ゴシックホラー:崩れゆく館に囁く亡霊たち
ゴシックホラーは、歴史的建築や退廃的な美学を背景に、人間の内面に潜む恐怖や狂気を描く映画ジャンルである。古典文学や宗教的象徴、超自然的存在といった要素が織り交ぜられ、閉鎖的な空間と不穏な空気感が物語を支配する。
ジャンルを象徴する作品としては、ギレルモ・デル・トロ監督による『クリムゾン・ピーク』(2015年)がある。19世紀の朽ちた洋館を舞台に、愛と死の境界が曖昧になる物語が展開される。また、メアリー・シェリー原作の文学を映画化した『フランケンシュタイン』(1994年)は、科学と信仰、創造と破壊というゴシックの本質を映像で再現した。さらに、ニコール・キッドマン主演の『アザーズ』(2001年)は、霧に包まれた屋敷と信仰に囚われた母親の心理を通じて、静謐な恐怖を描き出している。
21世紀に入り、ゴシックホラーは純粋なジャンルとしてだけでなく、他ジャンルとの融合によって再評価されている。とくにA24系作品など、ポストホラーの流れの中で、宗教や家族、記憶といった現代的テーマにゴシック的演出が加えられる傾向が強まっている。