アメリカン・ビューティー(1999)の解説・評価・レビュー

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『アメリカン・ビューティー』(American Beauty)は、1999年に公開されたサム・メンデス監督のデビュー作で、アラン・ボールが脚本を手掛けた作品である。主演はケヴィン・スペイシーとアネット・ベニング。平凡な郊外生活に不満を抱く中年男性レスター・バーナム(スペイシー)が、自身の人生を見つめ直し変化を求める様子を描く。皮肉とユーモアを交えながら、アメリカ中流階級の家庭に潜む欲望や虚無感、社会的なプレッシャーを浮き彫りにする物語だ。

映画はアカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞、撮影賞を受賞し、批評家からも大絶賛された。興行収入は世界で約3億500万ドルを記録し、制作費約1500万ドルの低予算作品としては異例の成功を収めた。また、エリオット・スミスの楽曲やトーマス・ニューマンの美しいスコアも話題となり、映画のムードを引き立てている。

『アメリカン・ビューティー』のあらすじ紹介(ネタバレなし)

郊外の一軒家で暮らすレスター・バーナム(ケヴィン・スペイシー)は、退屈な仕事と冷え切った家庭生活に鬱屈した日々を送っている。妻キャロライン(アネット・ベニング)は不動産業に執着し、娘ジェーン(ソーラ・バーチ)は父親を軽蔑している。ある日、レスターは娘のチアリーディング仲間アンジェラ(ミーナ・スヴァーリ)に惹かれ、自分の人生を変える決意をする。

レスターは仕事を辞め、自由奔放な生活を始める一方で、ジムに通い体を鍛え直し、青春を取り戻そうとする。家族や隣人の秘密や欲望が交錯する中、それぞれが自分の幸せを模索する姿が描かれる。しかし、彼らの行動は次第に予期せぬ結末へと繋がっていく。愛憎が渦巻く中で明かされる真実とは──。

『アメリカン・ビューティー』の監督・主要キャスト

※人名の後の()カッコは公開当時の年齢

  • サム・メンデス(34)監督
  • ケヴィン・スペイシー(40)レスター・バーナム
  • アネット・ベニング(41)キャロライン・バーナム
  • ソーラ・バーチ(17)ジェーン・バーナム
  • ミーナ・スヴァーリ(20)アンジェラ・ヘイズ
  • ウェス・ベントリー(21)リッキー・フィッツ
  • クリス・クーパー(48)フランク・フィッツ大佐
  • アリソン・ジャネイ(39)バーバラ・フィッツ

『アメリカン・ビューティー』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 2.0 ★★☆☆☆
・大切な人と観たい 3.0 ★★★☆☆
・ひとりでじっくり 5.0 ★★★★★
・考えさせられる 5.0 ★★★★★
・映画史に残る作品 5.0 ★★★★★

深い余韻を残す映画

『アメリカン・ビューティー』は90年代を代表する映画のひとつ。サム・メンデスの監督デビュー作とは思えない完成度で、現代アメリカ社会の家庭崩壊と個人の再生をテーマにした鋭い風刺で高い評価を得た作品だ。これにより、監督のサム・メンデスが映画デビュー作にしてアカデミー賞作品賞を受賞。
ケヴィン・スペイシー演じるレスターの内面の変化を中心に、平凡に見える生活の裏に潜む深い不満と渇望を描いた脚本は、観る者に強烈な共感と違和感を与える。特に、レスターが若さと自由を追い求める姿と、その過程で迎える結末は、幸福の意味を問い直すきっかけを提供している。美しいバラのモチーフやトーマス・ニューマンによる印象的な音楽も、物語の象徴性を高める一因となっている。
1999年当時のアメリカ郊外社会の抑圧的な雰囲気を垣間見ることが出来る作品だ。

あえてネガティブな評価を探すと‥

一部の批評家は、映画の描写が過剰に皮肉的で観客を遠ざけることを指摘している。
特に、レスターのアンジェラに対する執着や、家族内の関係の崩壊が不快に映るという意見がアメリカの評論サイトで見受けられる。ひとことで言うと、怖い。
また、終盤の展開については、テーマの提示に対して結末が突然でやや強引だという声もある。過剰な視覚美が物語を際立たせる一方で、内容の深みに欠けると評するレビュアーもいた。

こぼれ話

本作の脚本はもともとテレビドラマ用に書かれていたが、そのストーリーの力強さに目をつけたプロデューサーが映画化を提案した。映画の象徴的なシーンである「舞い散るバラの花びら」は、監督サム・メンデスが「美の幻想」を視覚的に伝えるために取り入れたもの。また、撮影当時、ソーラ・バーチとミーナ・スヴァーリは実際の年齢差がわずか3歳だったが、それぞれ高校生と成熟した若者を見事に演じ分けている。さらに、ケヴィン・スペイシーは役作りのために実際にジム通いを開始し、レスターの変化をリアルに表現したというエピソードがある。

『アメリカン・ビューティー』は、そのタイトルから1950年代のバラの品種名「アメリカン・ビューティー」に由来している。このバラは美しさの象徴とされるが、実際は強い香りがなく、病弱な品種であることが知られている。映画の中で繰り返し登場する赤いバラは、物語のテーマを象徴する重要なモチーフだ。また、レスターが求める若い女性アンジェラを演じたミーナ・スヴァリは、バラの花びらに囲まれた幻想的なシーンで映画史に名を刻んだが、このシーンの撮影には非常に繊細な演出が求められたという。監督のサム・メンデスはこの作品で、舞台演出から培ったシンボリズムを巧みに映画に応用しており、映画美術とストーリーテリングが一体化した独創的な世界観を作り上げた。

アメリカンビューティー(花)

アメリカンビューティー(花) 画像引用:wikipedia

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