ブラック・スワン(2010)の解説・評価・レビュー

black-swan サイコホラー・スリラー
サイコホラー・スリラーダンス心理サスペンス

『ブラック・スワン』(原題:Black Swan)は、2010年に公開された心理スリラー映画で、ダーレン・アロノフスキー監督が手掛けた作品。主演のナタリー・ポートマンは、本作でバレリーナ役に挑み、第83回アカデミー賞で主演女優賞を受賞した。
物語は、ニューヨークのバレエ団に所属するバレリーナのニナが、出世作となる「白鳥の湖」の主役に選ばれ、プレッシャーと心の葛藤から精神的に追い詰められていく姿を描く。共演にはミラ・クニス、ヴァンサン・カッセル、バーバラ・ハーシーらが名を連ねている。

公開当時は、美と狂気をテーマにしたストーリーや独特の映像美が話題となり、興行的にも成功を収め、全世界で約3億2,900万ドル(当時のレートで260億円)の収益を記録した。また、撮影中の厳しいトレーニングやナタリー・ポートマンが体重を約9キロ減量したというエピソードも注目を集めた。作品は心理学的テーマを深く掘り下げ、視聴者に人間の内面の脆さや芸術への執念を問いかけるものとなっている。

『ブラック・スワン』あらすじ紹介(ネタバレなし)

ニューヨークのバレエ団に所属するバレリーナ、ニナ・セイヤーズは、バレエ「白鳥の湖」の主役に抜擢される。物語の中で、純粋で無垢な白鳥と、誘惑的で邪悪な黒鳥の二役を演じなければならないこの役は、演技力と技術の両方で完璧が求められる大役だった。生真面目で繊細な性格のニナは、白鳥役には適任と評価される一方、黒鳥を演じるには自身の内面に眠る「闇」を引き出す必要があると、演出家のトーマスから厳しく指導される。

さらに、家庭では元バレリーナの母親がニナを過保護に育てており、舞台への挑戦を巡っても執拗な干渉を続ける。そんな中、新しく入団した新人バレリーナのリリーが注目を集める。リリーは、ニナが持ち得ない奔放さと妖艶さを持ち合わせており、トーマスからも黒鳥役にふさわしいと評価される。ライバル心を刺激されたニナは、プレッシャーの中で自身の限界に挑み続けるが、その完璧主義が次第に精神的な負荷となり、心に不穏な影を落としていく。

『ブラック・スワン』の監督・主要キャスト

  • ダーレン・アロノフスキー(41)監督
  • ナタリー・ポートマン(29)ニナ・セイヤーズ
  • ミラ・クニス(27)リリー
  • ヴァンサン・カッセル(44)トーマス・ルロイ
  • バーバラ・ハーシー(62)エリカ・セイヤーズ
  • ウィノナ・ライダー(39)ベス・マクイントア
  • ベンジャミン・ミルピエ(33)デヴィッド
  • ケイシー・シモンス(22)ヴェロニカ

(年齢は映画公開当時のもの)

『ブラック・スワン』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 2.0 ★★☆☆☆
・大切な人と観たい 2.0 ★★☆☆☆
・ひとりでじっくり 5.0 ★★★★★
・ナタリー・ポートマンの美 5.0 ★★★★★
・究極の心理状態 5.0 ★★★★★

ポジティブ評価

『ブラック・スワン』は、芸術の追求における犠牲や自己破壊を視聴者に伝えている。視覚的かつ心理的な恐怖を効果的に描き、観客に深い余韻を残す。
ナタリー・ポートマンの演技はキャリアの中でも突出しており、複雑な感情を表現しながら、完璧主義に苦悩するバレリーナの姿を体現した。また、彼女自身が受けたバレエトレーニングや体重減量への取り組みも役柄に説得力を与えている。
演出面では、「白鳥の湖」の象徴的な音楽を巧みに使いながら、クラシックとスリラーの要素を融合させた演出が印象的。ダーレン・アロノフスキー監督は、主観的なカメラワークと暗いトーンの映像美を駆使し、観客を主人公の不安定な内面へと引き込んだ。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

冷静に海外レビューを見渡すと、ニナを心配する声や、ニナよりも彼女の母親が問題だとする意見もちらほら見えてくる。メンタルに関わるセンシティブなテーマを扱うため、一部の視聴者は登場人物たちに助けが必要であることを冷静に語る。
ただ、このように人々が演技に対して気を揉むのは、ナタリー・ポートマンの演技がそれだけ真に迫っていることの証左といえるのではないだろうか。

こぼれ話

『ブラック・スワン』の制作には、作品のリアリティを追求するためのさまざまな工夫が施された。主演のナタリー・ポートマンは役作りの一環として、約1年間のバレエトレーニングに励み、1日8時間の練習を続けたという。この努力により、彼女は役柄にふさわしい肉体と技術を手に入れたが、撮影中に肋骨を負傷するほどの過酷なスケジュールだった。なお、映画で使用されたバレエシーンの多くは彼女自身が踊ったが、一部はプロのダンサーが代役を務めている。

ナタリー・ポートマンとリリー役のミラ・クニスは親しい友人で、ポートマンがクニスを監督に推薦したことがキャスティングの決め手になったのは有名な逸話。クニスも短期間でバレエを習得し、役柄に説得力を持たせた。ふたりのきわどいシーンの撮影では、友人であるが故のやりにくさをジョークを交えながら乗り切ったという。

ポートマンの夫となるバレエダンサー兼振付師のベンジャミン・ミルピエは、本作の振付を担当しており、映画を通じて2人は恋人関係に発展した。

本作は1,300万ドル(10憶円)という、アメリカ映画としては低予算の中で製作されたが、その緊張感あふれる演出と主演女優の演技によって大きな成功を収めた。アカデミー賞主演女優賞のほか、ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞でもポートマンが演技賞を受賞し、映画史に残る名作となった。

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