心理戦と、映画史に残ったワンショット ---
1992年公開の『氷の微笑』(原題:Basic Instinct)は、ポール・バーホーベン監督による心理サスペンス映画である。主演はマイケル・ダグラスとシャロン・ストーン。脚本はジョー・エスターハスが執筆し、官能的な描写とスリリングなミステリーが融合した作品となっている。物語は、元ロックスターが殺害された事件を捜査する刑事が、容疑者のミステリアスな女性作家に翻弄されていくというもの。
本作は、その挑発的な演出と、視聴者を惑わせるミステリー展開が話題を呼び、全世界で3億5,200万ドル(当時のレートで約440億円)を超える興行収入を記録。特に、シャロン・ストーン演じるキャサリン・トラムエルの大胆な演技は、映画史に残るアイコニックなものとなった。アカデミー賞では編集賞と作曲賞にノミネートされるなど、映画的完成度も評価されている。公開当時、過激な内容が議論を呼んだが、現在もエロティック・サスペンスの代表作として高い人気を誇る。
『氷の微笑』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
サンフランシスコで元ロックスターのジョニー・ボズが殺害される。事件を担当する刑事ニック・カラン(マイケル・ダグラス)は、容疑者として浮上した作家キャサリン・トラムエル(シャロン・ストーン)を尋問するが、彼女は巧みな話術と挑発的な態度で捜査官たちを翻弄する。キャサリンは小説の中で、ボズの殺害方法と酷似した殺人を描いており、そのことが彼女の疑惑を深めるが、決定的な証拠は見つからない。
一方、ニックはキャサリンに強く惹かれ、捜査を続けるうちに次第に彼女の心理的な罠に絡め取られていく。彼の過去の問題行動や精神的な脆さも影響し、彼の判断力は徐々に揺らぎ始める。そして、事件の真相が明らかになるにつれ、新たな殺人が発生し、ニックは次第に追い詰められていく。果たしてキャサリンは本当に犯人なのか、それとも彼女自身もまた罠にはめられた犠牲者なのか――真実は最後まで明かされないまま、観る者を惑わせ続ける。
『氷の微笑』の監督・主要キャスト
- ポール・バーホーベン(53)監督
- マイケル・ダグラス(47)ニック・カラン
- シャロン・ストーン(34)キャサリン・トラムエル
- ジーン・トリプルホーン(29)ベス・ガーナー
- ジョージ・ズンザ(46)ガス・モラン
- レイラニ・サレル(25)ロキシー
- チェルシー・ロス(50)タルコット
- ウェイン・ナイト(37)ジョン・コレリ
(年齢は映画公開当時のもの)
『氷の微笑』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 2.0 ★★☆☆☆ |
・大切な人と観たい | 3.0 ★★★☆☆ |
・ひとりでじっくり | 5.0 ★★★★★ |
・現代のフィルムノワール | 4.0 ★★★★☆ |
・巧妙で危険な心理戦 | 5.0 ★★★★★ |
ポジティブ評価
『氷の微笑』は、1990年代を代表するエロティック・サスペンスの傑作であり、視聴者を翻弄する巧妙なストーリー展開が魅力の作品だ。シャロン・ストーン演じるキャサリン・トラムエルの妖艶さと知的な魅力が、本作を単なるミステリー映画ではなく心理戦を描いたスリラーへと昇華させている。彼女の振る舞い一つ一つが計算され尽くしており、「どこまでが本音で、どこからが演技なのか?」と観客すら試されているかのような感覚に陥る。
マイケル・ダグラスの演じる刑事ニック・カランも、単なる正義の味方ではなく、過去に問題を抱えた複雑な人物として描かれており、キャサリンとの関係性にスリルを生み出している。
演出の面では、特にキャラクター同士の緊張感を高めるカメラワークが秀逸だ。有名な尋問シーンでは、静かな部屋の中での巧みなカット割りが、キャサリンの支配的な存在感を際立たせている。このシーンは、”映画史に残るほどのインパクト“を持ち、公開当時から現在に至るまで語り継がれている。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
官能的なシーンが多く、そうした要素を楽しめるかどうかで評価が分かれる。またそのような話題が先行しため「エロティック・スリラー」と定義され、中身に対する評価がやや影を潜めてしまったことが勿体なくもある(シャロン・ストーン自身もキャリアの中でこのイメージに苦しむことになる)。
ストーリーについてあえてツッコミを入れると、刑事のマイケル・ダグラスが次第にシャロン・ストーンに惹かれていく過程は、冷静に考えると「もう少し慎重になったほうが…」と首を傾げる部分もある。彼の判断ミスが多いため、刑事としての能力に若干の疑問を抱く視聴者がいるかもしれない。
こぼれ話
『氷の微笑』といえば、シャロン・ストーンのアイコニックな尋問シーン。彼女は後に「撮影時、監督から“下着は不要”と言われたが、まさかあんな風に映るとは思っていなかった」と語っており、完成版を試写で見た際にはショックを受けたという。ただし、最終的には「結果的に映画の象徴的なシーンになったので、後悔はしていない」と受け入れたそうだ。それは”映画史で最も一時停止されたシーン”となった。
また、キャサリン・トラムエル役は当初、ミシェル・ファイファー、メグ・ライアン、キム・ベイシンガーなどの大物女優にもオファーされていたが、いずれも断られたという。そこで、当時まだ無名に近かったシャロン・ストーンが抜擢され、一躍スターとなった。結果的に、この役が彼女のキャリアを決定づけたことを考えると、映画界の運命の妙を感じさせる。
一方、マイケル・ダグラスも本作への出演を決める際、かなり慎重だったと言われている。脚本を読んだ彼は「刺激的すぎるのでは?」と懸念し、共演者に有名女優を求めたが、結局シャロン・ストーンが相手役に決まり、彼自身も「この映画が成功するかどうかは未知数だった」と語っている。しかし、ふたを開けてみれば、世界的ヒットを記録し、彼の代表作の一つとなった。こうした迷いもあったことを考えると、ダグラス自身もキャサリンの心理戦に巻き込まれていたのかもしれない。
みんなのレビュー