西部劇の文脈を変えたアカデミー作品。大平原が見守る、魂の旅。ーーー
1990年公開の『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(原題:Dances with Wolves)は、ケヴィン・コスナーが監督・主演を務めた歴史ドラマ映画で、アメリカ南北戦争時代を舞台に、白人兵士と先住民の交流を描いた作品。マイケル・ブレイクの同名小説を原作とし、圧倒的な映像美と繊細なストーリーテリングで高く評価された。
物語は、戦場での勇敢な行動により西部の辺境へ赴任した北軍士官ジョン・ダンバーが、スー族と交流を深め、次第に彼らの文化に惹かれていく姿を描く。ダンバーは、彼らと共に暮らすうちに「ダンス・ウィズ・ウルブズ」という名を与えられ、新たな生き方を見出していく。
本作は、先住民を単なる敵としてではなく文化を持つ人々として描いた点が画期的であり、西部劇のイメージを覆す作品となった。広大な大自然を映し出す壮大な撮影、そしてジョン・バリーによる荘厳な音楽も高い評価を受けている。
1991年の アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む7部門を受賞し、ケヴィン・コスナーの監督デビュー作としても大成功を収めた。全世界で4億ドル(当時のレートで約530億円)以上の興行収入を記録し。西部劇の歴史を塗り替えた傑作として記憶されている。
『ダンス・ウィズ・ウルブズ』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
南北戦争末期、北軍の中尉ジョン・ダンバー(ケヴィン・コスナー)は、絶望的な戦況の中で自らの命を投げ出そうとするが、偶然にも勇敢な行動と見なされ、英雄として扱われる。褒賞として西部辺境の砦への赴任を希望した彼は、誰もいない無人の砦「セッジウィック砦」にたどり着く。そこは人の気配のない荒野にポツンと佇む場所だった。
最初は孤独な生活を送っていたダンバーだったが、やがて近隣に住むスー族の存在を知る。最初は警戒し合うが、好奇心と敬意を持って接することで、徐々に彼らと信頼関係を築いていく。特に族長テン・ベアーズや、勇敢な戦士ウィンド・イン・ヒズ・ヘアとの交流を深め、スー族の女性スタンズ・ウィズ・ア・フィスト(メアリー・マクドネル)とも親しくなる。彼女は幼い頃にスー族に育てられた白人女性で、ダンバーとの間に特別な絆が芽生えていく。
スー族と過ごす中で、ダンバーは「ダンス・ウィズ・ウルブズ」という名を与えられ、次第に彼らの文化に溶け込んでいく。しかし、白人開拓者たちの侵略が迫るにつれ、ダンバーは自らのルーツと新たな生き方の間で葛藤を抱くようになる。やがて、彼が下した決断は、彼自身の運命だけでなく、スー族の未来をも大きく揺るがすこととなる。
『ダンス・ウィズ・ウルブズ』の監督・主要キャスト
- ケヴィン・コスナー(35)監督・主演 ジョン・ダンバー / ダンス・ウィズ・ウルブズ
- メアリー・マクドネル(38) スタンズ・ウィズ・ア・フィスト
- グレアム・グリーン(38) キッキング・バード
- ロドニー・A・グラント(31) ウィンド・イン・ヒズ・ヘア
- フロイド・ウェスターマン(53) テン・ベアーズ
- ロバート・パストレリ(36) ティモンズ
- モーリー・チェイキン(40) ジョン・ダンバー大尉
- ウェス・ステュディ(42) パウニ族の戦士
(年齢は映画公開当時のもの)
『ダンス・ウィズ・ウルブズ』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 2.0 ★★☆☆☆ |
・大切な人と観たい | 4.0 ★★★★☆ |
・ひとりでじっくり | 5.0 ★★★★★ |
・新しい西部劇 | 5.0 ★★★★★ |
・アメリカの大自然 | 4.0 ★★★★☆ |
ポジティブ評価
『ダンス・ウィズ・ウルブズ』は、ケヴィン・コスナーの監督デビュー作でありながら映像美と重厚な物語が高く評価され、1991年のアカデミー賞では 作品賞・監督賞を含む7部門を受賞した。その成功が示すように、西部劇の常識を超えたヒューマンドラマとして多くの視聴者の心をつかんだ作品である。
先住民を尊厳を持って描いた点が当時革新的だった。それまでの西部劇ではネイティブ・アメリカンは敵役として描かれることが多かったが、本作では彼らの文化や価値観を深く掘り下げ、単なる「野蛮な存在」ではなく、一つの豊かな文明を持つ人々として描いている。特に、スー族の言葉を実際に使用し、文化をできる限り忠実に再現しようとした点が歴史的な意義を持つ作品として評価された。
広大なアメリカ西部の大自然をとらえた美しく、視聴者を19世紀のフロンティアへ誘う。サントラもこの雄大な風景とマッチして荘厳な雰囲気を与えている。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
『ダンス・ウィズ・ウルブズ』のいくつかの賛否要素を挙げると、そのひとつは3時間という上映時間の長さ。ここは視聴者の好みによるが、テンポの速い映画に慣れている視聴者によっては「美しい風景は堪能したが、続きはよ!」となるかもしれない。ダイナミックな展開よりも、絵画のような映像を楽しみながら心情を丁寧に捉えていく作品である。実はこの映画には4時間を超える再編集版のロングバージョンが存在し、そちらはより評価が高いことで知られる。
もうひとつの賛否要素としては、 映画が白人視点で描かれた物語である点。確かに先住民を尊厳を持って描いたことは画期的だったが、それでも主人公が「文明人」であり、異文化に惹かれる白人が部族の中で特別な存在となるという構図は典型的な「白人救世主」的なストーリーと捉えられることもあり、議論の的にもなっている。
こぼれ話
『ダンス・ウィズ・ウルブズ』は、ケヴィン・コスナーの監督デビュー作として大成功を収めたが、その制作過程には多くの苦労があった。当初、ケィン・コスナーは 「西部劇は時代遅れ」として映画会社に資金提供を断られることが多く、最終的に自身の資金を投じて製作を実現させたという。結果として4億ドル以上の興行収入を記録し、この判断が大成功だったことを証明した。
また、映画のリアリティを追求するために、 登場するスー族のキャラクターたちは、ほぼ全編にわたりラコタ語を話すというこだわりがあった。ネイティブ・アメリカンの描写が単なる装飾ではなく、文化を尊重するものとなるように、キャスト陣はラコタ語の発音や表現を徹底的に学んだ(しかし、撮影後にスー族の一部から「映画で話されているラコタ語は 女性の言葉の表現 が混じっている」と指摘されたというエピソードもある)。とはいえ、当時のハリウッド映画としては画期的な試みであり、ネイティブ・アメリカンの文化を正面から描いた点は高く評価されている。
映画の象徴的なシーンの一つである バッファロー狩りの場面も当時の撮影技術としては驚異的なものだった。このシーンでは 本物のバッファロー(アメリカン・バイソン)を使用し、実際に群れが駆け抜ける姿を撮影。動物愛護団体の監視のもと、特撮やCGではなく、馬に乗ったスタントマンと実際のバッファローが絡むという、今では考えられない手法で撮影された。この大迫力のシーンは、映画の中でも特に印象的な場面の一つとなった。
オオカミの撮影においても、実際に撮影に使われたオオカミは訓練された2匹の狼で、名前は「バック」と「テディ」。ケヴィン・コスナーは彼らと何週間も時間を共にして信頼関係を築き、撮影では本物の友情のような雰囲気を作り出すことに成功した。
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