グッドフェローズ(1990)の解説・評価・レビュー

Goodfellas マフィア
マフィア実話(事件題材)

90年代マフィア映画の最高傑作 ---

1990年公開の『グッドフェローズ』(原題:Goodfellas)は、マーティン・スコセッシ監督によるクライム映画で、実在のマフィア、ヘンリー・ヒルの半生を描いた作品。レイ・リオッタ、ロバート・デ・ニーロ、ジョー・ペシらが出演し、リアルなマフィアの世界を描いた。
物語は、1950年代のニューヨークを舞台に、少年時代からマフィアの世界に憧れていたヘンリー・ヒルが、組織の一員として成り上がる様子を描く。仲間であるジミー・コンウェイやトミー・デヴィートと共に犯罪を重ね成功を手にするが、やがて組織内の裏切りや暴力の連鎖に巻き込まれていく。

本作は、従来のギャング映画とは異なり、実際のマフィアの生活や心理をリアルに描写しており、スコセッシ監督の巧みな演出が高く評価された。特に、ワンカットで撮影されたクラブへの潜入シーンや、ジョー・ペシ演じるトミーの狂気じみた振る舞いが印象的なシーン。
1991年のアカデミー賞では 6部門にノミネート され、ジョー・ペシが助演男優賞を受賞。また、ゴールデングローブ賞でも複数の部門にノミネートされ、批評家・視聴者双方から絶賛された。

『グッドフェローズ』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


1950年代のニューヨーク。イタリア系とアイルランド系の血を引く少年ヘンリー・ヒル(レイ・リオッタ)は、労働者として生きる父親を軽蔑し、街を牛耳るマフィアに憧れを抱く。やがて地元の組織に出入りするようになった彼は、ボスのポーリー(ポール・ソルヴィノ)に見込まれ、犯罪の世界へ足を踏み入れていく。

ヘンリーは、冷静沈着なベテランの犯罪者ジミー・コンウェイ(ロバート・デ・ニーロ)と、短気で凶暴なトミー・デヴィート(ジョー・ペシ)とともに数々の強盗や密輸を成功させ、組織内での地位を確立する。金と権力を手にした彼は、魅力的な女性カレン(ロレイン・ブラッコ)と結婚し、豪華な生活を送るようになる。
しかし、華やかな日々の裏では、裏切りと暴力が渦巻いていた。次第に組織内のパワーバランスが崩れ始め、ジミーとトミーの過激な行動はヘンリーにも大きな影響を及ぼす。そして、ある大規模な強盗計画が成功したことをきっかけに、組織の内情は疑心暗鬼に満ち、仲間同士の殺し合いが加速していく。
一方で、ヘンリー自身もドラッグに手を染め、次第に判断を誤るようになる。やがて警察の目が厳しくなり、組織からの信頼も揺らぎ始める——。

『グッドフェローズ』の監督・主要キャスト

  • マーティン・スコセッシ(47)監督
  • レイ・リオッタ(35) ヘンリー・ヒル
  • ロバート・デ・ニーロ(46) ジミー・コンウェイ
  • ジョー・ペシ(47) トミー・デヴィート
  • ロレイン・ブラッコ(36) カレン・ヒル
  • ポール・ソルヴィノ(51) ポーリー・シセロ
  • フランク・ヴィンセント(51) ビリー・バッツ
  • マイク・スター(40) フレンチー
  • チャールズ・シオッフィ(55) トゥティ・シセロ

(年齢は映画公開当時のもの)

『グッドフェローズ』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 2.0 ★★☆☆☆
・大切な人と観たい 1.0 ★☆☆☆☆
・ひとりでじっくり 5.0 ★★★★★
・リアルなマフィア 5.0 ★★★★★
・歴代マフィア映画2位※ 5.0 ★★★★★

※アメリカ映画協会が2008年に選出。1位はゴッドファーザー

ポジティブ評価

『グッドフェローズ』は、マフィア映画の中でも群を抜いてリアリティのある作品として高く評価される。マーティン・スコセッシ監督は、華やかな犯罪の世界を美化することなく、組織の内部に渦巻く暴力、裏切り、そして栄光と転落のコントラストを厳かに描いた。オープニングからラストシーンまで緊張感が途切れることがない。

