カジノ(1995)の解説・評価・レビュー

Casino クライムサスペンス
クライムサスペンスマフィア実話(事件題材)

スコセッシ監督が描くラスベガスの光と影 ---

1995年公開の『カジノ』(原題:Casino)は、マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演による犯罪ドラマ。実在の事件を基に、1970年代から80年代のラスベガスを舞台にしたマフィアとカジノ経営の内幕を描く。原作はニコラス・ピレッジのノンフィクション『Casino: Love and Honor in Las Vegas』で、スコセッシは本作の脚本をピレッジと共同執筆した。

物語は、カジノ運営の天才サム・“エース”・ロススティーン(ロバート・デ・ニーロ)が、マフィアの後ろ盾を受けてラスベガスの巨大カジノを成功へと導くが、暴力的な幼なじみのニッキー(ジョー・ペシ)や、愛する女性ジンジャー(シャロン・ストーン)との関係により、次第に崩壊していく様子を描く。スコセッシ監督ならではのリアルな暴力描写と、ラスベガスの華やかさと裏社会の腐敗が交錯する世界観が見どころとなっている。

シャロン・ストーンは本作での演技が高く評価され、第53回ゴールデングローブ賞主演女優賞(ドラマ部門)を受賞し、さらにアカデミー賞主演女優賞にもノミネートされた。ロバート・デ・ニーロとジョー・ペシは、スコセッシ監督とのコンビとして『グッドフェローズ』(1990年)に続く共演となり、再び存在感を発揮している。興行収入は全世界で約1億1,600万ドル(当時のレートで約75億円)を記録し、現在もスコセッシ監督の代表作の一つとして語り継がれている。

『カジノ』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


1970年代、ラスベガスの巨大カジノ「タンジール」は、シカゴのマフィアが裏で支配する賭博の中心地だった。カジノ運営の天才、サム・“エース”・ロススティーン(ロバート・デ・ニーロ)は、その手腕を買われ、マフィアの支援を受けながらカジノを繁栄させる。彼の経営は極めて精密で、イカサマや不正を徹底的に排除し、莫大な利益を生み出していた。

しかし、エースの幼なじみであり、マフィアの実力者ニッキー・サントロ(ジョー・ペシ)がベガスに送り込まれたことで、状況は一変する。短気で暴力的なニッキーは、街で次第に勢力を拡大し、カジノのビジネスに悪影響を及ぼし始める。一方、エースは美しく聡明なジンジャー(シャロン・ストーン)に惹かれ、彼女と結婚するが、ジンジャーは元恋人レスター(ジェームズ・ウッズ)への執着を捨てきれず、次第に酒とドラッグに溺れていく。

マフィアの権力争い、FBIの捜査、そしてエースとジンジャーの破滅的な関係——。ラスベガスの華やかさの裏で、裏社会のルールが崩壊していく中、エースの築き上げた帝国の行く末は何処にーーー。

『カジノ』の監督・主要キャスト

  • マーティン・スコセッシ(53)監督
  • ロバート・デ・ニーロ(52)サム・“エース”・ロススティーン
  • シャロン・ストーン(37)ジンジャー・マッケンナ
  • ジョー・ペシ(52)ニコラス・“ニッキー”・サントロ
  • ジェームズ・ウッズ(48)レスター・ダイアモンド
  • ドン・リックルズ(69)ビリー・シャーバート
  • ケヴィン・ポラック(38)フィリップ・グリーン
  • フランク・ヴィンセント(56)フランク・マリーノ
  • アラン・キング(68)アンディ・ストーン

(年齢は映画公開当時のもの)

『カジノ』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 2.0 ★★☆☆☆
・大切な人と観たい 3.0 ★★★☆☆
・ひとりでじっくり 4.0 ★★★★☆
・シャロン・ストーン圧巻の演技 5.0 ★★★★★
・光と影の対比 4.0 ★★★☆☆

ポジティブ評価

『カジノ』は、マーティン・スコセッシ監督が『グッドフェローズ』(1990年)に続いて描いた実録ギャング映画であり、ラスベガスという、華やかな舞台の裏に潜む犯罪と欲望の世界を描く。ギャングの暗躍、カジノ運営の内幕、そして権力争いが複雑に絡み合うストーリーは見応えがある。

