不死の戦士たちによる宿命の戦い──80年代型バトル・ファンタジーの異色作
『ハイランダー 悪魔の戦士』(原題:Highlander)は、1986年に公開されたアメリカ・イギリス合作のファンタジー・アクション映画である。監督はラッセル・マルケイ、主演はクリストファー・ランバートが務めた物語は16世紀のスコットランドと現代のニューヨークを舞台に、不老不死の宿命を背負った戦士たちの戦いを描いている。
公開当初は興行的に成功しなかったものの、独特の世界観やクイーンによる音楽が評価され、カルト的な人気を博した。その後、続編やテレビシリーズなど、多くの派生作品が制作されている。撮影時のエピソードとして、監督のラッセル・マルケイはミュージックビデオの手法を取り入れ、斬新な映像表現を追求したことが知られている。
『ハイランダー 悪魔の戦士』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
16世紀のスコットランド。戦士コナー・マクラウドは一族の戦いの最中、謎の騎士クルガンによって致命傷を負う。しかし、奇跡的に回復した彼は不死の存在であることが明らかになり、村を追放される。後に、不死者の一人である剣士ラミレスに導かれ、自らの宿命と「最後の一人になるまで戦い続ける」運命を知る。
時は流れ、1980年代のニューヨーク。マクラウドはクルガンとの決着を控えながら静かに生きていたが、ある殺人事件が発端となり、警察や考古学者ブレンダの目に留まる。一方、クルガンは残る不死者を次々に倒し、決戦の時を迎えようとしていた。マクラウドは過去の記憶と戦いながら、クルガンとの宿命の対決に挑む。
『ハイランダー 悪魔の戦士』の監督・主要キャスト
- ラッセル・マルケイ(32)監督
- クリストファー・ランバート(29)コナー・マクラウド
- ショーン・コネリー(55)フアン・サンチェス・ビラロボス・ラミレス
- クランシー・ブラウン(27)クルガン
- ロクサーヌ・ハート(34)ブレンダ・ワイアット
- ビーティ・エドニー(24)ヘザー・マクラウド
- アラン・ノース(55)警部補フランク・モラン
- ジョン・ポリト(35)トニー
(年齢は映画公開当時のもの)
『ハイランダー 悪魔の戦士』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 4.0 ★★★★☆ |
・大切な人と観たい | 2.0 ★★☆☆☆ |
・ひとりでじっくり | 4.0 ★★★★☆ |
・斬新な世界観! | 5.0 ★★★★★ |
・クイーンの楽曲にも注目! | 4.0 ★★★★☆ |
ポジティブ評価
『ハイランダー 悪魔の戦士』は、独特のビジュアルスタイルと壮大な世界観でカルト的な人気を誇る作品である。物語はシリアスなテーマを扱いながらも、随所にユーモラスなやり取りが盛り込まれており、決して重苦しい作品にはなっていない。コナーが現代社会に適応しようとする様子や、過去の回想シーンに散りばめられた軽妙な会話が、作品全体にバランスの良いアクセントを加えている。
監督のラッセル・マルケイは、MTV時代の先駆けとも言えるミュージックビデオ出身の演出家であり、その影響が映画全体のダイナミックな映像表現に色濃く反映されている。スコットランドの美しい風景と、1980年代ニューヨークの都市的な雰囲気を対比させる映像のコントラストは、本作の大きな魅力のひとつである。
音楽面でも本作は強いインパクトを残しており、クイーンが手掛けた楽曲の数々は映画の雰囲気を決定づけた。「Princes of the Universe」や「Who Wants to Live Forever」などの楽曲は、映画のテーマとも深く結びついており、観客に強い印象を与える要素となっている。特に「Who Wants to Live Forever」は、不死者の宿命を象徴する楽曲として、劇中でも感動的なシーンを支えている。
キャスト陣の演技も見どころのひとつであり、クリストファー・ランバートはミステリアスで内省的な主人公コナー・マクラウドを熱演。一方で、クランシー・ブラウンが演じるクルガンは圧倒的な存在感を放つ強烈な悪役として、映画全体の緊張感を高めている。さらに、ショーン・コネリーが演じるラミレスは、圧倒的な貫禄と軽妙なユーモアを兼ね備えたキャラクターとして作品に深みを加えている。ただ、公開当時から今に至るまで、欧米の視聴者的には「なぜスペイン人のラミレスがスコットランド訛りなのか?」という点が気になっている模様(意外とその話題が多い)。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
本作に対するネガティブ評価として、最大の難点として挙げられるのは物語設定の唐突さである。不死の戦士たちが「最後のひとり」になるまで戦い続けるという根幹のアイデアは魅力的だが、その力の由来やルールは劇中でほとんど説明されない。なぜ彼らが不死であるのか、なぜ“最後の者”だけが報酬を得られるのかといった疑問に対する回答は明確に示されず、現代の視点から見ると整合性に欠ける印象は否めない。特にクライマックスに向けての展開は、まるでプロレスの試合のように誇張された身体的衝突が続き(そしてCGを使用しないためやや迫力に欠ける‥)、好みが分かれるところだ。
レトロな味わいが魅力の、いわゆる80年代エンターテイメントである。日本ではそれほどでもないが、世界には一定の熱狂的な支持層が存在する。いわゆる“カルト映画”としての地位を確立しており、演出の濃さや設定の大胆さを「様式美」として受け入れられるかどうかが評価の分かれ目かもしれない。
こぼれ話
『ハイランダー 悪魔の戦士』には、制作過程やキャストに関する興味深いエピソードが多い。まず、主演のクリストファー・ランバートは当時、英語がほとんど話せなかったことで知られている。彼はフランス出身であり、映画出演が決まった後に英語を学び始めたため、独特な発音がコナー・マクラウドの神秘的な雰囲気を生んだとも言われている。監督のラッセル・マルケイは「ミステリアスな感じが逆に良かった」と後に語っている。
また、ショーン・コネリー演じるラミレスは、劇中では「スペイン人の剣士」とされているが、コネリーのスコットランド訛りは最後まで修正されることなく、そのまま使用された。結果として、観客の間では「スコットランド訛りのスペイン人」というユニークなキャラクターが誕生し、今ではファンの間で愛すべきツッコミポイントとなっている。ちなみに、コネリーはこの作品の撮影期間がわずか7日間だったため、彼の出演シーンは非常に効率的に撮影されたという。
音楽面では、本作の大きな魅力のひとつであるクイーンの楽曲も興味深い背景を持つ。最初は1曲のみの提供予定だったが、映画を気に入ったメンバーが次々に楽曲を制作し、最終的に複数の楽曲が使用されることになった。特に「Who Wants to Live Forever」は、映画のテーマと絶妙にリンクしており、後のライブでも定番曲となった。
アクション面では、クランシー・ブラウン演じるクルガンの戦闘シーンが話題になった。ブラウンは役作りのために剣術の訓練を受けたが、リハーサル中にショーン・コネリーの首元を誤って切りそうになり、撮影現場が一時騒然としたという逸話がある。コネリーはこの出来事について、「だから私は本当に不死身ではないんだよ」と冗談を飛ばしたとされている。
本作の後、シリーズは続編やテレビシリーズへと展開されることになったが、1986年のオリジナル作品は今なおファンの間で愛され続けている。「There can be only one(最後に残るのは一人だけ)」という名セリフとともに、80年代映画史に刻まれた一本である。
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