グラインドハウス(2007)の解説・評価・レビュー

グラインドハウス カーアクション
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名監督が真面目に作ったB級映画 ---

『グラインドハウス』(原題: Grindhouse)は、2007年公開のアメリカ映画。クエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲスが監督を務めた2部構成のオムニバス映画で、1970年代のB級ホラー映画へのオマージュとして製作された。前半のロドリゲス監督による『プラネット・テラー』はゾンビパニック、後半のタランティーノ監督による『デス・プルーフ』はカーチェイススリラーをそれぞれ描く。また、映画の間には架空のB級映画の予告編が挟まれ、ジョン・ランディスやエドガー・ライトらが監督した短編が追加されている。

公開時の上映形式は、2本の映画を1本の作品として連続上映する独特のスタイルが採用された。製作費は約5,300万ドル(当時のレートで約65億円)に対し、興行収入は全世界で2,500万ドル(30億円)に留まったものの、監督二人の個性と1970年代のレトロな映画体験を再現する演出がカルト的な支持を集めた。各エピソードの派手なアクションや個性的なキャラクターが特に話題を呼び、後に単独作品としてもリリースされている。

『グラインドハウス』あらすじ紹介

『グラインドハウス』は、2つの短編映画で構成されたオムニバス作品である。

『プラネット・テラー』
小さな町を舞台に、謎の化学兵器が漏出したことで住民がゾンビ化するパンデミックが発生。元ゴーゴーダンサーのチェリー・ダーリングと元恋人で軍人のエル・レイは、わずかな生存者たちと共にゾンビの大群に立ち向かう。片足を失ったチェリーは、代わりに装着した銃器を武器に戦い、町を襲う陰謀とゾンビの脅威に挑む。

『デス・プルーフ』
スタントマンのマイクは、自ら改造した「デス・プルーフ」仕様の車を使い、女性たちをターゲットにした殺人を繰り返す連続殺人鬼。しかし、ターゲットに選んだ4人の女性が彼に反撃を開始。彼女たちの運転技術と勇気が、命懸けのカーチェイスでマイクを追い詰める。

両作品の間には、架空のB級映画の予告編が挿入されており、観客にレトロな映画体験を提供するユニークな構成となっている。

『グラインドハウス』の監督・主要キャスト

『プラネット・テラー』
・ロバート・ロドリゲス(38)監督
・ローズ・マッゴーワン(33)チェリー・ダーリング
・フレディ・ロドリゲス(32)エル・レイ
・ジョシュ・ブローリン(39)ウィリアム・ブロック医師
・マーリー・シェルトン(33)ダコタ・ブロック医師
・マイケル・ビーン(51)ヘイグ保安官
・ジェフ・フェイヒー(54)J.T.
・ブルース・ウィリス(52)マルドゥーン中尉

『デス・プルーフ』
・クエンティン・タランティーノ(44)監督
・カート・ラッセル(56)スタントマン・マイク
・ゾーイ・ベル(28)ゾーイ
・ロザリオ・ドーソン(27)アバナシー
・トレイシー・トムズ(31)キム
・メアリー・エリザベス・ウィンステッド(22)リー
・ヴァネッサ・フェルリト(27)アーリーン
(年齢は映画公開当時のもの)

『グラインドハウス』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 5.0 ★★★★★
・大切な人と観たい 3.0 ★★☆☆☆
・ひとりでじっくり 3.0 ★★★☆☆
・真面目に作ったB級映画 5.0 ★★★★★
・癖になる絶妙なテンポ 4.0 ★★★☆

名監督が真面目にB級映画を作ったらこうなった

『グラインドハウス』は、クエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲスという2人の個性派監督が、1970年代のB級映画文化への愛情を存分に注ぎ込んだ作品。両監督の独特なスタイルが融合し、スリルとユーモアが絶妙に組み合わさった独自の映画体験を提供している。

ロドリゲス監督の『プラネット・テラー』は、ゾンビ映画の要素を盛り込みながら、派手なアクションと猟奇的な描写で視聴者を楽しませる。特に、ローズ・マッゴーワン演じるチェリーの「銃を装着した片足」というビジュアルがB級映画のアイコン的存在に。
一方、タランティーノ監督の『デス・プルーフ』は、緊迫感のある会話劇とド派手なカーチェイスが特徴。スタントウーマンのゾーイ・ベルが自ら演じる命懸けのアクションが意欲的である。

本作を彩る架空の予告編は、監督たちの遊び心が詰まっている。エドガー・ライトやロブ・ゾンビといったゲスト監督たちの手による予告編は視聴者を笑わせ、映画にユニークな味わいを加えている。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

1970年代のB級映画文化へのオマージュという『グラインドハウス』のコンセプトであるが、制作意図を知らずに見ると伝わりにくく、酷い映画だという一部視聴者の声もある。勿論、タランティーノのおふざけ?に対してもともと好まない視聴者もいる。
それ以外の難しい要素としては、2本の長編を連続して上映する構成は、合計視聴時間が3時間近くに及ぶため、集中力を持続するのが難しい。

こぼれ話

『グラインドハウス』の制作には、1970年代のB級映画文化への愛情と遊び心がたっぷり詰まっている。
“グラインドハウス”とは、1960~80年代のアメリカに存在していたB級映画を上映する映画館の通称。低料金で2本、3本立てで上映するのが一般的で、観客は途中入退室が可能だったという。上映作品には刺激的な内容が多く、ロバート・ロドリゲスとクエンティン・タランティーノはそこでインスピレーションを得ていたのではないか。
両監督は懐かしむ形で本作を制作。かつての映画館体験を再現し、わざとフィルムに汚れや傷を加える処理を施して時折映像が途切れるといった「技術的欠陥」までも演出として採用した。この細部へのこだわりが、レトロな映画の雰囲気を際立たせている。

映画の間に挟まれる架空の予告編は、本作の大きな特徴の一つ。『マチェーテ』(ロバート・ロドリゲス監督)、『ナチ親衛隊の狼女』(ロブ・ゾンビ監督)、『ドント』(エドガー・ライト監督)、『感謝祭』(イーライ・ロス監督)といった個性的な予告編が並び、それぞれが別作品として観たいとの声も多い。実際、『マチェーテ』は後に長編映画化され、スピンオフとして成功を収めた。

また、『デス・プルーフ』では、スタントウーマンのゾーイ・ベルが本人役で出演し、激しいカーチェイスシーンを自ら演じた。このシーンはCGやスタントダブルをほとんど使わずに撮影されており、リアルなスリルが観客を魅了した。一方、『プラネット・テラー』のチェリー・ダーリングの「銃を装着した義足」は、映画史に残る象徴的なビジュアルだ。

監督たちの映画愛が随所に散りばめられた『グラインドハウス』は、当時の興行収入こそ振るわなかった(大赤字!)ものの、後のカルト映画ファンにとって特別な一作となった。

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