7月4日に生まれて (1989)の解説・評価・レビュー

Born on the Fourth of July ヒストリー
ヒストリー戦争ドラマ

愛国心の在り方を問う、アメリカの反戦映画 ---

1989年公開の『7月4日に生まれて』(原題:Born on the Fourth of July)は、 オリバー・ストーン監督 による戦争ドラマ映画で、ベトナム戦争帰還兵 ロン・コーヴィック の自伝を基にした作品。主演のトム・クルーズ が、愛国心に燃えて戦争に参加するも、戦場の過酷な現実に直面し、帰国後に反戦運動へと転じていく男の姿を熱演した。
物語は、アメリカ独立記念日の 7月4日 に生まれたロン・コーヴィック(トム・クルーズ)が、 祖国を守る使命感 に突き動かされて海兵隊へ入隊するところから始まる。しかし、ベトナム戦争で 下半身不随となる重傷を負い 、帰国後は戦争の英雄として扱われるどころか、政府や社会の冷たい現実に直面。次第に戦争に対する考えを変え、 反戦活動のリーダーへと変貌していく。

本作は、戦争の悲惨さだけでなく、帰還兵が直面するアメリカ国内の矛盾 や、国によって翻弄される兵士の心理をリアルに描写。オリバー・ストーン監督の実体験に基づく強烈な戦争批判が込められた作品となっている。
1990年の アカデミー賞では監督賞を含む2部門を受賞し、トム・クルーズも ゴールデングローブ賞主演男優賞(ドラマ部門)を受賞。彼のキャリアにおいて、1988年の『レインマン』に続いて本格派俳優としての評価を獲得した。

『7月4日に生まれて』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


1950年、アメリカ独立記念日の 7月4日 に生まれたロン・コーヴィック(トム・クルーズ)は、幼い頃から 愛国心に満ちた少年 として育つ。1960年代、彼は「祖国のために戦うことが最高の名誉」と信じ、海兵隊に志願。ベトナム戦争の激戦地へと赴く。

しかし、戦場での現実は、彼が思い描いていた英雄的な戦争とはかけ離れていた。戦闘中に 誤って民間人を殺害するというショッキングな経験をし、さらに仲間を誤射するという悲劇 に直面。戦争の混乱の中で精神的に追い詰められていく。そして、ある戦闘で銃撃を受け、下半身不随となる重傷を負う。帰国後、ロンは 英雄扱いされることを期待するが、待っていたのは冷たい現実だった。戦争に対する国民の反発が強まり、帰還兵に対する差別や無関心が広がる中、彼は自分の存在意義を見失っていく。さらに、劣悪な病院施設や政府の無責任な対応に絶望し、酒と怒りに溺れる日々を送る。

しかし、やがてロンは自らの経験を語ることで、戦争の真実を伝えようと決意 する。彼は反戦活動に参加し、戦場での過ちと現実を訴えながら、ベトナム戦争に翻弄された兵士たちのために声を上げていく。

彼の人生は「愛国心に燃える若者」から「戦争の被害者」、そして「戦争反対を訴える活動家」 へと大きく変わっていくのだった——。

『7月4日に生まれて』の監督・主要キャスト

  • オリバー・ストーン(43)監督
  • トム・クルーズ(27) ロン・コーヴィック
  • ウィレム・デフォー(34) チャーリー
  • キラ・セジウィック(24) ドナ
  • レイモンド・J・バリー(50) ミスター・コーヴィック(ロンの父)
  • キャロライン・カヴァ(46) ミセス・コーヴィック(ロンの母)
  • フランク・ホエーリー(25) ティミー
  • ジョシュ・エヴァンス(18) スティーヴ・ボイス

(年齢は映画公開当時のもの)

『7月4日に生まれて』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 2.0 ★★☆☆☆
・大切な人と観たい 3.0 ★★★☆☆
・ひとりでじっくり 5.0 ★★★★★
・トム・クルーズの新境地 5.0 ★★★★★
・反戦映画 5.0 ★★★★★

ポジティブ評価

『7月4日に生まれて』は、 オリバー・ストーン監督の実体験を反映した強烈な戦争批判と、トム・クルーズの渾身の演技が評価された作品。オリバー・ストーン監督は、彼自身がベトナム帰還兵である。一般的な戦争映画の英雄的な描写とは異なり、戦場の混乱と悲惨さを描いている。その上で帰還兵が直面する社会の無関心や裏切りを描くことで、戦争の「その後」に焦点を当てた。

トム・クルーズは、若く純粋な兵士が絶望と怒りに満ちた帰還兵へと変貌していく様子を、これまでの彼のイメージを覆すほどの演技力で表現している。身体の自由を奪われたことで怒りや無力感に苛まれ、自暴自棄になっていく姿が痛々しくもリアルに描かれている。トム・クルーズはこの役を演じるために 車椅子での生活を体験し、実際の帰還兵と交流 するなど徹底した役作りを行い、結果として ゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞するに至った。

