少年たちの旅が映し出す、青春映画の原点 ---
『スタンド・バイ・ミー』(原題:Stand by Me)は、1986年に公開されたアメリカの青春映画。スティーヴン・キングの中編小説『The Body』(邦題:『死体』)を原作とし、ロブ・ライナーが監督を務めた。物語は、1950年代末のオレゴン州の小さな町キャッスルロックを舞台に、4人の少年たちが行方不明の少年の遺体を探す旅に出るひと夏の冒険を描いている。主要キャストには、ウィル・ウィートン、リヴァー・フェニックス、コリー・フェルドマン、ジェリー・オコンネル、キーファー・サザーランドら。
本作は、アカデミー賞脚色賞やゴールデングローブ賞の作品賞・監督賞にノミネートされるなど、高い評価を受けた。また、ベン・E・キングが歌う同名の主題歌もリバイバルヒットし、映画とともに広く知られている。日本では1987年に劇場公開された。
『スタンド・バイ・ミー』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
1959年、オレゴン州の小さな町キャッスルロック。12歳のゴーディー(ウィル・ウィートン)、クリス(リヴァー・フェニックス)、テディ(コリー・フェルドマン)、バーン(ジェリー・オコンネル)の4人の少年たちは、行方不明になっていた同年代の少年の遺体が森の奥にあるらしいという噂を耳にする。彼らは「遺体を見つければ英雄になれる」と考え、徒歩で森を目指す冒険の旅に出る。
4人はそれぞれ異なる家庭環境を抱えていた。作家志望のゴーディーは、兄の死によって家族の愛を感じられずにいた。クリスは賢く優しい性格ながら、家庭の事情から「問題児」と見なされている。テディは戦争帰りの父に虐待されながらも、彼を英雄視しており、バーンは仲間の中で一番臆病だが純粋で愛されるキャラクターだった。
旅の途中、彼らは線路を歩きながら様々な話をし、危険な橋を渡り、ヒルの生息する沼にはまり込み、時にはケンカをしながらも、友情を深めていく。しかし、町の不良グループを率いるエース(キーファー・サザーランド)たちもまた、遺体を見つけようと動いており、やがて4人は思いがけない選択を迫られることになる。
少年たちのひと夏の冒険は、単なる「死体探し」ではなく、それぞれの心の成長と別れを象徴する旅となっていくのだった。
『スタンド・バイ・ミー』の監督・主要キャスト
- ロブ・ライナー(39)監督
- ウィル・ウィートン(14)ゴーディー・ラチャンス
- リヴァー・フェニックス(15)クリス・チェンバーズ
- コリー・フェルドマン(14)テディ・ドチャンプ
- ジェリー・オコンネル(12)バーン・テシオ
- キーファー・サザーランド(19)エース・メリル
- ジョン・キューザック(20)デニー・ラチャンス
- リチャード・ドレイファス(38)大人のゴーディー(ナレーション)
(年齢は映画公開当時のもの)
『スタンド・バイ・ミー』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 2.0 ★★★☆☆ |
・大切な人と観たい | 4.0 ★★★★☆ |
・ひとりでじっくり | 5.0 ★★★★★ |
・ノスタルジー | 5.0 ★★★★★ |
・余韻がある映画 | 5.0 ★★★★★ |
ポジティブ評価
『スタンド・バイ・ミー』は、青春映画の金字塔として今なお多くの人に愛され続ける。
12歳の少年たちが死体探しの旅に出るというシンプルなストーリーながら、友情、家族、喪失、成長といった普遍的なテーマが繊細に描かれており、子ども時代の「最後のひと夏」の記憶を呼び起こすようなノスタルジックな雰囲気が漂う。
本作の最大の魅力は、4人の少年たちのリアルなキャラクター描写にある。ゴーディー、クリス、テディ、バーンはそれぞれ異なる悩みを抱えながらも、子ども特有の無邪気さと鋭い感受性を持ち合わせており、彼らのやり取りはどこか身近に感じられる。特に、リヴァー・フェニックス演じるクリス・チェンバーズは、強さと脆さを併せ持つキャラクターとして印象深く、彼の演技は本作のハイライトのひとつとなっている。