主演のロバート・デ・ニーロは、カジノ経営の天才でありながら、私生活では翻弄されるエース・ロススティーンを静かに、しかし確かな存在感で演じている。一方、ジョー・ペシは『グッドフェローズ』に続き、凶暴で制御不能な男ニッキーを怪演し、彼の存在が物語に緊張感をもたらす。そして、本作でゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞したシャロン・ストーンは、カジノの表舞台と裏社会をつなぐジンジャーを演じ、その魅力と破滅の過程がドラマ性を生み出している。

スコセッシ映画の特徴であるナレーションが本作では特に効果的に使われており、エースとニッキーの視点から語られることで、ラスベガスの光と影がより鮮明に浮かび上がる。美しくきらびやかなカジノの映像と、暴力と裏切りが渦巻くダークなストーリーの対比も見事。衣装や美術も70~80年代のラスベガスを忠実に再現しており、特にデ・ニーロのカラフルなスーツの数々は、映画のスタイルを象徴する要素。カジノの煌びやかな表の顔と、その裏に潜む狂気をここまでリアルに描いた映画は、他に類を見ないだろう。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

カジノ運営の細かな仕組みやマフィアの資金ルートなど、実際の事件を基にしたリアリティを追求しているが、見方によっては経済ドキュメンタリーのように感じるから人を選ぶ作品である。

また、登場人物の多くが道徳的に問題のあるキャラクターばかりで、「共感できる人物がいない」という意見もある。エースはカジノ経営の才覚はあるが独善的で、ニッキーは制御不能な暴力男、ジンジャーは自滅的な選択を繰り返す。彼らの生き様を描くことが映画の魅力ではあるものの、「誰の視点に感情移入すればいいのか分からない」と感じる人もいるかもしれない。

映画全体のトーンが徹底して冷酷で、エンターテインメント性よりも、リアルな犯罪社会の構造を見せることに重点を置いているため、純粋に「爽快なギャング映画」を期待すると、かなりヘビーに感じる可能性がある。

こぼれ話

主人公サム・“エース”・ロススティーンのモデルは、実在のカジノ経営者フランク・“レフトリー”・ローゼンタールであり、映画のストーリーの大部分は実際に起こった事件を基にしている。スコセッシ監督と脚本のニコラス・ピレッジは、綿密な取材を行い、ローゼンタール本人にも話を聞きながら脚本を執筆した。ローゼンタールは映画を観た後、「ほぼ事実通りだが、映画の中の自分のキャラはもう少し感情的すぎる」とコメントしている。
※参考:フランク・ローゼンタール(wikipedia/英文のためブラウザの翻訳機能がお勧め)

また、シャロン・ストーンが演じたジンジャーのモデルは、ローゼンタールの元妻ジェリー・マッギーで、彼女の破滅的な人生も映画に忠実に反映されている。ストーンはこの役のために、派手な衣装やジュエリーを身につけるだけでなく、1970年代のラスベガスの社交界に溶け込むような演技を研究した。その結果、彼女の演技は高く評価され、ゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞し、アカデミー賞にもノミネートされることとなった。

映画のリアリティを追求するため、撮影の多くは実際のカジノで行われた。当初、スコセッシ監督は有名な「シーザーズ・パレス」での撮影を希望していたが、カジノ側が難色を示したため、当時の「リビエラ・ホテル&カジノ」で撮影が行われた。撮影中、ホテルの一部は通常営業を続けており、実際の客が映り込まないよう、慎重なカメラワークが求められたという。ちなみに、映画の中でカジノの監視カメラが不正を見破るシーンがあるが、これは当時のカジノ関係者に取材したリアルな手法が取り入れられている。

ロバート・デ・ニーロが演じたエースは、劇中で無数の派手なスーツを着ているが、その数はなんと約70着にも及ぶ。これらの衣装はすべてオーダーメイドで作られ、デ・ニーロは実際に1970年代のラスベガスの富裕層が着ていたようなデザインを忠実に再現することにこだわった。カラフルなスーツや派手なネクタイは、映画のビジュアル的な魅力を高める要素となっている。この作品は当時のカジノ文化やマフィアの影響を知る歴史的資料のような側面も持ち合わせているため、一度観ただけでは気づかない細かなディテールが随所に隠されている。

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