ヘル・レイザー (1987)の解説・評価・レビュー

Hellraiser サイコホラー・スリラー
サイコホラー・スリラースプラッターバイオレンス

快楽か、それとも地獄か――拷問と幻想が支配するホラー映画 ---

『ヘル・レイザー』(原題:Hellraiser)は、1987年に公開されたイギリスのホラー映画である。クライヴ・バーカーの小説『ヘルバウンド・ハート』を原作とし、バーカー自身が脚本・監督を務めた。過激なビジュアルと独創的なストーリーでカルト的人気を誇る作品であり、後のホラー映画に多大な影響を与えた。
本作は、伝統的なスラッシャー映画とは一線を画し、「快楽と苦痛が融合する極限の世界観」をテーマにしている。特に、ボディホラーとサディスティックなビジュアルが特徴的で、特殊メイクや実験的な映像表現が高く評価された。また、「ピンヘッド」と呼ばれるセノバイトのリーダーは、シリーズを象徴するキャラクターとなり、ホラーアイコンの一つとして広く認知されるようになった。

公開当時、本作は低予算(当時のレートで約1.4億円)で製作されたにもかかわらず、独創的な世界観と衝撃的なゴア描写が話題となり、興行的にも成功を収めた。結果として、続編が次々と制作されることになり、長年にわたりホラー映画ファンに支持されるシリーズへと発展した

『ヘル・レイザー』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


フランク・コットン(ショーン・チャップマン)は快楽を追い求めるあまり、禁断のパズルボックス「ルマルシャンの箱」に手を出してしまう。その箱を解くことで異次元の魔道士「セノバイト」(ダグ・ブラッドレイ)を召喚してしまったフランクは、彼らによって肉体を引き裂かれ、永遠の苦痛の世界へと引きずり込まれる。

数年後、フランクの弟ラリー(アンドリュー・ロビンソン)は、妻ジュリア(クレア・ヒギンズ)とともに彼が住んでいた家へと引っ越してくる。ラリーは兄の行方を知らないまま新たな生活を始めようとするが、ジュリアはフランクと過去に愛人関係にあったことを秘かに思い出していた。そんなある日、ラリーが引っ越し作業中に負った傷から血を流したことで、屋根裏部屋に封じられていたフランクが不完全な姿で復活する。彼を愛していたジュリアは、その姿に恐怖しながらも、完全な肉体を取り戻させるため、新たな犠牲者を誘い込むことを決意する。

一方、ラリーの娘カースティ(アシュレイ・ローレンス)は、義母ジュリアの不審な行動に気づき、屋根裏部屋で恐ろしい光景を目撃する。逃げる途中でカースティはルマルシャンの箱を手にし、誤ってその仕掛けを解いてしまう。すると、再びセノバイトたちが現れ、彼女を異次元の苦痛へと引きずり込もうとする。必死に命乞いをするカースティは、「フランクこそが本来の標的である」と彼らに持ちかけ、取引を試みる。

やがて、フランクの復活を巡る悲劇は最悪の形で幕を開けることとなる。ジュリアの愛と狂気、フランクの野望、カースティの運命、そしてセノバイトの冷徹な裁きが交錯し、彼らの運命は恐ろしい結末へと導かれていく――。

『ヘル・レイザー』の監督・主要キャスト

  • クライヴ・バーカー(34)監督
  • アンドリュー・ロビンソン(45)ラリー・コットン
  • クレア・ヒギンズ(32)ジュリア・コットン
  • アシュレイ・ローレンス(21)カースティ・コットン
  • ショーン・チャップマン(26)フランク・コットン
  • ダグ・ブラッドレイ(34)ピンヘッド(リード・セノバイト)
  • ニコラス・ヴィンス(29)チャタラー・セノバイト
  • サイモン・バムフォード(26)バターボール・セノバイト

(年齢は映画公開当時のもの)

『ヘル・レイザー』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 4.0 ★★★★☆
・大切な人と観たい 1.0 ★☆☆☆☆
・ひとりでじっくり 4.0 ★★★★☆
・カルトホラーの金字塔 5.0 ★★★★★
・独創的なデザインに注目 4.0 ★★★★☆

