ブラックホーク・ダウン(2001)の解説・評価・レビュー

ブラックホーク・ダウン ミリタリーアクション
ミリタリーアクション実話(事件題材)戦争ドラマ

『ブラックホーク・ダウン』(原題:Black Hawk Down)は、2001年に公開されたリドリー・スコット監督による戦争映画で、1993年に実際に起きた「モガディシュの戦闘」を描いている。実話を基にしたマーク・ボウデンのノンフィクション著書を原作とし、アメリカ軍がソマリアの武装勢力を壊滅させるために行った作戦が、予期せぬ事態により大規模な市街戦へと発展していく様子を緻密に描く。

ジョシュ・ハートネットやユアン・マクレガーらを中心に、個性豊かな兵士たちの視点を通じて、過酷な戦場の現実をリアルに再現している。本作は、戦場の迫力と臨場感が高く評価され、第74回アカデミー賞では編集賞音響賞を受賞した。興行収入は全世界で約1億7,300万ドル(当時のレートで約200億円)を記録し、戦争映画の傑作として広く知られている。徹底したリアリズムとスリリングな展開で、観客に戦争の苛烈さと兵士たちの葛藤を強く印象付けた作品である。

『ブラックホーク・ダウン』あらすじ紹介(ネタバレなし)

1993年、アメリカ軍はソマリアの首都モガディシュで、人道支援物資を奪い合う武装勢力のリーダー、アイディード将軍の勢力を弱体化させるための作戦を展開していた。作戦の一環として、アメリカ特殊部隊がアイディードの側近を捕らえるため、市街地にヘリコプターで突入する計画が立てられる。短時間で完了するはずのこの任務は、ブラックホーク・ヘリコプターが敵の攻撃で撃墜されたことで一変する。

墜落現場を防衛し、仲間を救出するため、地上部隊と空中支援が総力を挙げて奮闘するが、激しい市街戦が長時間にわたって続き、状況は悪化の一途をたどる。弾薬や食料が尽きる中、兵士たちは生き延びるために絶え間なく戦い続ける。モガディシュの混沌とした街で展開される極限状態の戦闘は、兵士たちの勇気や絆、そして過酷な戦争の現実を浮き彫りにしていく。彼らは果たして、この地獄のような状況から生還することができるのか――。

『ブラックホーク・ダウン』の監督・主要キャスト

  • リドリー・スコット(64)監督
  • ジョシュ・ハートネット(23)マット・エヴァースマン軍曹
  • ユアン・マクレガー(30)ジョン・“グライムズ”・グライムズ准尉
  • エリック・バナ(33)ノーマン・“フート”・フートン一等軍曹
  • トム・サイズモア(40)ダニー・マクナイト中佐
  • ウィリアム・フィクナー(45)ジェフ・サンダーソン軍曹
  • ジェイソン・アイザックス(38)マイク・スティール大尉
  • サム・シェパード(57)ウィリアム・F・ギャリソン少将

(年齢は映画公開当時のもの)

『ブラックホーク・ダウン』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 2.0 ★★☆☆☆
・大切な人と観たい 2.0 ★★☆☆☆
・ひとりでじっくり 5.0 ★★★★★
・戦争の過酷さ 5.0 ★★★★★
・リアルな戦場の音声 5.0 ★★★★★

戦場の過酷な現実を描く傑作

『ブラックホーク・ダウン』は、1993年にソマリアで起きた「モガディシュの戦闘」の実話を基に戦争の過酷さと混乱をリアルに描き出した作品で、物語全体がほぼ戦場の中だけで展開される。
作戦が思い通りに進まない中で、次々と状況が悪化し、限られたリソースの中で戦い続ける兵士たちの姿は戦争の悲惨さを伝え、敵味方の明確な区別がつきにくい市街戦の恐ろしさや、戦場における一瞬の判断ミスが命取りになることを痛感させられる。
ジョシュ・ハートネットやユアン・マクレガー、エリック・バナらが演じる兵士たちは、英雄的な描写ではなく、極限状態で葛藤しながらも生き延びようとする「一兵士」として描かれる。その為、視聴者は感情移入し易い。

本作の音響設計や編集は高い評価を受け、第74回アカデミー賞で音響賞と編集賞をそれぞれ受賞した。弾丸が飛び交う音やヘリコプターの爆音、緊張感を高める音楽は、映画全体の没入感を大きく支える要素となっている。『ブラックホーク・ダウン』は戦場の過酷さ描き切り、現代戦争映画に残る傑作といえるだろう。

『ブラックホーク・ダウン』の時代背景(事件の概要)

1993年のモガディシュの戦闘(通称「ブラックホーク・ダウン事件」)は、ソマリア内戦中に米軍とソマリア民兵が激突した戦闘のこと。背景には、1991年に独裁者モハメド・シアド・バーレ政権が崩壊した後、ソマリアが無政府状態に陥り、各地で武装勢力が台頭したことがある。特に首都モガディシュでは、モハメド・ファラ・アイディード将軍率いるソマリア国民同盟(SNA)が国連の人道支援物資を掌握し、飢餓に苦しむ民衆を支配していた。

国連平和維持活動の一環として、アメリカは「希望回復作戦」を展開し、アイディードの排除を目指した。1993年10月3日、米軍特殊部隊(デルタフォース、レンジャー部隊)がアイディードの側近2名を拘束する作戦を実行。しかし作戦中にUH-60ブラックホーク・ヘリ2機が撃墜され、米兵が市街地に孤立。彼らを救出するため激しい戦闘が繰り広げられ、米兵19名が戦死、約1,000名のソマリア民間人も犠牲となった。
この事件は、アメリカの対外軍事介入政策に大きな影響を与え、翌年クリントン政権はソマリアからの撤退を決定した。

こぼれ話

リドリー・スコット監督は、実際のモガディシュの戦闘を忠実に再現するため、膨大なリサーチを行い、米軍や事件関係者からの証言をもとに物語を構築した。
撮影はモロッコで行われ、ソマリアの荒廃した都市の雰囲気をリアルに再現するため、大規模なセットが使用された。また、兵士たちが使用する武器や装備は本物を基に製作され、徹底したディテールへのこだわりが随所に感じられる。

キャスト陣も、撮影に臨む前に本格的な軍事訓練を受け、実際の兵士の行動や戦術を学んだ。ジョシュ・ハートネットやエリック・バナらは、訓練を通じて兵士同士の連携や緊張感を体感し、その経験が映画のリアルな演技に反映されているという。また、撮影中には激しいアクションシーンが続いたため、キャストやスタッフが頻繁に負傷することもあり、過酷な現場だったと伝えられている。

さらに、映画のテーマ曲「Leave No Man Behind」は、作曲家ハンス・ジマーが手掛けたもので、戦場での連帯感や悲壮感を象徴する名曲として高く評価された。
ちなみに、巨匠ハンス・ジマーが手掛けた映画音楽は次の物がある(抜粋)。

  • 『レインマン』 (1988)
  • 『バックドラフト』 (1991)
  • 『ライオン・キング』 (1994)
  • 『ラスト サムライ』 (2003)
  • 『バットマン ビギンズ』 (2005)、『ダークナイト』 (2008)、『ダークナイト ライジング』 (2012)
  • 『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ (2003–2011)
  • 『DUNE/デューン 砂の惑星』 (2021)

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