エリザベス (1998)の紹介・評価・レビュー

elizabeth ヒストリー
ヒストリー歴史ドラマ

イングランド黄金期を支えた女王の前半生 ---

1998年公開の『エリザベス』(原題:Elizabeth)は、シェカール・カプール監督が手掛けた歴史ドラマで、16世紀イングランドの女王エリザベス1世の若き日々を描いた作品である。主演のケイト・ブランシェットは、エリザベスのカリスマ性と人間性を丁寧に演じたことで国際的な注目を浴び、第71回アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。
物語は、カトリック教徒とプロテスタント教徒の対立が激化する中で、王位を継いだ若きエリザベスが、政治的陰謀や暗殺の脅威、そして恋愛や信仰との葛藤を乗り越えながら「処女王」としての地位を確立するまでを描く。彼女の治世初期を通じて、政治的な駆け引きや強い意思が試される壮絶なドラマが展開される。

本作は、豪華な衣装や美術セットによって16世紀イングランドの宮廷の華やかさを再現。ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞(BAFTA)をはじめ、多くの映画賞を受賞し、興行的にも成功を収めた。歴史映画の枠を超え、一人の女性の内面と成長を力強く描いた傑作。

『エリザベス』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


1558年、カトリック教徒のメアリー女王が崩御し、プロテスタント教徒であるエリザベス(ケイト・ブランシェット)がイングランド女王に即位する。若くして王位に就いた彼女は、カトリック勢力との対立や周囲の貴族たちによる陰謀、さらにはフランスやスペインといった大国の圧力に直面する。さらに、エリザベスはロバート・ダドリー(ジョセフ・ファインズ)との恋愛にも悩まされ、私情と国家の利益の間で葛藤する日々を送る。

政治の経験が乏しい中で、彼女は忠実な側近であるフランシス・ウォルシンガム(ジェフリー・ラッシュ)に支えられながら、次第に冷徹な政治家として成長を遂げる。暗殺の危機や裏切りを乗り越えたエリザベスは、国家の安定と自身の権威を確立するため、ある重大な決断を下す。それは「処女王」として自らを国家に捧げるという道だった。こうしてエリザベスは、イングランドを繁栄へと導く統治者として歴史にその名を刻む存在となる。宮廷内外の陰謀と愛、そして権力を巡る壮絶な戦いを描いた壮大な物語である。

『エリザベス』の監督・主要キャスト

  • シェカール・カプール(52)監督
  • ケイト・ブランシェット(29)エリザベス1世
  • ジェフリー・ラッシュ(47)フランシス・ウォルシンガム
  • ジョセフ・ファインズ(28)ロバート・ダドリー
  • リチャード・アッテンボロー(75)ウィリアム・セシル
  • クリストファー・エクルストン(34)ノーフォーク公トーマス・ハワード
  • ファニー・アルダン(49)メアリー・オブ・ギーズ
  • ジョン・ギールグッド(93)教皇ピウス5世

(年齢は映画公開当時のもの)

『エリザベス』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 2.0 ★★☆☆☆
・大切な人と観たい 3.0 ★★★☆☆
・ひとりでじっくり 4.0 ★★★★☆
・光と影の映像美 5.0 ★★★★★
・宮廷サスペンス 4.0 ★★★★☆

ポジティブ評価

エリザベス1世(1533-1603)は、ちょうど日本の戦国時代から江戸幕府成立ごろの時期にイングランドとアイルランドを統べた、イングランド黄金期を象徴する女王。スペインの無敵艦隊を撃破した君主として知られる。
映画『エリザベス』は、ザ・バージンクイーン(処女女王)と呼ばれる主人公エリザベス1世の前半生にフォーカスし、心の内面と成長を丹念に描いた作品。ケイト・ブランシェットは、無垢で繊細な若き女王が、困難を乗り越えて冷徹で威厳ある統治者へと変貌を遂げる過程を説得力を持って演じた。
演出の面では、16世紀イングランドの宮廷の緊張感と華やかさを描き出し、権謀術数が渦巻く世界を巧みに表現。特に、豪華な衣装や美術セットは時代の雰囲気を厳かに再現し、視覚的な美しさでも視聴者を魅了する。

本作は単なる歴史映画にとどまらず、女性が権力を握る難しさや、愛と権力の間で葛藤する姿を描いた普遍的なテーマが現代視聴者の共感を呼ぶ。史上最も偉大なイギリス女王とされるエリザベス1世を描いたこの作品は、感動と緊張感を兼ね備えた傑作として広く支持されている。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

『エリザベス』は、歴史映画としての高い評価と裏腹にいくつかの批判も受けている。その多くが、史実の脚色が過剰であるという点だ。フィクションとまでは言わないが、エンターテインメント性を重視するあまり実際の出来事をいくつか改変しており、歴史的な正確性を求める視聴者には違和感を抱かせる部分がある。特に、登場人物間の関係性や出来事の時系列が事実と異なる点がについては、歴史映画としての信憑性が損なわれているとの声がある。
具体的な改変箇所は、細かいところで言えば、ロバート・ダドリーが妻帯者と知って驚く描写は、実はエリザベスも事実を知っていた、など。ネタバレを含むためここで控えるが、興味ある方にはこちらの検索をお勧めしたい。

逆にもし、読者の方がイングランドのこの時代の知識を持ち合わせていなければ、多少の脚色はあれど大まかな時代の流れを把握できるため、歴史映画としての価値を認められるのではないだろうか。

こぼれ話

『エリザベス』は、主演のケイト・ブランシェットにとって、本作は国際的な名声を得るきっかけとなった重要な作品である。当時、無名に近い存在だったブランシェットだが、エリザベス1世を演じるにあたり、そのカリスマ性と演技力で一気に脚光を浴び、以後のキャリアを大きく飛躍させた。彼女は役作りのため、エリザベス1世の生涯や当時の歴史を徹底的に研究したという。

さらに、監督のシェカール・カプールは、インド出身の映画監督としてヨーロッパの歴史映画に挑むという点で注目を集めた。カプールは「権力の本質を描きたい」と語り、歴史の教科書的な作品ではなく、普遍的なテーマを持つドラマとしての『エリザベス』を目指した。

本作は、公開後に続編『エリザベス:ゴールデン・エイジ』(2007年)が製作されるなど、多くの視聴者に愛されるシリーズとなった。また、エリザベス1世をテーマにした映画の中でも、革新的な作品として現在でも高く評価されている。

みんなのレビュー