スピルバーグによる、ホロコースト題材のアカデミー作品 ---
1993年公開の『シンドラーのリスト』(原題:Schindler’s List)は、スティーヴン・スピルバーグ監督がホロコーストを題材に描いた歴史映画である。実在したドイツ人実業家オスカー・シンドラーが、第二次世界大戦中にユダヤ人労働者を救うために奔走した実話を基にしている。主演はリーアム・ニーソンが務め、ラルフ・ファインズ、ベン・キングズレーが共演。原作はトマス・キニーリーの小説『シンドラーズ・アーク』で、脚本はスティーヴン・ザイリアンが執筆した。
本作は白黒映像を主体とし、ドキュメンタリー的な手法で撮影された。視覚的なリアリズムと重厚な演出が評価され、アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む7部門を受賞。全世界で3億2,200万ドル以上の興行収入を記録し、社会的な影響も大きかった。ホロコーストの歴史を再認識させる作品として、教育現場でも取り上げられている。
『シンドラーのリスト』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
第二次世界大戦下のドイツ占領下ポーランド、実業家オスカー・シンドラー(リーアム・ニーソン)は、戦争を商機と捉え、クラクフでホーロー工場を経営する。ユダヤ人会計士イザック・シュターン(ベン・キングズレー)の協力を得て、安価なユダヤ人労働者を雇い、事業を拡大していく。一方、ナチス親衛隊のアーモン・ゲート(ラルフ・ファインズ)がクラクフ・ゲットーの指揮を執り、ユダヤ人たちは次第に強制収容所へ送られていく。
シンドラーは当初、利益を目的としていたが、目の当たりにする惨劇に心を動かされ、労働者たちを救うことを決意。彼は膨大な資金を投じて「シンドラーのリスト」と呼ばれる名簿を作成し、約1,100人のユダヤ人を強制収容所送りから守ることを決意するーーー。
『シンドラーのリスト』の監督・主要キャスト
- スティーヴン・スピルバーグ(47)監督
- リーアム・ニーソン(41)オスカー・シンドラー
- ベン・キングズレー(49)イツァーク・シュターン
- レイフ・ファインズ(30)アーモン・ゲート
- キャロライン・グッドオール(34)エミリエ・シンドラー
- エンベス・デイヴィッツ(28)ヘレン・ヒルシュ
- ジョナサン・セガール(27)ポルデク・ペファーベルグ
- アンジェイ・セヴェリン(44)ユリアン・シェルナー
(年齢は映画公開当時のもの)
『シンドラーのリスト』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 2.0 ★★☆☆☆ |
・大切な人と観たい | 4.0 ★★★★☆ |
・ひとりでじっくり | 5.0 ★★★★★ |
・モノクロの映像美 | 5.0 ★★★★★ |
・歴史の重み | 5.0 ★★★★★ |
ポジティブ評価
『シンドラーのリスト』は、当時SF作品のヒットメーカーとして知られていたスティーヴン・スピルバーグ監督が、キャリアの中で最初にシリアスなテーマに取り組んだ作品である。ドキュメンタリーのような白黒映像が歴史的な重みを際立たせ、実際のホロコースト生還者の証言をもとに再現された。戦争の残酷さを淡々と、しかし決して冷淡ではなく描いている。
映画にはスピルバーグらしい演出も散りばめられ、全編モノクロの中に象徴的に登場する「赤い服の少女」は、視聴者の記憶に刻まれる演出の一例である。
リーアム・ニーソン演じるオスカー・シンドラーは、初めは利益を追求する典型的なビジネスマンとして登場するが、物語が進むにつれ、その行動の意味が大きく変化していく。シンドラーの複雑な内面を演じたニーソンの演技は高く評価され、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。
一方、ラルフ・ファインズが演じるアーモン・ゲート(こちらも実在の人物)は、冷酷さと人間臭さが混在したキャラクターであり、このギャップが、彼の不気味さをより際立たせてた。
ネガティまたは賛否が分かれる評価要素
『シンドラーのリスト』のストーリーについて低評価要素を見つけるのは難しいが、作品としてみた場合に目立つのが「長い」点と「人物判別が難しい」の2点。
3時間15分という長さの映画は他にもあるが、長く、戦争の過酷な描写が続くため、軽い気持ちで200分近く視聴すると体力を消耗する。また、モノクロ映像の美しさが評価される一方で、視覚的な情報が限られるため人の判別が難しい。特に登場人物が多く名前も似通っているため、「えっ、この人さっきも出てた?」と混乱することも。
こぼれ話
スティーブン・スピルバーグは、1980年代からこのテーマの映画を作ることを考えていたが、実際に企画が上がった際には自身が「まだこのテーマを扱うには未熟」と感じていたため、一度は監督の座を辞退していたという。しかし、『ジョーズ』『未知との遭遇』『インディ・ジョーンズ』で成功を収めていた彼は結果的に引き受け、歴史に残る名作となった。
撮影はポーランドのクラクフで行われ、実際のホロコーストの現場に近いロケ地が選ばれた。ただし、アウシュヴィッツ強制収容所内での撮影はポーランド政府によって禁止されていたため、収容所のセットを別の場所に建てて撮影が行われた。撮影中のスピルバーグは精神的にかなり追い詰められ、同時期に進めていた『ジュラシック・パーク』の編集作業を息抜きとして行っていたという。
主演のリーアム・ニーソンは本作での演技が評価され、ハリウッドでの地位を確立した。それまでの彼は舞台俳優としてのキャリアが中心で、映画でも脇役が多かった。本作の成功を機に主演作が増えた彼は、後年にはアクションスターとして『96時間』シリーズで新たな人気を獲得することになる。
本作の象徴的な「赤い服の少女」は、スピルバーグが実際の証言をもとに考案したものだという。カラーを排した映画の中で唯一の赤い色が際立ち、視覚的にも記憶に残る演出となった。ちなみに、撮影に参加した俳優の中には、実際にホロコーストを生き延びた人々もいた。彼らにとっても、この映画は単なる作品ではなく、歴史を語り継ぐための重要な機会だったのかもしれない。
みんなのレビュー