ポジティブ評価

『ヘル・レイザー』はこの作品以前のホラー映画とは一線を画し、クライヴ・バーカー監督自身の原作小説を基にした本作は、「快楽と苦痛」「欲望と罰」といったテーマを織り込みながら、恐怖だけではなく、妖しく耽美的な雰囲気をも持ち合わせている点が特徴的だ。単なる超常現象や残酷描写に終始するのではなく、人間の欲望や裏切り、狂気が恐怖を生む。フランクの復活に手を貸すジュリアの姿は、愛と執着の果てに道を踏み外した人間の悲劇である。

本作の最大の魅力は、セノバイトと呼ばれる異次元の存在たちのデザインと設定にある。特に、顔に無数の釘が打ち込まれた「ピンヘッド」は、ホラー史に残るアイコン的キャラクターとなった。彼らは単なる殺人鬼ではなく、ルマルシャンの箱を解いた者に「極限の快楽(実際には耐え難い苦痛)」を与える、敵か味方かも曖昧なままミステリアスな存在感を放つ
またセノバイトたちの衣装やメイクも、宗教的なモチーフとサディスティックなデザインが融合し、異世界の存在としての不気味な説得力を持っている。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

『ヘル・レイザー』は、ホラーの中でも所謂「スプラッター」と呼ばれるジャンルの映画。スプラッターは過剰な流血や身体の損壊など、暴力的な描写を強調した作品のことで、それらが苦手な方にはそもそもお勧めできない。およそ40年前の古典とはいえ、ランクの肉体が徐々に再生していくシーンや、セノバイトによる拷問的な描写は血と肉の表現があり、特に「ボディホラー」要素が強いため、内臓系のビジュアルが苦手な人にはあまり向かない作品かもしれない。逆に好きな?方には記憶に残る唯一無二のホラー映画となっている。
現在のCG技術と比べるとややチープに見えてしまうこともあり、これは「80年代ホラーの味」として楽しめる要素でもあるためレトロな特殊効果が好きな人にとっては問題にならないだろう。

こぼれ話

『ヘル・レイザー』の監督を務めたクライヴ・バーカーは、もともと小説家・劇作家として活動していたが、本作で初めて映画監督に挑戦した。それまでの映画業界での経験はほぼゼロだったものの、原作小説『ヘルバウンド・ハート』の映像化に強いこだわりを持っており、「自分の作品を誰よりも理解しているのは自分だ」という理由から監督を引き受けたという。結果的に、本作は低予算ながらも独創的なビジュアルと世界観で高く評価され、バーカーは映画監督としても注目を集めることとなった。

本作を象徴するキャラクターである「ピンヘッド」は、ホラー映画史に残るアイコン的存在となったが、意外なことに、彼は脚本上ではそれほど大きな役割を持っていなかった。劇中では「リード・セノバイト」としてクレジットされており、実際の登場シーンも比較的短い。しかし、ダグ・ブラッドレイが演じるピンヘッドの威圧感とカリスマ性が強烈な印象を残し、視聴者の間で瞬く間に人気キャラクターとなった。これを受け、続編以降ではピンヘッドがシリーズの中心的存在となり、後の『ヘル・レイザー』作品では彼の背景や設定がより掘り下げられることになった。

撮影は主にイギリスで行われたが、映画の舞台はアメリカという設定になっている。そのため、一部のシーンでは英米の文化の違いが微妙に影響しており、例えば登場人物がイギリス風の住宅に住んでいながらアメリカのキャラクターを演じている点など、細かい部分で違和感を覚える視聴者もいたという。ちなみに、低予算のため、撮影に使用された家はスタッフの友人が所有する空き家を借りたものであり、一部の内装は撮影のために急ごしらえで作られたものだった。

本作には有名な「フランクの肉体再生シーン」は、実際には蝋やラテックスで作られた模型を逆再生することで「肉が再生していく」ように見せている。この逆再生技術は、当時のホラー映画では比較的よく使われていたが、本作では特に巧妙に活用されており、低予算ながらも強烈な視覚効果を生み出している。

公開当初、本作はその過激なビジュアルと独特のストーリーから賛否が分かれたものの、ホラーファンの間では瞬く間にカルト的人気を獲得した。結果として、続編『ヘル・レイザー2』(1988年)がすぐに制作され、その後もシリーズは長く続いていくことになる。近年ではリブート作品も制作されており、2022年には新たな『ヘル・レイザー』がHuluで配信されるなど、現在もなおシリーズは進化を続けている。

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