また、物語の舞台となる1950年代の田舎町の風景や、線路を歩きながら語り合うシーンには、時代を超えた郷愁が漂う。特に、ベン・E・キングの名曲「Stand by Me」が映画の雰囲気を決定づけており、作品の象徴として深く刻まれている。エンドロールでこの曲が流れる瞬間、多くの観客が「自分の子ども時代」を振り返ることになるだろう。
さらに、本作はスティーヴン・キングの原作を忠実に再現しつつも、ロブ・ライナー監督による繊細な演出が光る。ホラー要素の強いキング作品の中で、本作は異色の青春ドラマとして位置づけられ、原作以上に心温まる作品へと昇華された。大人になったゴーディーの視点から語られるナレーションが、少年時代の記憶に独特の温かみと切なさを加えている点も見逃せない。
『スタンド・バイ・ミー』は「子ども時代の終わり」を描いた作品である。観るたびに異なる感情が湧き上がる本作は、大人になった今こそ、改めて味わう価値がある映画と言えるだろう。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
名作とされる本作に対してネガティブ評価を挙げるのは難しい。内容もさることながら、主題歌の「スタンド・バイ・ミー」も映画とともに世界的なヒットとなり、さらに子どもが主役で友情や成長を描いた作品となると批判の余地がなかなか無い。
ただ、冒険の目的は「死体探し」。土台が明るいテーマではない。
遺体の発見という暗い題材がときに「ホラー」に分類されることもあり、冒険譚としての明るさや高揚感を期待すると内容のトーンに違和感を覚える可能性がある。名作という呼び声の高さゆえに、やや地味な展開や抑制された演出に対して「期待外れだった」と感じる視聴者も一部に存在する。
ナレーションの語り口と少年たちの等身大の成長。これらの落ち着いた作風が本作の魅力で、過剰な演出や劇的展開ではなく、余韻で語るタイプの映画なのである。
こぼれ話
『スタンド・バイ・ミー』には、撮影中のエピソードやキャストに関する興味深いこぼれ話が数多く存在する。
まず、本作の原作はスティーヴン・キングの中編小説『The Body』(邦題:『死体』)であるが、映画化に際してタイトルが変更された。原作のタイトルはストレートすぎると判断され、劇中でも使用されたベン・E・キングの楽曲「Stand by Me」にちなんで現在のタイトルが採用された。この決定は結果的に成功し、主題歌とともに映画の知名度を大きく高めることになった。
主人公ゴーディーを演じたウィル・ウィートン、クリス役のリヴァー・フェニックス、テディ役のコリー・フェルドマン、バーン役のジェリー・オコンネルは、撮影期間中に本当の親友のような関係を築いたという。特に、リヴァー・フェニックスは現場でもリーダー的存在で、若手俳優たちの精神的な支えになっていた。しかし、演技のスイッチが入ると一瞬で役になりきり、彼の才能には監督のロブ・ライナーも驚かされたという。
撮影中のエピソードとして有名なのが、列車橋を渡るシーンである。実は、少年たちが線路の上を走るこのシーンは、映画の中ではスリリングに描かれているものの、実際には橋のすぐ下に安全対策が施されており、万が一の転落にも備えていたという。それでも、子役たちは「本当に列車に追われているように演じる」必要があったため、撮影中は相当な緊張感が漂っていたらしい。
また、ロブ・ライナー監督は、子役たちからリアルな演技を引き出すために、撮影現場では常に彼らと親しく接し、自由な雰囲気を作ることを意識していた。特に、テントの中で少年たちが無邪気な会話を交わすシーンは、ほとんどアドリブに近い形で撮影されており、彼らの日常の会話を生かす形で作られた。その結果、劇中の会話はまるで本当の12歳の少年たちが話しているような自然な雰囲気となっている。
ちなみに、ドラマ「24 -TWENTY FOUR-」のジャック・バウワー役でお馴染みのキーファー・サザーランドが意地悪な兄貴分役で登場しているのも本作の見どころ。彼は名優ドナルド・サザーランドの息子として知られ、本作出演時はまだ若手の域にあったが、その後『フラットライナーズ』(1990)や『フォーン・ブース』(2002)などで存在感を示し、2001年に始まった前述ドラマで一気に国際的なブレイクを果たすこととなった。
みんなのレビュー