黒澤明リメイクの西部劇ガンアクション ---
『ラストマン・スタンディング』(原題:Last Man Standing)は、1996年に公開されたアメリカのアクション映画で、ウォルター・ヒルが監督を務めた。黒澤明の『用心棒』(1961年)を基にした作品で、ブルース・ウィリスが主演を務める。物語は、禁酒法時代のアメリカを舞台に、無法の町で二大ギャング組織の抗争に巻き込まれた流れ者のガンマンの戦いを描く。西部劇とフィルム・ノワールの要素を融合させた作風が特徴で、激しい銃撃戦やスタイリッシュな演出が見どころとなっている。
製作費が約6,700万ドル(当時のレートで約63億円)に対し、興行収入は全世界で約4,700万ドル(約45億円)と振るわなかったが、ブルース・ウィリスのクールなガンマン像やウォルター・ヒルらしいハードボイルドな雰囲気が評価され、根強いファンを持つ作品となっている。
『ラストマン・スタンディング』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
禁酒法時代の1930年代、メキシコとの国境の街テキサス州ジェリコはギャングが支配する無法の町だった。そこへ流れ者のジョン・スミス(ブルース・ウィルス)が車でやって来る。彼は賞金稼ぎでもなく、正義の味方でもないが、生き抜くために手段を選ばない男だった。
町ではアイルランド系ギャングとイタリア系ギャングが激しく対立しており、スミスはその争いを利用して利益を得ようと企てる。彼は時に片方の勢力に加担し、時には裏切りながら、巧みに勢力図を変えていく。彼の卓越した銃の腕前と冷徹な判断力は、次第に両陣営のボスたちに恐れられるようになる。
しかし、スミスの策略が進むにつれ、状況はより混沌を極め、彼自身も命を狙われることになる。やがて彼は単なる生存競争ではなく、己の信念と向き合う戦いに巻き込まれていく。果たして彼は、敵対するギャングの包囲網を抜け、最後まで生き残ることができるのか。
『ラストマン・スタンディング』の監督・主要キャスト
- ウォルター・ヒル(54)監督
- ブルース・ウィリス(41)ジョン・スミス
- クリストファー・ウォーケン(53)ヒッキー
- ブルース・ダーン(60)エド・ガルト保安官
- デヴィッド・パトリック・ケリー(45)ドイル
- カリーナ・ロンバード(27)フェリーナ
- ネッド・アイゼンバーグ(38)フレッド・ストロッジ
- アレクサンドラ・パワーズ(29)ルーシー・コリンスキー
(年齢は映画公開当時のもの)
『ラストマン・スタンディング』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 4.0 ★★★☆☆ |
・大切な人と観たい | 2.0 ★★☆☆☆ |
・ひとりでじっくり | 4.0 ★★★★☆ |
・ギャング+西部劇 | 5.0 ★★★★★ |
・ハードボイルド | 4.0 ★★★★☆ |
ポジティブ評価
『ラストマン・スタンディング』は、西部劇とフィルム・ノワールの融合が見事に表現された作品。砂塵舞うゴーストタウン・ジェリコの荒廃した雰囲気は、まるで古典的な西部劇の舞台そのもので、視聴者を禁酒法時代のアメリカへと引き込む。
本作の最大の見どころは、何といってもブルース・ウィリス演じる主人公ジョン・スミスのクールなガンアクションだ。彼は一匹狼の流れ者として、アイルランド系とイタリア系のギャングの間を巧みに立ち回るが、ひとたび銃を抜けば、次々と敵を倒していく。その銃撃戦の演出は、まるでダンスのように計算され尽くしており、スローモーションを多用した迫力あるアクションには90年代らしい派手さが際立つ。
クリストファー・ウォーケン演じる冷酷なヒットマン・ヒッキーは、スミスの対立相手としてインパクトを残し、さらにブルース・ダーンやデヴィッド・パトリック・ケリーといった実力派キャストが脇を固め、荒廃した町で繰り広げられる男たちの駆け引きを彩る。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価
黒澤明『用心棒』のリメイクといえば、セルジオ・レオーネ監督による『荒野の用心棒』。『ラストマン・スタンディング』は、同じ原作で、二度目の西部劇としてリリースされたため、自ずと比較対象になる。しかしながら前者がクリント・イーストウッドの出世作となった名作中の名作のため、本作は二番煎じ感が否めず苦しい劇場公開となった。制作費を下回る興行成績も、新鮮味に欠けたことによる影響があるかもしれない。
ただ、こにおいての大きなポイントは、荒野の用心棒が無許可リメイク(オマージュ?なのかは見解が分かれるところだが、日本では一般的にパクリと解釈されている)だったことに対し、ラストマン・スタンディングは公式リメイクとなった点。プロットについても、レオーネ監督版を未視聴の観客にとっては充分楽しめる内容だということも強調したい。
キャラクターについては、全体的に寡黙で、心理描写が少ない。「悪党同士の潰し合い」を淡々と見せられているように感じる部分もあるため、好みが分かれる映像表現ではあるかもしれない。
こぼれ話
『ラストマン・スタンディング』は黒澤明の『用心棒』をハリウッド流にアレンジした作品だが、実は『用心棒』自体もダシール・ハメットの小説『血の収穫』に影響を受けている。つまり、本作は「原作の原作」の流れをくんだ作品とも言え、映画史的に見ると興味深い位置づけにある。前述のように、『用心棒』は1964年の『荒野の用心棒』としてイタリア西部劇にもリメイクされており、同じ物語がさまざまな国や時代を舞台に繰り返し語られているのも面白い。
本作の撮影は、ニューメキシコ州の砂漠地帯に作られたゴーストタウン風のセットで行われた。ウォルター・ヒル監督は「とにかく埃っぽくしたかった」と語っており、実際に画面には常に砂塵が舞っている。撮影中、ブルース・ウィリスをはじめとするキャスト陣は、砂ぼこりのせいで何度もせき込んだという。映画の雰囲気を出すためとはいえ、現場はかなり過酷だったようだ。
本作の銃撃戦について、ウォルター・ヒル監督はジョン・ウー監督の香港映画に影響を受けたと語っており、スローモーションや二丁拳銃の乱れ撃ちといった演出は、まさに香港アクション映画のスタイルを取り入れたもの。そのため、本作を「西部劇風ノワール映画」として見るか、それとも「ジョン・ウー風アメリカン・ガンアクション」として楽しむかで、印象が変わるかもしれない。
日本において、故・淀川長治氏(日曜洋画劇場のサヨナラおじさん)が最後に解説した作品がこの『ラストマン・スタンディング』だった。エンディングの解説では、「ブルースウィルス、良い男ですね」と締めくくった。
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