『イングロリアス・バスターズ(Inglourious Basterds)』は、2009年に公開された戦争映画で、クエンティン・タランティーノ監督が手掛けた作品。第二次世界大戦下のヨーロッパを舞台に、ナチス・ドイツに挑む個性豊かなキャラクターたちを描く。物語は、ナチスに家族を殺されたユダヤ人女性ショシャナ(メラニー・ロラン)と、ナチスを標的にゲリラ活動を行うアメリカ兵の特殊部隊「バスターズ」を中心に展開する。主演はブラッド・ピットで、バスターズのリーダー、アルド・レイン中尉を演じた。
特に注目されたのは、クリストフ・ヴァルツが演じた冷酷なSS将校ハンス・ランダの存在感で、第82回アカデミー賞では助演男優賞を受賞。タランティーノらしいウィットに富んだ脚本と、長回しによる緊張感あふれる演出が光る作品である。製作費は7,000万ドル(当時のレートで63億円)、全世界での興行収入は3億2,100万ドル(270億円)を超え、商業的にも成功を収めた。また、架空の歴史改変を大胆に取り入れたストーリーは賛否を呼びつつも、多くの観客に鮮烈な印象を残した。
『イングロリアス・バスターズ』あらすじ紹介(ネタバレなし)
第二次世界大戦下のフランス。ユダヤ人の少女ショシャナ・ドレフュス(メラニー・ロラン)は、家族をナチスに殺され、自身も命からがら逃亡を果たす。数年後、彼女は名前を変え、パリで映画館を営むようになっていた。一方、アメリカ軍特殊部隊「バスターズ」は、リーダーのアルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)の指揮のもと、ナチス兵士を次々に襲撃するゲリラ活動を展開していた。
ある日、ナチスのプロパガンダ映画のプレミア上映がショシャナの映画館で行われることが決定。上映にはヒトラーをはじめとするナチス高官が一堂に会する予定だった。ショシャナはこの機会を利用し、自らの復讐計画を実行しようとする。同じくバスターズも、ナチス指導部を一網打尽にする作戦を練り、プレミア上映に潜入する。
復讐、犠牲、そして予測不能な結末が描かれる物語は、歴史改変を取り入れた独特の戦争ドラマとして展開する。
『イングロリアス・バスターズ』の監督・主要キャスト
- クエンティン・タランティーノ(46)監督
- ブラッド・ピット(45)アルド・レイン中尉
- メラニー・ロラン(26)ショシャナ・ドレフュス
- クリストフ・ヴァルツ(52)ハンス・ランダ大佐
- ダイアン・クルーガー(33)ブリジット・フォン・ハマースマーク
- マイケル・ファスベンダー(32)アーチー・ヒコックス中尉
- イーライ・ロス(37)ドニー・ドノウィッツ
- ティル・シュヴァイガー(45)ヒューゴ・スティグリッツ
(年齢は映画公開当時のもの)
『イングロリアス・バスターズ』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 3.0 ★★★☆☆ |
・大切な人と観たい | 2.0 ★★☆☆☆ |
・ひとりでじっくり | 4.0 ★★★★☆ |
・ブラックユーモア | 5.0 ★★★★★ |
・緊張感と爽快感 | 4.0 ★★★★☆ |
ポジティブ評価
『イングロリアス・バスターズ』は、クエンティン・タランティーノ監督ならではの独創性が際立つ作品。特に、複数の物語が交錯しながらも、緊張感を維持し続ける構成が見事。冒頭のショシャナとハンス・ランダの対峙シーンは、その長回しの演出と鋭い台詞の応酬によって、映画全体の基調となる緊迫感を強く印象付けている。
本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞したクリストフ・ヴァルツ(ハンス・ランダ大佐)は、優雅で知的な振る舞いと、冷酷さを兼ね備えたキャラクターで存在感を放つ。ブラッド・ピット演じるアルド・レイン中尉や、メラニー・ロラン演じるショシャナなど、他のキャストの演技も個性豊かで、物語を彩っている。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
史実を大きく改変したストーリー展開については賛否が入り乱れた。第二次世界大戦というテーマを扱いながら、あえて史実を無視したエンターテインメント作品に仕上がっているが、現実とかけ離れたアメリカ制作のフィクションに対し、「戦争の歴史を軽視している」「敬意がない」と感じる視聴者はフランス、ドイツを中心に一定数いるようだ。
暴力性を含め、タランティーノ監督による多くのユニークな要素が組み合わさった作品であるが、その独特の作風ゆえに、観客の嗜好によって評価が大きく分かれる一作といえる。
こぼれ話
クエンティン・タランティーノ監督は本作の脚本を約10年間にわたり温めていた。彼は「完璧なキャスティングが見つかるまで完成させない」と語り、特にハンス・ランダ役には非常に慎重だったという。最終的にクリストフ・ヴァルツがオーディションでその役を射止め、監督は「彼がいなければ映画は完成しなかった」と絶賛している。
作中で多言語が頻繁に使用される点も注目ポイントだ。英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語が飛び交う台詞の数々は、キャストが語学力を試される難易度の高い挑戦だった。特に、ブラッド・ピットが話す「イタリア語の発音をわざと酷くした台詞」はコメディ的な効果を生み出した。
劇中で重要な舞台となる映画館は、監督自身の映画愛を反映した場として細部までこだわり抜かれている。映画館内で上映されるナチスのプロパガンダ映画『国家の誇り』は、実際にタランティーノの手で制作され、映画の中の「映画」として存在感を放っている。このプロパガンダ映画を監督した役でイーライ・ロス監督(モンタナの風に抱かれて、など)が出演するなど、遊び心が随所に散りばめられている。
撮影中のエピソードとして、ブラッド・ピットがアルド・レイン役の特徴である南部訛りを完璧に演じるため、常にその話し方で過ごしていたという逸話もある。また、首に見える傷の設定は、彼の過去にまつわる謎を示唆するためにタランティーノが意図的に取り入れた要素だという。
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