銀幕に漂う、静謐と官能のハリウッド女優
本名キムラ・アン・ベイシンガー。1953年12月8日、アメリカ・ジョージア州アセンズに生まれる。父はジャズ・ミュージシャン兼元アメリカ陸軍の兵士、母はモデルおよび女優経験者で、芸術的な環境の中で育った。5人きょうだいの三女であり、幼い頃からバレエや歌に親しんでいた。
高校卒業後、地元の大学に進学するが、19歳でモデル業を開始。すぐに頭角を現し、ニューヨークの有名モデル事務所に所属しながらファッション誌などで活躍する。その後演技に転向し、1976年にテレビシリーズ『チャーリーズ・エンジェル』などにゲスト出演。1981年に映画『ハード・カントリー』でスクリーンデビューを果たし、端正な美貌と神秘的な存在感で注目を集めるようになった。
キム・ベイシンガーの経歴
俳優としてのキャリア
1981年、27歳のキム・ベイシンガーは『ハード・カントリー』で映画デビューを果たす。モデル出身として注目される一方で、演技にも真剣に取り組み、1983年、29歳のときに『ネバーセイ・ネバーアゲイン』でジェームズ・ボンド映画のヒロイン役に抜擢される。品のある美貌と柔らかい語り口で存在感を示し、以後ハリウッドに本格進出した。
1986年、33歳で主演した『ナインハーフ』では、ミッキー・ロークと共演し、官能と感情の狭間に揺れる女性像を体当たりで演じ話題を呼ぶ。1989年、36歳で出演したティム・バートン版『バットマン』では、ゴッサム・シティの記者ヴィッキー・ベイル役を務め、興行的成功にも大きく貢献した。私生活では、1980年、26歳のときにメイクアップアーティストのロニー・トレッドウェルと結婚するが、9年後の1989年に離婚している。
1990年代に入ると演技の幅を広げ、より重厚な役柄にも挑戦するようになる。1997年、44歳のときに出演した『L.A.コンフィデンシャル』では、1950年代のロサンゼルスを舞台に、高級娼婦リン・ブラッケン役を演じ、アカデミー賞助演女優賞を受賞。キャリアの絶頂期を迎えた。この頃、1993年(当時40歳)に俳優アレック・ボールドウィンと結婚し、1995年には長女アイルランドが誕生している。だが夫婦関係は徐々に悪化し、2002年、49歳で離婚に至った。
2002年には49歳で『8 Mile』に出演。ラッパーの卵ジミー(エミネム)の母親役を演じ、抑制の効いた演技で再評価された。以降も『ザ・ドア・イン・ザ・フロア』(2004年)や『ザ・セント』などで複雑な女性像を演じ、演技派女優としての立場を固めていく。
50代以降は出演作を絞りつつも、社会的テーマや家族を描く作品への出演を継続。動物保護活動や環境問題にも積極的に取り組み、公の場では静かな存在感を保ちつつ、女優としての信念と生き方を重ね合わせるようなキャリアを歩んでいる。
受賞歴・代表作
1997年の『L.A.コンフィデンシャル』でアカデミー賞助演女優賞を受賞し、ハリウッドにおける演技派女優としての評価を確立した。
代表作には、世界的センセーションを巻き起こした恋愛ドラマ『ナインハーフ』、ボンドガールとして注目を集めた『ネバーセイ・ネバーアゲイン』、ダークな世界観を支えたヒロイン役が印象的な『バットマン』、母親役で新境地を見せた『8 Mile』、そしてキャリア最高評価を受けた『L.A.コンフィデンシャル』がある。華やかな美貌と繊細な演技力を併せ持ち、長年にわたり第一線で活躍した女優として確固たる地位を築いた。