また、本作は 戦争の前後を通じて「愛国心の変化」を描いた点も秀逸である。主人公のロン・コーヴィックは、最初は「祖国のために戦う」ことが誇りだと信じていたが、戦争の実態を知り、さらに帰還後に社会から見捨てられることで、自身の価値観が大きく揺らいでいく。その心理的な変化が丁寧に描かれており、視聴者に「戦争とは何か?」「本当の愛国心とは?」という問いを投げかける構成になっている。
チャーリーは同じく戦争で障害を負った帰還兵でありながら、異なる価値観を持つ存在としてロンの変化を促す重要な役割を果たす。彼との対話や衝突を通じて、ロンが最終的に 「国のために戦う」のではなく、「国を変えるために戦う」という新たな決意をする。
7月4日はアメリカの独立記念日である。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

ベトナム戦争に対する現代アメリカの評価は、複雑かつ多岐にわたる。アメリカ史上最も議論を呼んだ戦争の一つであり、その評価は世代や政治的立場によって異なる。映画の主人公のように、個人的な経験によっても異なるか。
否定的な立場としては、ベトナム戦争をアメリカの過ちであり、戦争の悲惨さ、アメリカ兵の死傷者数、何よりもベトナムの人々が受けた苦しみに対して深い悲しみを抱く。
肯定的な評価としては、共産主義の拡大を阻止するための戦いで、アメリカが南ベトナムを支援し、共産主義の侵攻を食い止めるために戦ったことを強調する。実際に、ベトナム戦争に従軍した兵士たちの中には、祖国のために戦ったことを誇りに思っている人もいる。
アメリカの教科書ではこの戦争に対し、戦略的欠陥や政治的目的の不明確さが指摘されているという。戦争の原因、経過、結果、社会に与えた影響などが詳述され、様々な立場からの意見や証言を紹介することで学生が自分自身で判断できるように構成されているのだとか。
映画が描くメッセージもまた、立場によって感じ方が異なるだろう。ただ、オリバー・ストーン監督によるこの作品の出来栄えそのものについてネガティブな批評は見られない。

こぼれ話

『7月4日に生まれて』は、オリバー・ストーン監督の「ベトナム戦争3部作」の2作目として制作された。1作目は『プラトーン』(1986)、3作目は『天と地』(1993)であり、それぞれ異なる視点からベトナム戦争を描いている。本作は、帰還兵の視点から戦争の後遺症を描く作品であり、ストーン監督自身の実体験や戦争への批判が色濃く反映されている。

トム・クルーズにとって、本作はキャリアの大きな転機となった。それまで『トップガン』(1986)などのアクション映画で人気を博していた彼にとって、本作のようなシリアスな社会派ドラマは初の試みだった。クルーズはこの役に全身全霊を注ぎ、実際に車椅子で生活し、帰還兵たちと交流し、ロン・コーヴィック本人とも長時間話し合うなど、徹底した役作りを行った。その努力が実を結び、彼はゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞し、「単なるアイドル俳優ではなく、本格派の演技派俳優」としての評価を確立した。

本作のモデルであるロン・コーヴィック本人は、映画の製作にも積極的に関わった。オリバー・ストーン監督と共に脚本を執筆し、トム・クルーズの演技指導にも協力。また、コーヴィックは映画の公開後、トム・クルーズの演技を大絶賛し、「まるで自分自身をスクリーンで見ているようだった」とコメントしている。

本作でロンの重要な友人となる帰還兵チャーリーを演じたウィレム・デフォーは、かつて『プラトーン』で善良な兵士エリアスを演じていた。しかし、同作で彼を裏切ったのが、トム・ベレンジャー演じる冷酷な軍人バーンズ。この2人の因縁のような関係が、『7月4日に生まれて』では逆転し、デフォー演じるチャーリーがトム・クルーズ演じるロンを導く立場になった。オリバー・ストーン監督の中では、何かしらの繋がりを意識していたのかもしれない。
ロン・コーヴィックは、実際に1972年の共和党全国大会で抗議活動を行い、警察に逮捕された。映画でもそのシーンが描かれており、トム・クルーズがリアルに演じている。この場面は、アメリカにおける反戦運動の象徴的な出来事の一つであり、帰還兵たちがどのような思いで戦争と向き合っていたのかを伝える重要なシーンとなっている。

本作はアカデミー賞で8部門にノミネートされ、監督賞と編集賞を受賞したものの、作品賞は『ドライビング Miss デイジー』に敗れた。この結果には「より社会的なテーマを持つ本作が選ばれるべきだった」という意見もあったが、一方で『ドライビング Miss デイジー』の温かみのあるストーリーが評価されたとも言われている。

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