス(28)サム・“マーリン”・ウェルズ

(年齢は映画公開当時のもの)

『トップガン』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 5.0 ★★★★★
・大切な人と観たい 4.0 ★★★★☆
・ひとりでじっくり 2.0 ★★☆☆☆
・80年代ポップカルチャー 4.0 ★★★★☆
・王道!青春ムービー 5.0 ★★★★★

ポジティブ評価

『トップガン』は、1980年代アメリカ社会における軍事とエンターテインメントの接点を象徴する作品として、多方面に影響を与えた。物語の中心は、海軍のエリートパイロット養成機関「トップガン」での訓練と成長を描く青春ドラマでありながら、公開当時の社会情勢を背景に、若者にとっての軍やパイロット像のイメージを大きく変える役割を果たした。
冷戦下にあった当時のアメリカでは、自国の防衛力や軍人の役割に対する関心が高まっており、本作はそれらを過度に強調せずに、個々の葛藤や友情、自己成長の物語として提示した。結果として、米海軍の協力によるF-14戦闘機のリアルな飛行シーンと、映像・音楽の演出が相まって、軍の現場をスタイリッシュに描いた数少ない作品として注目を集めた。公開後には米海軍への志願者数が増加するなど、映像作品が社会的行動に影響を与えた例として記録されている。

また、本作はポップカルチャーへの影響も顕著である。挿入歌「デンジャー・ゾーン」やラブシーンに使われた「テイク・マイ・ブレス・アウェイ」などの楽曲はビルボードで上位を記録し、映画音楽と映像の融合が話題となった。主人公マーヴェリックの着用するレイバンのサングラスやフライトジャケットは当時の若者文化に強く影響し、日本を含む世界各地でファッションアイテムとして流行した。
日本においても、『トップガン』は単なるアクション映画ではなく、「自由」「スピード」「自己選択」といった価値観を象徴する作品として若年層に受け入れられた。トム・クルーズの人気は本作によって一気に高まり、以降のハリウッドスター像の形成にも寄与した。

『トップガン』は、軍事的側面に依拠しすぎることなく、青春・挑戦・葛藤といった普遍的なテーマをエンターテインメントに昇華させたことで、時代を超えて語られる作品となった。社会的背景と視聴者の感性が重なり合った稀有な成功例である。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

アメリカ映画史におけるアイコン的な位置づけを確立している『トップガン』は、公開から40年近くが経過した今なお多くの視聴者にとって記憶に残る映画である。そのため、作品自体に対する「低評価」を明言する評論家は少ない。特に1960〜70年代生まれの視聴者にとって『トップガン』はまさに青春の象徴であり、当時の空気感や音楽、スタイルが強く記憶に結びついている。彼らにとっては、映画の世界観や主人公のキャラクター、映像演出はノスタルジックな魅力を持ち、再視聴においても好意的に受け止められやすい。

一方、初めて本作に触れるZ世代やミレニアル世代の視聴者にとっては、物語の構成やキャラクター造形、ジェンダー観において、やや古さを感じさせる部分があるのも事実である。ストーリー展開は直線的で、対立軸の描写も簡潔であるため、現代の複雑な人間関係や心理描写に慣れた視聴者にはやや物足りなく映る可能性がある。女性キャラクターの描かれ方や、感情表現の記号的な演出についても80年代っぽさは否めない。

とはいえ、『トップガン』が映像技術、音楽演出、軍事との連携、ポップカルチャーへの波及において与えた影響は計り知れず、単なる娯楽作品に留まらない存在であることは明らかである。世代によって受け止め方が異なることこそが、作品の長寿性と文化的厚みを示しているともいえる。
『トップガン』は時代性に根ざした作品であると同時に、映画史の中で一定の転換点となった作品でもある。その意味において、どの世代にとっても「歴史的に価値のある映画」としての評価は揺るがない。

こぼれ話

『トップガン』の制作には、数々の興味深いエピソードがある。まず、アメリカ海軍の全面協力のもと撮影された本作は、戦闘機のリアルな映像が大きな話題となった。しかし、実際の戦闘機を使った撮影は容易ではなく、特にF-14の空中戦シーンは、パイロットに「観客が楽しめるような動き」をリクエストする必要があった。その結果、カメラが追い切れないほどの高速機動が連発し、撮影クルーが必死に調整しながら撮影を行ったという。
また、本作で主演を務めたトム・クルーズは、撮影のために実際に戦闘機に乗せられた。空軍パイロットが操縦するF-14に同乗し、急上昇や旋回を体験したが、あまりのG(重力加速度)の強さに耐えきれず、何度も意識を失いかけたという。とはいえ、クルーズはこの経験に大興奮し、その後、自ら操縦免許を取得。現在ではプライベートジェットを操縦できるほどの腕前になっている。

本作のもう一つの特徴は、キャスト陣の「本物の軍人らしさ」を出すためのトレーニングである。俳優たちは撮影前に海軍の訓練を受け、特にヴァル・キルマー(アイスマン役)は「クールなパイロット」の雰囲気を出すために、他のキャストと意図的に距離を取るようにしていたという。これにより、劇中のマーヴェリックとアイスマンのライバル関係が、実際の撮影現場でも自然に演出された。ちなみに、キルマー自身は当初この役を演じるつもりはなかったが、契約の都合上オーディションを受けることになり、結果的に映画史に残る名ライバル役を演じることとなった。

音楽に関しても、本作は80年代を代表する名サウンドトラックを生み出した。特に「デンジャー・ゾーン」は、映画の象徴的な楽曲となったが、当初はボニー・タイラーが歌う予定だった。しかし、最終的にケニー・ロギンスが起用され、彼のエネルギッシュな歌声が映画の疾走感をさらに引き立てることとなった。また、「愛は吐息のように(Take My Breath Away)」は、プロデューサーが劇中のラブシーンを盛り上げるために追加した曲であり、この楽曲のおかげでロマンティックな雰囲気がより強調された。結果として、アカデミー賞歌曲賞を受賞するほどの大ヒットを記録した。

また、『トップガン』の影響力は映画界だけでなく、社会にも波及した。本作の公開後、アメリカ海軍への志願者が急増し、特に戦闘機パイロットを目指す若者が増えたという。当時、海軍はこのブームを逃さず、映画上映の際に劇場にリクルートブースを設置し、実際に多くの志願者を獲得したと報じられている。映画を観てそのまま軍に志願するという現象は、ハリウッド映画史の中でも珍しいケースだろう。

続編『トップガン マーヴェリック』(2022年)では、さらにリアルな空中戦と感動的なストーリーが描かれ、36年の時を経て再び大ヒットを記録した。もし本作を再鑑賞するなら、80年代の名作としてだけでなく、その後の映画や社会に与えた影響にも注目してみると、また違った楽しみ方ができるかもしれない。

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