戦場に響く、自由の声——笑いと激情のヒューマンドラマ ---
『グッドモーニング, ベトナム』(原題:Good Morning, Vietnam)は、1987年に公開されたアメリカ映画。監督はバリー・レヴィンソン、主演はロビン・ウィリアムズが務めた。
物語は、1965年のベトナム・サイゴンを舞台に、米軍放送のDJとして赴任したエイドリアン・クロンナウアが、型破りな放送で兵士たちの人気を集める姿を描いている。クロンナウアは実在の人物であり、彼の体験に基づいて物語が展開される。
ロビン・ウィリアムズは本作で第45回ゴールデングローブ賞 主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞し、第60回アカデミー賞 主演男優賞にもノミネートされた。戦争の悲惨さと人間の温かさをユーモラスに描いた作品として高く評価されている。
『グッドモーニング, ベトナム』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
1965年、アメリカ軍のラジオ局AFVN(アメリカ軍放送ネットワーク)は、ベトナム戦争中のサイゴンに新しいDJとしてエイドリアン・クロンナウア(ロビン・ウィリアムズ)を派遣する。彼は型破りなスタイルで番組を進行し、朝の放送を「グッドモーニング, ベトナム!」の元気な挨拶で始める。彼のユーモア溢れるトークとロックンロールを中心とした音楽選曲は、戦場にいる兵士たちの間で瞬く間に人気を博す。
しかし、軍上層部は彼の自由奔放なスタイルを問題視し、規律を重んじる一部の上官たちとの間で衝突が生じる。一方で、クロンナウアは現地のベトナム人たちと交流を深め、次第に戦争の現実を目の当たりにしていく。
やがて、報道規制の厳しい環境の中で、クロンナウアは軍が隠そうとする戦争の真実に直面し、彼の放送が持つ意味について葛藤することになる。戦場の最前線ではないラジオ局という立場から、戦争という現実にどう向き合うのか——彼の選択が物語を大きく動かしていく。
『グッドモーニング, ベトナム』の監督・主要キャスト
- バリー・レヴィンソン(45)監督
- ロビン・ウィリアムズ(36)エイドリアン・クロンナウア
- フォレスト・ウィテカー(26)エドワード・モンテスキュー・ガーリック
- チンタラー・スカパット(25)トリン
- ドゥング・タン・トラン(年齢不詳)ツアン
- ブルーノ・カービー(38)スティーブン・ホーク少尉
- ロバート・ウール(36)マーティー・リー・ドライウィッツ軍曹
- J・T・ウォルシュ(44)フィリップ・ディッカーソン上級曹長
(年齢は映画公開当時のもの)
『グッドモーニング, ベトナム』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 2.0 ★★☆☆☆ |
・大切な人と観たい | 4.0 ★★★★☆ |
・ひとりでじっくり | 4.0 ★★★★☆ |
・圧巻のロビン・ウィリアムズ | 5.0 ★★★★★ |
・笑いとシリアスの調和 | 5.0 ★★★★★ |
ポジティブ評価
『グッドモーニング, ベトナム』は、戦場に向かう兵士たちの士気を高めるために型破りな放送を繰り広げるDJの姿を描く。従来の戦争映画とは異なり、銃弾が飛び交うシーンよりもユーモアを交えた言葉の力に焦点を当て、戦場における人間ドラマを描き出した。
ロビン・ウィリアムズは、即興的なジョークやモノマネ、テンポの良いトークを披露し、まさに”エンターテイナー”の真骨頂と呼べる演技を体現した。実際に彼の放送シーンの多くはアドリブで撮影されており、自由奔放なスタイルがリアルに反映されている。作中には当時のポップカルチャーを反映した楽曲が効果的に使用され、ビーチ・ボーイズやジェームス・ブラウンといった60年代のヒット曲は戦争の緊迫感とのコントラストを際立たせる役割を果たす。
前線で戦うリアルな人間模様を描いて間接的に反戦を謳った映画である。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
ロビン・ウィリアムズのまくし立てるようなジョークが、日本の視聴者に受けるかどうか。英語話者でないと言い回しの温度まで伝わらないため、笑いよりも、ラジオを聞いて爆笑する兵士たちを見てむしろ神妙な気持ちになる。彼らにそれが必要だったことを思い知る。ここにおいてベトナム戦争の是非は問わない。
ロビン・ウィリアムズは晩年、レビー小体型認知症を患った。スタンダップコメディでキャリアを築いた彼にとって、思うように言葉が出てこない状況は計り知れない苦痛だったはずだ。『グッドモーニング, ベトナム』は、そんな名優の全盛期を象徴する代表作のひとつである。戦争の描かれ方に賛否はあるものの、ロビン・ウィリアムズという俳優の演技を堪能することができる本作は一見の価値がある。故人に心からの敬意を表したい。
こぼれ話
『グッドモーニング, ベトナム』は、実在のDJエイドリアン・クロンナウアの体験をもとにしているが、映画の内容はかなり脚色されている。クロンナウア自身も「実際の私は映画ほど型破りではなかった」と語っており、本作の主人公は、あくまでロビン・ウィリアムズの即興演技を前提に作られたキャラクターと言える。とはいえ、映画のヒットを受けて、クロンナウアはその後も講演活動を行い、自身の放送スタイルが再評価されることとなった。
ロビン・ウィリアムズのアドリブの多さは有名で、特に放送シーンでは台本がほとんどなかったと言われている。撮影現場では、彼が次々と即興のジョークを繰り出し、監督のバリー・レヴィンソンは「カメラを回しっぱなしにして、編集で何とかするしかなかった」と語っている。実際、彼の早口ジョークは共演者が笑いを堪えきれずにNGを出すことが頻発し、特にフォレスト・ウィテカーは撮影中に何度も吹き出してしまったという。
映画で印象的に使われる60年代の楽曲も、当初は別の選曲が予定されていたが、ウィリアムズの即興演技のテンポに合うものが優先される形で変更された。特に、ルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」(この素晴らしき世界)は、監督が「映画のメッセージを象徴する」として採用を決めた一曲であり、戦争映画としては異例の選曲ながら、作品のテーマを際立たせる効果を生んだ。
本作の撮影はタイで行われ、エキストラの多くは現地の住民が起用された。ウィリアムズは撮影の合間に現地の人々と積極的に交流し、撮影スタッフの間では「彼が一度話し始めると、なかなか撮影に戻れない」と冗談交じりに語られていたという。
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