『バベル』(原題: Babel)は、2006年公開のアメリカ映画。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが監督した、複数の物語が交錯するヒューマンドラマ(群像劇)である。モロッコ、アメリカ、メキシコ、日本という4つの異なる地域で起こる出来事を通じて、異文化間の衝突や人間関係の複雑さが描かれる。主要キャストにはブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、菊地凛子らが名を連ねる。
製作費は約2,500万ドル(当時のレートで約30億円)で、興行収入は全世界で約1億3,500万ドル(約160憶円)を記録。第79回アカデミー賞では7部門にノミネートされ、作曲賞(グスターボ・サンタオラヤ)を受賞したほか、カンヌ国際映画祭では監督賞を受賞するなど、批評家から高い評価を得た。本作は『アモーレス・ペロス』(2000年)、『21グラム』(2003年)に続く「死と喪失の三部作」の完結編に位置付けられている。
『バベル』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
モロッコの砂漠地帯で遊牧民の少年が羊飼いの練習として銃を撃ったことをきっかけに、アメリカ人夫婦リチャードとスーザンが巻き込まれる悲劇が発生する。リチャードは負傷したスーザンを助けるため、医療支援を求めて奮闘するが、異国の地での困難が二人の心身を追い詰めていく。
一方、アメリカでは、夫婦の子供たちを預かっていたメキシコ人家政婦アメリアが、甥の結婚式に参加するために子供たちを連れて国境を越える。しかし、帰路で予期せぬ事件に巻き込まれる。
さらに、舞台は日本へと移り、聴覚障害を持つ少女チエコが、亡き母の死を乗り越えられない父親と断絶した関係に悩みながら、孤独と葛藤の日々を送っている。彼女の父親は、モロッコで使われた問題の銃をかつて贈った人物だった。
それぞれの物語は、文化や言語の壁を超えながら交錯し、人間の不完全さとつながりを鮮烈に描き出していく。
『バベル』の監督・主要キャスト
・アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(43)監督
・ブラッド・ピット(42)リチャード・ジョーンズ
・ケイト・ブランシェット(36)スーザン・ジョーンズ
・菊地凛子(25)千恵子(チエコ)
・アドリアナ・バラッザ(55)アメリア
・ガエル・ガルシア・ベルナル(27)サンティアゴ
・サイード・タッグマウイ(33)アブドゥラ
・バブ・ケルバン(14)アーメッド
(年齢は映画公開当時のもの)
『バベル』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 1.0 ★★☆☆☆ |
・大切な人と観たい | 3.0 ★★★☆☆ |
・ひとりでじっくり | 5.0 ★★★★★ |
・物語が交錯する刹那 | 5.0 ★★★★★ |
・菊地凛子さん出世作 | 5.0 ★★★★★ |
ポジティブ評価
『バベル』は、異なる文化や言語が交錯する4つの物語。複雑に絡み合うプロットは、感情的に結びついてやがて交錯する。文化や背景の異なる登場人物たちが抱える孤独や絶望が土台のテーマになっている。
ブラッド・ピットは妻を守る夫としての苦悩を内省的に表現し、それまでのイケメン、あるいは野生的なイメージを覆す演技を披露した。菊地凛子は日本の聴覚障害を持つ少女チエコとして、セリフに頼らない感情表現を披露し、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされるなど国際的な注目を集めた。
アカデミー作曲賞を受賞したグスターボ・サンタオラヤによる音楽にも要注目。モロッコの広大な砂漠や日本のネオン輝く都市といった対照的な風景を背景にした映像美が音楽に調和し、情感を深める。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
140分を超える長尺の映画で、視聴するのに腰を据える時間が必要。
アメリカ映画で描かれる日本は、いつもながらに違和感がある。最近の映画では少しずつその違和感が解消してきているが、この時代はまだまだ。アメリカ以外の世界がややステレオタイプになりがちで、モロッコでの評価も気になるところ。
撮影で使用されたJ-POPカフェは、さきほど調べたところ閉店している模様。20年前の懐かしい渋谷がもしかしたら今視聴すると見所かもしれない。
こぼれ話
『バベル』は、その制作過程や背景にも多くの興味深いエピソードがある。監督のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥと脚本家ギレルモ・アリアガは、『アモーレス・ペロス』『21グラム』に続いてタッグを組んだが、本作を最後にコンビを解消している。二人は制作過程での意見の対立を公にし、最終的に袂を分かつことになった。本作は、彼らの共作として「死と喪失の三部作」を締めくくる作品となった。
菊地凛子は本作での演技により、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、国際的な注目を集めることとなった。手話は、彼女が役のためにゼロから学び、撮影に臨んだという。この快挙は、日本人俳優として非常に珍しいものであり、彼女のキャリアを大きく飛躍させた瞬間となった。
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