『アルゴ』(原題:Argo)は、2012年に公開されたベン・アフレック監督・主演による実話を基にしたスリラー映画。1979年のイランアメリカ大使館人質事件を背景に、CIAが人質救出のために実行した奇想天外な作戦を描く。作戦の内容は、架空の映画製作チームを装い、テヘランに潜伏する6人のアメリカ外交官を国外に脱出させるというもの。ベン・アフレックが主人公のCIAエージェント、トニー・メンデスを演じ、緊張感とユーモアを織り交ぜながら展開するストーリーが魅力となっている。
本作は第85回アカデミー賞で作品賞を含む3部門を受賞し、批評家からも商業的にも高い評価を得た。全世界の興行収入は2億5,000万ドル以上(250億円)を記録し、社会派ドラマとしての完成度と娯楽性を兼ね備えた作品として知られている。歴史的事件を基にした骨太な物語と、映画業界を題材にしたメタ的な視点が融合したユニークな作風が特徴的。
『アルゴ』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
1979年、イラン革命の混乱の中で、アメリカ大使館が過激派に占拠され、多数の職員が人質となる。一方、6人の外交官は大使館から脱出し、カナダ大使の私邸に匿われていた。過激派の捜索が迫る中、CIAは彼らを安全に国外脱出させるための極秘作戦を計画する。その作戦の立案者として選ばれたのが、ベテラン諜報員トニー・メンデス(ベン・アフレック)。彼が考案した大胆な方法は、6人を架空の映画「アルゴ」の撮影クルーに見立てて救出するというものだった。
トニーはハリウッドの特殊効果アーティスト(ジョン・グッドマン)や映画プロデューサー(アラン・アーキン)の協力を得て、偽の映画製作計画を本物さながらに仕立て上げる。そして「映画クルー」としてイランに潜入し、外交官たちを救出する準備を進める。刻々と迫る危機の中、果たしてトニーは、彼らを無事に脱出させることができるのか――。緊張感あふれる展開と予測不能な作戦の行方を描く実話ベースの物語。
『アルゴ』の監督・主要キャスト
- ベン・アフレック(40)監督、トニー・メンデス
- ブライアン・クランストン(56)ジャック・オドネル
- アラン・アーキン(78)レスター・シーゲル
- ジョン・グッドマン(60)ジョン・チェンバース
- ヴィクター・ガーバー(63)ケン・テイラー(カナダ大使)
- テイト・ドノヴァン(49)ボブ・アンデルセン(外交官)
- クレア・デュヴァル(34)コーラ・ラインズ(外交官)
- スクート・マクネイリー(34)ジョー・スタッフォード(外交官)
(年齢は映画公開時点のもの)
『アルゴ』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 3.0 ★★★☆☆ |
・大切な人と観たい | 4.0 ★★★★☆ |
・ひとりでじっくり | 5.0 ★★★★★ |
・緊迫感 | 4.0 ★★★★☆ |
・アカデミー作品賞 | 5.0 ★★★★★ |
実際に起こった緊迫の救出劇
1979年のイランアメリカ大使館人質事件という実際の出来事を基にしながら、観客を最後まで引き込む構成力が際立っている。クライマックスにかけての脱出劇の緊迫感は、多くの観客に息をのませた。
映画内で描かれる「架空の映画製作」という奇抜な作戦は、ハリウッドと諜報活動の奇妙な接点をユーモアを交えて描いている。作品内で再現された1970年代から80年代初頭の雰囲気や細部のセットデザイン、衣装も高く評価され、アカデミー賞で作品賞を含む3部門を受賞する結果につながった。
キャスト陣は、ジョン・アフレック自身の抑えた演技をはじめ、ジョン・グッドマンやアラン・アーキンのユーモラスかつリアルな演技が緊張感の中に適度な軽やかさを添え、作品全体のバランスを整えている。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
通称「カナダの陰謀」と呼ばれる事件を題材としたこの映画は、舞台となったイラン国内では「反イランのプロパガンダ」だとして議論を呼んでいる。アメリカ資本のハリウッド映画であるため、立場が変われば言い分も様々。2013年3月には、イラン政府が製作者を提訴するという報道がCSSで流れた。さらに、『アルゴ』に対抗する目的で、米国人の人質約20人がイラン革命派によって米国に引き渡された経緯を描く映画「ザ・ジェネラルスタッフ」を制作するとしている。
こぼれ話
『アルゴ』の脚本は、CIAエージェントだったトニー・メンデスの回顧録と、2007年に公表された情報を基に執筆された。劇中に登場する架空の映画「アルゴ」のタイトルは、実際にジョークとして使われたものに由来している。
ベン・アフレックは監督、主演、製作を兼任し、キャリアの中でも特に評価の高い作品となった。
ベンのキャリアは、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)の脚本を親友のマット・デイモンと共同執筆し、アカデミー賞脚本賞を受賞したことで大きく飛躍した後に、俳優としての低迷期も経験し、一時はスター俳優としての評価に陰りが見えた。
それを打破したのが、監督としての活動である。『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(2007)や『ザ・タウン』(2010)で見せたリアルなストーリーテリングと緊迫感ある演出が高く評価され、本作『アルゴ』でついに彼のキャリアは新たな頂点に達した形だ。
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