名作クライム・サスペンスのリメイク ---
1999年公開の『グロリア』(原題:Gloria)は、シドニー・ルメット監督が手がけ、シャロン・ストーンが主演を務めたクライム・ドラマである。本作は、ジョン・カサヴェテス監督による1980年の同名映画『グロリア』のリメイク作品であり、オリジナル版でジーナ・ローランズが演じた主人公をシャロン・ストーンが新たに演じている。
物語は、服役を終えたばかりの女性グロリア(シャロン・ストーン)が、偶然にも犯罪組織に追われる少年ニッキー(ジャン=ルーク・フィギュエロア)を助けることになり、次第に彼を守るために奔走するという展開。ニューヨークの裏社会を舞台に、組織の追跡をかわしながら、彼女自身の人生も見つめ直していく。
リメイク版として製作された本作は、シャロン・ストーンの演技が注目されたものの、興行的には成功せず、批評家からも賛否が分かれた。しかし、彼女のハードボイルドな演技や、ルメット監督によるリアルな犯罪描写は一定の評価を受けている。オリジナル版と比較されることが多いが、ストーン版ならではの強さと人間味を楽しめる作品となっている。
『グロリア』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
ニューヨークの刑務所を出所したばかりのグロリア(シャロン・ストーン)は、人生をやり直そうとするが、過去の犯罪組織との縁を断ち切ることができず、再び危険な世界に足を踏み入れてしまう。そんな彼女は、ある日、組織によって家族を殺された7歳の少年ニッキー(ジャン=ルーク・フィギュエロア)と出会う。ニッキーの父親は組織の重要な情報を持っており、彼の家族はそれが原因で命を狙われたのだった。
最初は少年を見捨てようとするグロリアだったが、彼の境遇に心を動かされ、組織の追跡をかわしながら彼を守ることを決意。彼女自身も命を狙われる中、ニューヨークの街を逃げ回りながら、組織との対決の時を迎える——。
『グロリア』の監督・主要キャスト
- シドニー・ルメット(73)監督
- シャロン・ストーン(39)グロリア
- ジャン=ルーク・フィギュエロア(7)ニッキー
- ジェレミー・ノーサム(35)ケヴィン
- キャシー・モリアーティ(37)ダイアン
- ジョージ・C・スコット(70)ルビー
- マイク・スター(47)ショーン
- ボニー・ベデリア(49)ブレンダ
(年齢は映画公開当時のもの)
『グロリア』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 3.0 ★★★☆☆ |
・大切な人と観たい | 5.0 ★★★★★ |
・ひとりでじっくり | 4.0 ★★★★☆ |
・新旧見比べたい | 4.0 ★★★★☆ |
・クールで暖かいヒロイン | 5.0 ★★★★★ |
ポジティブ評価
『グロリア』は、シドニー・ルメット監督が手がけたクライム・ドラマであり、1980年のオリジナル版とは異なる視点で描かれたリメイク作品だ。シャロン・ストーンは単なるセクシーなヒロインではなく、タフでどこか哀愁を漂わせる主人公グロリアを熱演。過去の犯罪組織とのしがらみを抱えつつも、運命的に出会った少年ニッキーを守るために奮闘する姿は、単なるアクション映画とは一線を画すドラマ性がある。
「グロリアとニッキーの関係性」がこの物語の中心。最初は少年を厄介者扱いするグロリアが、徐々に彼のために戦うことを決意していく過程は、ありふれた設定ではあるもののシャロン・ストーンの演技力によって説得力を持たせている。彼女の強さと優しさが同居するキャラクターは、オリジナル版とはまた違った魅力を持っている。
監督は『十二人の怒れる男』『評決』『旅立ちの時』などで知られるシドニー・ルメット。ニューヨークの街並みを活かしたロケーション撮影は、都市の冷たさと危険をリアルに映し出し、物語の緊張感を高めている。銃撃戦やアクションは控えめだが、その分、登場人物同士の駆け引きや心理戦が際立ち、じわじわと高まるサスペンスが作品の魅力を引き立てる。
『グロリア』は、派手なアクションや過激な演出ではなく、人物描写と心理戦に重点を置いたクライム・ドラマであり、シャロン・ストーンの新たな一面を楽しめる作品となっている。彼女のこれまでのイメージとは異なるタフで感情豊かな演技を堪能したいなら、一見の価値があるだろう。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
『グロリア』(1997年)は、シャロン・ストーンの主演でリメイクされた作品だが、人気のオリジナル版と比較されることが多く、評価が分かれる映画でもある。最大の問題点は、オリジナル版の持つおどろおどろしい緊張感が十分に再現されていない点。特に、主人公グロリアのキャラクターが、ジーナ・ローランズ版とは異なり、シャロン・ストーンのイメージに寄せた「ハリウッド的な強い女性像」となっており、より洗練された印象。どちらの作品を好むかは視聴者次第。
オリジナル版のファンにとっては物足りなさを感じる可能性があるが、「シャロン・ストーンの新たな一面を楽しむ映画」と割り切れば、それなりに満足できるかもしれない。
こぼれ話
『グロリア』(1999年)は、ジョン・カサヴェテス監督の1980年の名作『グロリア』をリメイクした作品だが、制作の背景には興味深いエピソードがある。まず、本作の監督に抜擢されたのは、社会派ドラマで知られるシドニー・ルメット。リアリズムを重視する作風で有名だが、本作ではシャロン・ストーンのスター性を活かすため、オリジナル版とは異なるテイストの演出を施した。
シャロン・ストーンは、当時『氷の微笑』(1992年)や『カジノ』(1995年)で強い女性像を演じており、本作でもタフな女性グロリアを演じるために積極的に役作りに挑んだ。彼女は撮影中、アクションシーンの多くを自ら演じ、ニューヨークの過酷なロケにも積極的に参加していたという。しかし、完成した映画の評価が賛否両論だったこともあり、後に「オリジナル版のジーナ・ローランズの演技が偉大すぎた」と語っている。
本作で少年ニッキーを演じたジャン=ルーク・フィギュエロアは、当時まだ7歳の新人俳優で、シャロン・ストーンとの共演経験は大きな注目を集めた。彼はインタビューで、「シャロンはとても優しくて、お母さんみたいだった」と語っており、撮影中も彼女が親身に演技指導をしていたという。しかし、劇中で二人の関係性が深まる過程がやや唐突に感じられるという意見もあり、脚本の調整がもう少し必要だったのではという声もあった。
さらに、興味深いのは、オリジナル版『グロリア』の主演ジーナ・ローランズが、本作に関して「私はリメイクを観ていない」とコメントしたことだ。彼女はカサヴェテス監督(夫)が作り上げた作品に強い愛着を持っており、新しい解釈には関与しなかったと言われている。ただし、彼女はシャロン・ストーン自身については「素晴らしい女優」と評価しており、決して否定的な立場ではなかったようだ。
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