バックドラフト(1991)の解説・評価・レビュー

Backdraft アクション(その他)
アクション(その他)

“消防士”映画の金字塔となった熱いヒューマンドラマ ---

ロン・ハワード監督による『バックドラフト』(原題:Backdraft)は、シカゴ消防局を舞台にしたアクション・サスペンス映画で、消防士たちの勇敢な姿と、放火事件の謎を描いた作品である。カート・ラッセル、ウィリアム・ボールドウィン、ロバート・デ・ニーロら豪華キャストが出演し、炎をリアルに描いた圧倒的な映像表現が話題となった。
物語は、父を殉職で亡くしながらも消防士となった兄弟が、危険な火災現場に挑む姿を中心に展開する。一方、シカゴでは「バックドラフト」と呼ばれる爆発的な燃焼現象を利用した放火事件が発生。火災調査官が事件の真相を追う中、兄弟の過去と家族の確執が浮かび上がる。

本作の見どころは、CGをほぼ使用せずに撮影されたリアルな火災シーンであり、実際の消防士たちの協力を得て本物の炎を使った撮影が行われた。迫力ある映像に加え、人間ドラマとミステリー要素が絡み合うストーリーが観客を引き込む。
映画は批評的にも興行的にも成功し、世界興行収入は152億ドル(当時のレートで約200億円)を記録。アカデミー賞では音響編集賞と視覚効果賞にノミネートされた。現在でも消防士映画の代表作として語り継がれており、その影響で本作を観て消防士を志した人も多いとされる。

『バックドラフト』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


シカゴ消防局に勤務するスティーブン・”ブル”・マカフレイ(カート・ラッセル)は、勇敢で経験豊富なベテラン消防士。一方、弟のブライアン(ウィリアム・ボールドウィン)は、父を火災で亡くした過去を抱えながらも、兄と同じ消防士としての道を歩み始める。しかし、現場では経験不足を露呈し、兄との確執も深まっていく。
そんな中、市内では連続放火事件が発生。火災調査官のロン・ドナルド(ロバート・デ・ニーロ)は、放火に「バックドラフト」と呼ばれる爆発的燃焼現象が利用されていることを突き止める。ブライアンは消防士の道を迷いながらも、ドナルドの調査を手伝うことになり、放火犯の手がかりを追い始める。

調査が進むにつれ、事件の背後には消防局内部の人物が関与している可能性が浮上する。やがて、ブライアンは放火犯の正体とその動機を知ることになるが、兄ブルとの関係や消防士としての誇りを試される事態に直面する。
燃え盛る炎の中で命を懸ける消防士たちの勇姿、兄弟の葛藤、そして放火の真相が絡み合う中、ブライアンは人生の大きな決断を迫られることになる。炎の恐ろしさと、人々を守る消防士の使命感が交錯するストーリーは、クライマックスへと向かって加速していく。

『バックドラフト』の監督・主要キャスト

  • ロン・ハワード(37)監督
  • カート・ラッセル(40) スティーブン・”ブル”・マカフレイ
  • ウィリアム・ボールドウィン(28) ブライアン・マカフレイ
  • ロバート・デ・ニーロ(47) ロナルド・”ロン”・ドナルド
  • ドナルド・サザーランド(55) ロナルド・バーテル
  • ジェニファー・ジェイソン・リー(29) ジェニファー・バグレー
  • スコット・グレン(49) ジョン・”アックス”・アダコーン
  • J・T・ウォルシュ(47) マーティン・スウェイザック

(年齢は映画公開当時のもの)

『バックドラフト』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 5.0 ★★★★★
・大切な人と観たい 3.0 ★★★☆☆
・ひとりでじっくり 2.0 ★★☆☆☆
・「バックドラフト現象」 5.0 ★★★★★
・ 消防士かっこいい 5.0 ★★★★★

ポジティブ評価

『バックドラフト』は、消防士映画の金字塔と呼ぶにふさわしい作品であり、その最大の魅力は何といっても“炎の迫力”にある。CG全盛の現代と違い、本作はほぼすべての火災シーンを実際の炎を使って撮影。燃え盛る建物の中で消防士たちが命懸けで突入していくシーンは、まるで視聴者も炎の熱を感じるかのような臨場感。「バックドラフト」と呼ばれる爆発的燃焼の描写は圧巻で、視覚的なインパクトだけでなく、この現象の名前を世間に周知した。

単なるアクションではなく、消防士兄弟の確執や、父の死によるトラウマ、そしてチームの絆を描いた熱い人間ドラマも評価が高い。カート・ラッセル演じる兄ブルの強さと優しさが共存するキャラクターは、まさに“消防士の鑑”といえる頼もしさがある。
さらに、ロバート・デ・ニーロとドナルド・サザーランドという名優が脇を固め、物語にサスペンス要素を加えている点も見逃せない。デ・ニーロ演じる火災調査官の冷静な分析と、サザーランド演じる怪しげな囚人の狂気じみた演技は、それぞれ異なる角度から“炎”という存在の恐ろしさを視聴者に伝えてくる。これによりミステリーとしても楽しめる作りになっている。

消防士の仕事をリアルに描いたこともあり、本作の影響で実際に消防士を志した人も多いとされる。映画を観た後、「消防士カッコいい」となるか、「いや、これは無理」と戦慄するかは人それぞれだが、いずれにせよ“炎の魅力と恐怖”をここまで映像で表現できた作品は他に類を見ないだろう。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

低評価というほどではないが、兄弟の確執、放火事件の謎、恋愛要素など、詰め込まれたストーリーが多く若干焦点がぼやけるか。登場人物たちの行動が時折“熱すぎる”のも本作の特徴で、消防士同士のぶつかり合いが多く、「現場で殴り合ってて大丈夫?」とツッコミたくなる瞬間もある。その熱さこそがザ・アメリカ映画の醍醐味ではあるのだが。一番好きな映画として『バッグドラフト』を挙げる人もいる。概ね90年代初期の名作と評価されることが多く、ネガティブ評価はあまり見られない作品。

こぼれ話

『バックドラフト』は、消防士映画の代表作として知られるが、その制作過程もまさに“火を使った大勝負”だった。監督のロン・ハワードは、「炎そのものをキャラクターにする」というコンセプトを掲げ、CGに頼らず本物の火を使って撮影することを決意。結果として出演者たちはリアルな火災現場さながらの環境で演技することになり、カート・ラッセルをはじめとするキャスト陣は消防士さながらの訓練を受けた。撮影中には実際に火傷を負うスタッフもいたという。

また、ロバート・デ・ニーロ演じる火災調査官の役は、実在の火災調査官をモデルにしており、彼自身も撮影前に消防士や調査官と共に過ごし、リアリティを追求していた。そのため、劇中で彼が見せる鋭い推理や、火災現場での冷静な態度は本職さながら。まさに「デ・ニーロならではの職業研究」が光る演技となっている。

さらに、ドナルド・サザーランドが演じた放火犯バーテルの役柄は、当初は別の俳優が予定されていたが、サザーランドの怪演ぶりがあまりにもハマりすぎていたため、彼に決定したという噂もある。確かに、彼の不気味な微笑みと独特の語り口は、映画全体にゾクッとする緊張感を与えており、「火を操る者」の狂気を見事に表現している。

なお、本作の影響力は映画界にとどまらず、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンをはじめ、世界各地のユニバーサル・スタジオで「バックドラフト・アトラクション」が誕生。実際に炎が爆発する中を体験できるこのアトラクションは、映画の迫力をリアルに再現し多くの来場者を魅了した(USJでは2023年5月に廃止)。

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