原爆開発者の栄光と悲劇 ---
『オッペンハイマー』は、2023年に公開されたアメリカの伝記映画である。監督はクリストファー・ノーラン。主演のキリアン・マーフィーが、世界初の原子爆弾を開発した物理学者ロバート・オッペンハイマーを演じる。共演にはエミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr.らが名を連ねる。
本作は、カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによるピュリッツァー賞受賞の伝記『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』を原作としている。第96回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞など7部門を受賞。興行収入は9億7,600万ドル(1,300億円)を超えた。
『オッペンハイマー』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
映画『オッペンハイマー』は、第二次世界大戦中にアメリカで行われた原子爆弾開発計画「マンハッタン計画」を主導した物理学者ロバート・オッペンハイマーの生涯を描く。
天才科学者として頭角を現した彼は、核兵器という人類史上最大の発明の背後にあった政治的、倫理的葛藤に直面する。物語は、彼の若き日の学問的探究から始まり、科学界の最前線での奮闘、そしてトリニティ実験での成功とその後の激動の日々を描く。
戦後には、冷戦下での疑惑や非難が彼に降りかかり、ヒーローから反逆者へと変わる彼の運命が鮮烈に描かれる。オッペンハイマーの視点を通して、科学の力とその影響が世界に与えた光と影が浮き彫りになる。
『オッペンハイマー』の監督・主要キャスト
- クリストファー・ノーラン(53)監督
- キリアン・マーフィー(47)J・ロバート・オッペンハイマー
- エミリー・ブラント(40)キャサリン・“キティ”・オッペンハイマー
- マット・デイモン(52)レスリー・グローヴス
- ロバート・ダウニー・Jr.(58)ルイス・ストローズ
- フローレンス・ピュー(27)ジーン・タトロック
- ジョシュ・ハートネット(44)アーネスト・ローレンス
- ラミ・マレック(41)デビッド・ヒル
(役者の年齢は公開時点のもの)
『オッペンハイマー』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 1.0 ★☆☆☆☆ |
・大切な人と観たい | 3.0 ★★★☆☆ |
・ひとりでじっくり | 5.0 ★★★★★ |
・考えさせられる | 5.0 ★★★★★ |
・アカデミー作品を観たい | 5.0 ★★★★★ |
クリストファー・ノーラン監督ならではの緻密な演出が光る作品。原爆の実験シーンでは視覚的な派手さに頼るのではなく、爆発の衝撃音を効果的に遅らせるなど心理的な緊張感を高める手法を駆使し、臨場感を演出した。
また、キリアン・マーフィーが演じるロバート・オッペンハイマーのキャラクター造形も秀逸だ。彼の繊細で偏屈な科学者像は説得力があり、彼が抱える葛藤や内面的な苦悩を見事に表現している。特に勝利に沸く人々の前での演説シーンでは、表面的には成功を称えながらも、心の奥底では破壊の責任に押し潰されそうな内面が垣間見え、視聴者を圧倒する。
『オッペンハイマー』の主題は原爆投下そのものではない。しかし、アメリカの視点から描かれる歴史と当時の空気感を追体験すると、被爆国の視聴者としては心を乱される。感情に訴えかけることもまた映画の力だと言えようが、ここの評論については後の世代に譲りたいと思う。
クリストファー・ノーラン監督は、オッペンハイマーの心象風景を視覚的に描くため、火花が炸裂する宇宙の幻影などの映像表現を取り入れている。また、劇中、オッペンハイマーはトリニティ実験の爆発だけはまともに直視しているが、それは原爆や核の象徴ではなく、あくまでも彼が見た一種の奇跡として描かれている。
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