2005年公開の『Vフォー・ヴェンデッタ』(原題:V for Vendetta)は、ジェームズ・マクティーグ監督によるディストピアSF映画で、アラン・ムーアとデヴィッド・ロイドによる同名グラフィックノベルを原作としている。脚本はウォシャウスキー姉妹(当時はウォシャウスキー兄弟)が担当し、独裁政権が支配する近未来のイギリスを舞台に、自由と復讐をテーマにしたストーリーが展開する。
主人公は、ガイ・フォークスの仮面を被った謎の革命家「V」。彼は政府の腐敗に立ち向かいながら、独裁者サトラー総理率いる全体主義国家の打倒を目指す。物語は、独裁政府に抑圧される若い女性イヴィー(ナタリー・ポートマン)との出会いを通じて、Vの行動とその目的が徐々に明らかになる。主演のヒューゴ・ウィーヴィングが仮面越しに表現するVのカリスマ性と、ナタリー・ポートマンの感情豊かな演技が大きな見どころである。
公開後、本作は社会的・政治的テーマの深さと、スタイリッシュなアクションシーンで視聴者と批評家の間で議論を呼んだ。また、「ガイ・フォークスの仮面」は映画を超えて実際の社会運動や抗議活動の象徴として広く使用されるようになり、作品の影響力の大きさを示している。興行収入は約1億3,200万ドル(当時のレートで約150億円)を記録し、カルト的人気を誇る名作として評価されている。
『Vフォー・ヴェンデッタ』あらすじ紹介(ネタバレなし)
近未来のイギリスでは、独裁者アダム・サトラー総理(ジョン・ハート)が率いる全体主義政権が権力を掌握し、国民の自由が厳しく制限されていた。言論統制が行われ、恐怖政治が支配するこの世界で、人々は希望を失い、政府に従順に従う生活を強いられている。
ある夜、若い女性イヴィー・ハモンド(ナタリー・ポートマン)は外出中に秘密警察に襲われるが、ガイ・フォークスの仮面を被った謎の男「V」(ヒューゴ・ウィーヴィング)に救われる。彼は華麗な剣術と爆発物の技術を駆使し、独裁政権への抵抗を呼びかける革命家だった。Vは、独裁政府の象徴であるロンドンの「オールド・ベイリー」を爆破し、次の11月5日に国民に立ち上がるよう呼びかける。
一方で、イヴィーはVの隠れ家に連れられ、政権に立ち向かう彼の計画に巻き込まれていく。Vは、自身が政府の非道な人体実験の犠牲者であり、その復讐を目的に行動していることを明かす。イヴィーは次第に彼の思想に影響を受け、自らの恐怖や過去と向き合いながら、自由を求める戦いに身を投じる決意をする。
愛と自由、そして革命の行方が描かれる壮大な物語である。
『Vフォー・ヴェンデッタ』の監督・主要キャスト
- ジェームズ・マクティーグ(38)監督
- ナタリー・ポートマン(24)イヴィー・ハモンド
- ヒューゴ・ウィーヴィング(45)V
- スティーヴン・レイ(59)エリック・フィンチ警視
- ジョン・ハート(65)アダム・サトラー総理
- スティーヴン・フライ(48)ゴードン・ディートリッヒ
- ルパート・グレイヴス(42)ドミニク警部
- ティム・ピゴット=スミス(59)ピーター・クリーディー
(年齢は映画公開当時のもの)
『Vフォー・ヴェンデッタ』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 2.0 ★★☆☆☆ |
・大切な人と観たい | 3.0 ★★★☆☆ |
・ひとりでじっくり | 5.0 ★★★★★ |
・圧巻の世界観 | 5.0 ★★★★★ |
・行き詰った時に。 | 5.0 ★★★★★ |
SF史に残る傑作
『Vフォー・ヴェンデッタ』は、近未来の独裁国家を舞台にした、「自由と抑圧」という普遍的なテーマを掘り下げた物語。
ヒューゴ・ウィーヴィングが仮面を被りながらも声と身振りだけで強烈な存在感を放ち、Vというキャラクターに深みを与えた点が際立つ。また、ナタリー・ポートマンが演じるイヴィーは、恐怖と抑圧を克服して成長していく姿を見事に体現しており、観客に共感を呼び起こす。
アクション、サスペンス、ユーモアなどあらゆる面で評価されたこの作品は、「自由を手に入れること」という現代にも通じる深い問いを視聴者に投げかけている。
映画の美術や演出も評価ポイント。暗く冷たい雰囲気を纏ったディストピアの世界観が緻密に作り込まれており、抑圧された社会を象徴するロンドンの映像表現はリアリティとアート性を兼ね備える。また、ガイ・フォークスの仮面や象徴的な11月5日の爆破シーンなど、アイコニックなビジュアルが映画全体を印象づける。
音楽面では、劇中に流れるクラシック音楽はドラマに重厚感を加えている。クライマックスで使用されたのはチャイコフスキーの「1812年序曲」。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
脚本を手掛けたウォシャウスキー姉妹が、原作の重厚なテーマを映画用に再構築し、政治色を強めた点も注目に値する。一方で、原作者アラン・ムーアは映画版を「原作の本質が失われた」として否定的な態度を取っており、これがファンの間での議論を巻き起こした。
こぼれ話
Vを演じたヒューゴ・ウィーヴィングは、仮面を一切外さないという特殊な役柄に挑戦した。顔が見えない中で感情や意図を伝える必要があるため、声の演技と身体の動きに特に注意が払われた。実は当初、V役にはジェームズ・ピュアフォイがキャスティングされていたが、数週間の撮影後に降板し、ウィーヴィングがその後を引き継いだという背景がある。
ナタリー・ポートマンが演じたイヴィーの変身シーンも話題となった。特に、彼女が劇中で頭を丸刈りにする場面は実際の撮影で一度きりの挑戦であり、その緊張感がスクリーンにも反映されている。ナタリー自身、この役を通じて「抑圧に立ち向かう女性の強さを表現したかった」と語っており、作品のメッセージ性とも深くリンクするエピソードとなった。
本作の象徴とも言える「ガイ・フォークスの仮面」は、映画公開後に現実世界での社会運動や抗議活動のシンボルとして広く使用されるようになった。特に、匿名ハッカー集団「アノニマス」の活動によって、仮面は政府や大企業に対する抵抗の象徴として知られるようになり、作品の影響力が現実社会にまで及んだことを示している。
こうした裏話や社会的影響を考えると、『Vフォー・ヴェンデッタ』は単なる映画作品にとどまらず、文化的な現象としても大きな意味を持つ作品であることが分かる。
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