特にスコセッシ監督の演出が光るのが、カメラワークと音楽の使い方。レストランの裏口からメインフロアへと進む長回しのワンショットシーンは、映画史に残る名場面で、ヘンリー・ヒル(レイ・リオッタ)がマフィアの世界に溶け込んでいく様子を臨場感を持って描く。ローリング・ストーンズやエリック・クラプトンなど、劇中で流れる音楽も完璧に場面にマッチしている。

俳優陣の演技も秀逸で、レイ・リオッタは、野心に燃えながらも次第に追い詰められていくヘンリーを見事に演じた。ロバート・デ・ニーロのクールなジミー・コンウェイも印象的だが、本作で最も存在感を放ったのが、ジョー・ペシ演じるトミー・デヴィート。彼の突発的な暴力性と不安定な狂気は圧巻で、これによりアカデミー賞助演男優賞を受賞した。

また、本作の脚本は実話をもとにしているため、単なるフィクションのマフィア映画とは一線を画すリアリティがある。マフィアの華やかな生活を描きつつもそれを憧れとして描かず、裏にある恐怖と緊張感をリアルに伝えることで視聴者に「この世界に関わるとどうなるのか?」という重みを感じさせる。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

『グッドフェローズ』は、コアな映画ファンから「マフィア映画の最高傑作」と評価される。一方で、作風がすべての視聴者に合うとは限らない。暴力描写が非常に生々しく、苦手な人にはハードな内容。また、ストーリーはヘンリー・ヒル(レイ・リオッタ)の半生を淡々と追っていく構成で、観る人によっては、「結局、この話は何を伝えたかったのか?」と感じるかもしれない。登場人物はほぼ全員が倫理観のないアウトローであり、共感できるキャラクターがほとんどいないという点も、人によっては入り込みづらい要因となる。

ヘンリーが薬物に溺れる終盤のシーンは冗長に感じられるが、それについてはスコセッシ監督によって、意図的に不安定で混沌とした演出がなされたもの。

こぼれ話

ロバート・デ・ニーロは、演じるジミー・コンウェイの細かな動作にこだわり抜いたことで知られている。特にタバコの持ち方や灰を落とすタイミングまでスコセッシに確認し、実際のギャングの振る舞いを忠実に再現しようとした。現場では、「デ・ニーロがまたタバコの角度を気にしている」とスタッフが冗談交じりに話すこともあったという。

ジョー・ペシが演じたトミーの「Funny how?(何がそんなにおかしいんだ?)」のシーンは、実は彼自身の実体験がもとになっている。若い頃、彼がギャング風の男に冗談を言ったところ、突然「何が面白いんだ?」と詰め寄られ、場の空気が凍りついたという。このエピソードをスコセッシに話したところ、「ぜひ映画に入れよう」ということになり、脚本にない即興シーンとして撮影された。この場面で共演者たちは本気で驚いており、それが映像にそのまま残ったことで緊張感のある名場面となった。

刑務所の料理シーンも、本物のギャングから指導を受けるというこだわりぶりだった。特に印象的な「ニンニクをカミソリの刃でスライスする」場面は、実際にマフィアが使っていた調理法である。撮影では俳優たちが本当にニンニクを薄く切りながら会話を進めており、撮影後もしばらく手からニンニクの匂いが取れなかったという。デ・ニーロもこのシーンを非常に気に入っていたらしく、「俺もやってみよう」と何度も試していたそうだ。

本作は実話をもとにしているため、ヘンリー・ヒル本人の証言が忠実に反映されている部分も多い。特にレイ・リオッタのナレーションは、FBIの証人保護プログラムの一環でヒルが語った実際の証言を参考にしており、リアリティのある語り口になっている。

ラストシーンでは、ヘンリーが「普通の生活」に適応できずにぼやく場面があるが、彼が食べているのはインスタントのスパゲッティだ。スコセッシはこのシーンについて、「彼はこれまで豪華な食事を楽しんでいたが、今は缶詰のソースをかけたパスタを食べるしかない。これこそが彼にとっての“刑務所”だ」と語っている。スコセッシの演出は細部まで計算されており、単なるラストシーンにも彼なりの皮肉が込められているのだ。

さらに、本作にはスコセッシ監督の母、キャサリン・スコセッシが出演している。彼女はトミーの母親役を演じており、劇中での料理のシーンはほぼアドリブで進行した。実際に彼女が作った料理を囲みながら、俳優たちは即興のやり取りを続けていたという。彼女は『カジノ』や『エイジ・オブ・イノセンス』にも出演しており、スコセッシ作品に欠かせない存在だった。

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