ベルファスト(2021)の解説・評価・レビュー

ベルファスト 家族ドラマ
家族ドラマ

1960年代を生きる少年の目線 ---

『ベルファスト(Belfast)』は、2021年に公開されたヒューマンドラマで、ケネス・ブラナーが自身の幼少期をもとに脚本・監督を務めた自伝的作品である。物語は、北アイルランド紛争の始まりとなる1960年代後半のベルファストを舞台に、少年バディの目を通して描かれる家族の絆と葛藤を描写する。ジュード・ヒルが主人公バディ役を熱演し、キャトリーナ・バルフやジェイミー・ドーナンがその両親を演じた。

作品は第94回アカデミー賞で7部門にノミネートされ、脚本賞を受賞。モノクロ映像を主体にした映像美と、ヴァン・モリソンの楽曲が織りなすノスタルジックな空気感が絶賛された。監督が自信の記憶をもとに描いたこの作品は、戦争や分断を背景に家族愛と故郷への想いを紡ぎ出した感動作である。

『ベルファスト』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


1969年、北アイルランドのベルファストで暮らす9歳の少年バディは、家族や友人に囲まれながら、活気ある街の中で幸せな日々を過ごしていた。しかし、プロテスタントとカトリックの宗教対立が激化し、街は暴動の嵐に巻き込まれていく。バディの家庭もまたその影響を受け始める。

父親は家族を経済的に支えるためイギリス本土で働きながら不在がちで、母親は不安を抱えながらも子どもたちを守り、家族の絆を必死に維持しようとする。そんな中、バディは祖父母の温かい愛情や友人との冒険を通じて、幼いながらも変わりゆく世界に向き合っていく。暴力がエスカレートする街で、家族は安全な生活を求めてベルファストを離れるか、故郷への愛と誇りを胸にとどまり続けるかという困難な選択に直面する。
激動の時代の中、バディは子ども心に深い悲しみや喜びを抱えながら、日常の中に隠された大切なものを見つけていくのだった。

『ベルファスト』の監督・主要キャスト

  • ケネス・ブラナー(60)監督
  • ジュード・ヒル(11)バディ
  • キャトリーナ・バルフ(42)母
  • ジェイミー・ドーナン(39)父
  • シアラン・ハインズ(68)祖父
  • ジュディ・デンチ(87)祖母
  • コリン・モーガン(35)ビリー・クラン
  • ルイス・マクアスキー(12)モイラ

(役者の年齢は公開時点のもの)

『ベルファスト』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 2.0 ★★☆☆☆
・大切な人と観たい 4.0 ★★★★☆
・ひとりでじっくり 4.0 ★★★★☆
・家族で観たい 5.0 ★★★★★
・カメラワークが秀逸 4.0 ★★★★☆

家族と少年のまなざし

モノクロ映像と部分的に挿入されたカラーの演出が、この映画の時代背景と少年の視点の両方を巧みに表現している。
なんといってもジュード・ヒルの自然体の演技が「最高の子役」と言われるほど素晴らしく、さまざまな映画評論家からの称賛を受けた。彼を通じて、視聴者はノスタルジーに浸ることができ、それぞれの故郷に思いを馳せる。
キャトリーナ・バルフとジェイミー・ドーナンは、時代に翻弄されながら対立する親の立場を見事に演じ、家族の絆と葛藤をリアルに描き出した。また、シアラン・ハインズとジュディ・デンチが演じる祖父母は、物語に温かみと深みを加えた。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

理解しにくい宗教(宗派)対立が描かれており、現代日本において共感しにくい文脈ではある。その点においては北アイルランドの歴史を事前に頭に入れると理解が深まる。
物語の根底に流れる家族の葛藤はどこにでもある普通の家庭。少年のまなざしが哀愁を感じさせ、美しい。

こぼれ話

『ベルファスト』はケネス・ブラナー監督にとって初の自伝的作品であり、彼が9歳のときに経験した北アイルランド紛争が背景となっている(舞台は1960年代)。映画の撮影はイギリスやアイルランドで行われたが、ケネス・ブラナー自身は多くのシーンを記憶を基に忠実に再現したと語っている。劇中に流れるヴァン・モリソンの楽曲は、監督の故郷ベルファストと彼の記憶に特別な意味を持つものである。

本作は第94回アカデミー賞で脚本賞を受賞し、監督が長年温めてきたプロジェクトがついに実を結んだことが話題となった。

みんなのレビュー