スパイ映画の新たな時代を築いた作品 ---
1996年公開の『ミッション:インポッシブル』(原題:Mission: Impossible)は、ブライアン・デ・パルマ監督が手がけ、トム・クルーズが主演・プロデューサーを務めたスパイアクション映画。1960年代のテレビシリーズ『スパイ大作戦』を原作とし、ハリウッド流のスリルとアクションを加えて現代風にアレンジした作品である。
物語は、極秘諜報機関IMF(Impossible Mission Force)のエージェント、イーサン・ハント(トム・クルーズ)が、任務中に仲間を失い、組織から裏切り者と疑われる中で、真相を探るために奔走するという展開。サスペンス色の強いストーリーと、天井からワイヤーで吊るされた状態でのハッキングシーンなど、スタイリッシュな演出が話題となった。
本作は全世界で約4億5,700万ドル(当時のレートで約430億円)の興行収入を記録し、大ヒットを遂げた。特に、トム・クルーズが自ら危険なスタントをこなしたことや、スパイ映画の新たなスタンダードを確立したことが評価され、その後の長寿シリーズ化につながった。テーマ曲の「ミッション:インポッシブルのテーマ」も映画のアイコンとして広く知られ、現在でもシリーズを象徴する要素となっている。
『ミッション:インポッシブル』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
IMF(Impossible Mission Force)の敏腕エージェント、イーサン・ハント(トム・クルーズ)は、プラハで極秘任務に就いていた。しかし作戦は何者かの妨害によって失敗し、チームのメンバーは次々と命を落とし、唯一生き残ったイーサンは、IMF本部から「任務を裏切った内通者」として疑われることになる。
無実を証明するため、イーサンは独自に調査を開始。情報屋や裏社会の協力者と接触しながら、ある極秘情報をめぐる陰謀を追う。やがて彼は、IMF内部に隠された驚くべき真相に辿り着き、パリ、ロンドン、そして高速列車内の決戦へと駆け抜ける。
極限の状況下で仲間と敵の区別がつかない中、イーサンは巧妙な頭脳戦と大胆なアクションを駆使し、ミッションを遂行しようとするが——。
『ミッション:インポッシブル』の監督・主要キャスト
- ブライアン・デ・パルマ(55)監督
- トム・クルーズ(34)イーサン・ハント
- ジョン・ヴォイト(58)ジム・フェルプス
- エマニュエル・ベアール(33)クレア・フェルプス
- ヘンリー・ツェニー(37)ユージーン・キトリッジ
- ジャン・レノ(48)フランツ・クリーガー
- ヴィング・レイムス(37)ルーサー・スティッケル
- クリスティン・スコット・トーマス(36)サラ・デイヴィス
(年齢は映画公開当時のもの)
『ミッション:インポッシブル』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 5.0 ★★★★★ |
・大切な人と観たい | 3.0 ★★★☆☆ |
・ひとりでじっくり | 2.0 ★★☆☆☆ |
・スパイ映画の新基準 | 5.0 ★★★★★ |
・トム・クルーズ代表作 | 4.0 ★★★★☆ |
ポジティブ評価
『ミッション:インポッシブル』は、スパイ映画としてのサスペンスとアクションのバランスが絶妙な作品であり、90年代を代表するエンターテインメント映画のひとつとなった。
ワイヤーで吊るされたイーサン・ハントが、無音の中でコンピュータに侵入する「天井張り付きシーン」は、本作を象徴する名場面。ほとんど無音の緊張感の中で、一滴の汗が床に落ちるかどうかで全てが決まるという演出は、アクションシーンとは違った形のスリルを生み出している。また、クライマックスの高速列車でのバトルも、当時の技術としては画期的なVFXを駆使したシーンであり、ハラハラさせる展開が続く。
何より、主演のトム・クルーズのカリスマ性が本作の成功を決定づけた要因のひとつ。彼はプロデューサーとしても本作に深く関わり、危険なスタントの多くを自らこなしたことで、リアリティのあるスパイアクションを実現した。彼の演じるイーサン・ハントは、単なるタフなヒーローではなく、頭脳戦と体力を駆使してミッションを遂行するキャラクターとして、007シリーズとは異なるスパイ像を確立した。
特徴的なテーマ曲のアレンジや、チームプレイから個人戦へと変化するストーリー展開は、続くシリーズの方向性を決定づけるものとなった。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
本作はテレビシリーズ『スパイ大作戦』を原作としているものの、頭脳戦によるチームプレイよりもトム・クルーズ個人に焦点を当てたスパイ・アクションになっており、オリジナル版のファンからは疑問視する声も。とはいえ、映画版ミッション・インポッシブルシリーズを通じて見ると、この第1作目は未だサスペンス・スリラー要素が色濃かった作品である(シリーズが進むに連れ、アクション要素が強くなる)。いずれを好むかは視聴者の好みによる。
当初シリーズ化の予定はなかったが、世界的なヒットを受け、続編の制作が決定。その後、監督を変えながらシリーズが進化し、現在ではハリウッドを代表する長寿アクションシリーズとなった。特に、シリーズを追うごとにトム・クルーズのスタントがエスカレートしていくのは、オリジナル『スパイ大作戦』からは想像もつかない変貌ぶりかもしれない。
こぼれ話
『ミッション:インポッシブル』は、トム・クルーズが初めてプロデューサーを務めた作品であり、彼のキャリアにおいて重要な転機となった映画である。シリーズの始まりとしては意外かもしれないが、前述のように、本作は以降の作品と比較し、サスペンスと心理戦を重視した作風になっている。
本作の象徴ともいえる「ワイヤー宙吊りシーン」は、当初の脚本にはなかった。ブライアン・デ・パルマ監督とトム・クルーズが、「スパイ映画らしいスリリングなシーンを加えたい」と考え、撮影の直前に追加されたという。宙吊り状態で床に触れないようにする演出は、トム・クルーズ自身がバランスを取るのに苦労し、何度もリハーサルを重ねた結果、名場面が生まれた。撮影中にバランスを崩さないよう、靴にコインを忍ばせて重心を調整していたというエピソードもある。
今では「スタントを自分でこなす俳優」として知られるトム・クルーズだが、本作がその評価の始まりだった。クライマックスの高速列車のシーンでは、当時の技術を駆使してCGと実写を組み合わせたが、それでもトム・クルーズは「できる限り自分で演じたい」と主張し多くの場面で自らアクションをこなした。これが後のシリーズ作品で、ますます危険なスタントに挑戦していくきっかけとなったと言われている。
『ミッション:インポッシブル』といえば、ラロ・シフリン作曲のテーマ曲が有名だが、本作ではU2のメンバー、アダム・クレイトンとラリー・マレン・ジュニアがリミックスを手掛けたことで、より現代的でクールな仕上がりになった。オリジナルのメロディーを活かしつつ、エレクトロニックなアレンジを加えたこのバージョンは、映画とともに大ヒットし、シリーズの象徴として定着した。
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