『ジョーカー』は2019年に公開されたアメリカの心理スリラー映画で、トッド・フィリップスが監督・脚本を務めた。DCコミックスのキャラクター「ジョーカー」を基にしながらも、従来のスーパーヒーロー映画とは異なり、独立したオリジナルストーリーとして制作されたもの。
ホアキン・フェニックスが、社会から疎外されていく孤独な男性アーサー・フレックを演じ、犯罪者「ジョーカー」へと変貌していく姿を圧倒的な演技で描き切った。ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、第92回アカデミー賞では主演男優賞と作曲賞の2部門を受賞。特にフェニックスの演技は絶賛され、作品のテーマである社会的格差や精神的苦悩は大きな議論を呼んだ。製作費5500万ドル(70億円)の低予算ながらも、世界興行収入は10億ドル(1,300億円)を超える大ヒットを記録し、映画史に残る意欲作として高く評価された。
『ジョーカー』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
舞台は1980年代のゴッサムシティ。貧困と犯罪が蔓延し、社会全体が荒廃している中、コメディアンを夢見る孤独な男性アーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)は、日々の生活に苦しみながら母親の介護を続けていた。精神的な病を抱え、発作的に笑い出してしまう障害を持つアーサーは、周囲から偏見と暴力を受け、次第に孤立を深めていく。
やがて、彼は自分の人生に絶望し、社会の不条理に反発する中で暴力的な衝動に目覚めていく。ピエロの姿で起こしたある事件をきっかけに、「ジョーカー」という存在が社会的な抗議の象徴として広がり、ゴッサムシティを混乱に陥れる。一方で、アーサー自身は完全に破壊的な存在へと変貌を遂げていく。
『ジョーカー』の監督と主要キャスト
- トッド・フィリップス(48)監督
- ホアキン・フェニックス(44)アーサー・フレック / ジョーカー
- ロバート・デ・ニーロ(76)マレー・フランクリン
- ザジー・ビーツ(28)ソフィー・デュモンド
- フランセス・コンロイ(66)ペニー・フレック
- ブレット・カレン(63)トーマス・ウェイン
- シェー・ウィガム(46)バーク刑事
- ビル・キャンプ(54)ギャリティ刑事
(役者の年齢は公開時点のもの)
『ジョーカー』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 2.0 ★★☆☆☆ |
・大切な人と観たい | 2.0 ★★☆☆☆ |
・ひとりでじっくり | 5.0 ★★★★★ |
・ホアキンの名演技 | 5.0 ★★★★★ |
・恐怖 | 3.0 ★★★☆☆ |
圧巻の演技でオスカー受賞
『ジョーカー』は、ホアキン・フェニックスの圧倒的な演技で注目を集めた心理スリラーの傑作。アーサー・フレックという複雑なキャラクターを体現するために体重を大幅に減量し、特異な笑い声や不安定な精神状態を緻密に表現。ジャック・ニコルソンやヒース・レジャーといった名優たちが演じてきたジョーカー像を、ホアキン・フェニックスが独自の解釈で再構築し、その圧倒的な演技力によりアカデミー主演男優賞を受賞した。
また、映画全体の映像美も高く評価されている。ローレンス・シャーの撮影は、1980年代のゴッサムシティの荒廃を詩的に映し出し、ヒルドゥル・グーナドッティルの不穏な音楽が物語に深い緊張感をもたらした。社会的なテーマを掘り下げ、観客に考える余地を与える作品として映画史に残る意義深い作品である。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
「ジョーカー」が社会の不満を象徴する存在として描かれる点が、暴力行為を正当化していると受け取られる危険性が指摘される。この批判は作品そのものへの論評というよりも、ダークヒーローが称賛されること自体が引き起こす社会不安を反映したものだ。作品の評価が高まるほど批判の声も大きくなるというジレンマが浮き彫りになる。
こぼれ話
『ジョーカー』の制作には、トッド・フィリップス監督の独自のアプローチが色濃く反映されている。同氏が描いた脚本は、『タクシードライバー』(1976年)や『キング・オブ・コメディ』(1982年)といったマーティン・スコセッシ作品からの影響を受け、社会から疎外された孤独な人物の心理を探求するスタイルで執筆された。
ホアキン・フェニックスは役作りのため、精神障害を抱える人々の研究や、特異な笑い方を作り上げるための練習を徹底したという。また、映画音楽を手がけたヒルドゥル・グーナドッティルは脚本を読み、撮影が始まる前にスコアを完成させたことで、撮影現場での演技や演出に音楽が直接影響を与えた。ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞したことも、本作の芸術性を象徴する重要なエピソードである。
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