ノマド生活のリアルを描いたアカデミー作品 ---
『ノマドランド』は2020年に公開されたアメリカのドラマ映画。原作はジェシカ・ブルーダーのノンフィクション書籍『ノマド: 漂流する高齢労働者たち』で、クロエ・ジャオが監督を務めた。物語は、夫を失い家も職も失った60代の女性ファーンが、中古バンに住みながらアメリカ西部を旅する「現代のノマド」の生活を描く。
主演のフランシス・マクドーマンドは圧倒的な演技力でファーンを演じ、第93回アカデミー賞で主演女優賞を受賞。映画自体も作品賞と監督賞を含む計3部門を受賞し、高い評価を得た。低予算で制作された本作には実際のノマド労働者たちも出演しており、そのリアリティが注目された。興行的にも成功を収めるとともに、資本主義社会の現代的な問題を問いかけた社会派作品としても話題を呼んだ。
『ノマドランド』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
2008年の経済不況により、アメリカ西部の産業都市エンパイアは崩壊し、住民は職を失い町を去った。
夫の死と職場の閉鎖によって住む家を失った60代の女性ファーンは、中古のバンを購入し、それを改造して生活を始める。彼女はアマゾンの倉庫での期間労働を皮切りに、季節労働や短期の仕事を渡り歩きながら、アメリカ西部の広大な自然を旅する。道中で出会うのは、同じようにバンや車を生活の拠点にするノマドたち。彼らと友情を育みつつ、時には孤独や辛さを抱えながらも、ファーンは過去と向き合い、自由を求める新たな生き方を模索していく。
社会の枠から外れた「ノマド」としての旅の中で、彼女は自身のアイデンティティと人間のつながりを再発見する。
『ノマドランド』の監督と主要キャスト
- クロエ・ジャオ(38)監督
- フランシス・マクドーマンド(63)ファーン
- デヴィッド・ストラザーン(72)デイブ
- リンダ・メイ(年齢不詳)リンダ
- シャーリーン・スワンキー(77)スワンキー
- ボブ・ウェルズ(65)ボブ
(役者の年齢は公開時点のもの)
『ノマドランド』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 2.0 ★★☆☆☆ |
・大切な人と観たい | 3.0 ★★★☆☆ |
・ひとりでじっくり | 5.0 ★★★★★ |
・生き方の考察 | 5.0 ★★★★★ |
・美しい自然 | 4.0 ★★★★☆ |
美しい自然とノマドたちのリアル
『ノマドランド』は、静かな感動とリアリティによって観客を引き込む秀逸なドラマである。クロエ・ジャオ監督は、詩的な映像美とドキュメンタリー風の演出を巧みに組み合わせ、ノマドたちの生活を繊細に描写した。
主演のフランシス・マクドーマンドは、無理のない自然体の演技でファーンの孤独や希望を見事に表現し、その役柄に溶け込む姿勢が多くの観客の共感を呼んだ。また、実際のノマドであるリンダ・メイやスワンキーをキャストに起用した点も話題を呼び、作品全体にリアリティを与えている。
広大なアメリカ西部の自然を背景に、個人のアイデンティティや社会からの疎外をテーマとした深い哲学的問いかけがなされていることも高い評価を受けた。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
一部レビューサイトで、『ノマドランド』はその静かな語り口やゆったりとしたペースゆえに退屈に感じられるという書き込みが見られるがそこは作品ジャンル。ドラマチックなロードムービーを期待する場合は別の作品を選択ほうが良いかもしれない。
一方で、ノマドたちの生活の厳しさに対する表現が控えめであるため、観客に甘美なノスタルジアを与えすぎているとする声もある。
こぼれ話
本作の制作では、実際のノマド生活を取り入れるため、クロエ・ジャオ監督とフランシス・マクドーマンドがバンでの生活を体験したというエピソードが知られている。また、映画の多くのシーンはノースダコタやネバダの自然光を活用して撮影され、映画全体に自然な雰囲気を与えている。
ジェシカ・ブルーダーの原作では、資本主義社会の歪みがより強調されているが、映画では個人の生き方や自由が前面に押し出されており、原作と映画のアプローチの違いも議論を呼んでいる。
第93回アカデミー賞では、作品賞を含む主要部門を制覇し、クロエ・ジャオ監督はアジア系女性として初の監督賞受賞者となった点でも歴史的な作品である。
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