サイコホラー・スリラー:壊れゆく心が暴走する
サイコホラー・スリラーは、人間の内面に潜む狂気や偏執、そして心理的な恐怖を描くジャンルである。幽霊や怪物ではなく、“人間そのもの”が最大の脅威として立ち現れる点に特徴がある。
このジャンルを代表する1本としてまず挙げたいのが、『羊たちの沈黙』だ。冷徹な知性を持つ殺人犯と新人捜査官との対話が、緊張感と不穏さを高めながら物語を進行させる。次に取り上げる『セブン』では、連続殺人犯の思考と猟奇的な犯行を追う刑事の視点から、人間の罪と倫理の境界を冷酷にあぶり出している。そして『ブラック・スワン』では、芸術への執着が幻想と現実の裂け目を生み出し、主人公の精神が徐々に崩壊していく様が描かれた。
サイコホラー・スリラーは、現実と地続きの恐怖を扱う点で、時代や社会の不安とも密接に結びついている。近年では、トラウマやメンタルヘルスといった現代的テーマを取り入れつつ、視覚的・構造的に実験的な作品も増加しており、ジャンルの境界を越えた展開が目立っている。