舞台と知性が育んだ、変容するカメレオン女優
本名キャサリン・エリース・ブランシェット。1969年5月14日、オーストラリア・メルボルンに生まれる。父はアメリカ出身の海軍士官で広告業にも携わり、母は教師。ブランシェットが10歳のときに父が急逝し、母と兄姉とともに支え合いながら成長した。家庭では知性と独立心を重んじる教育がなされ、彼女自身も早くから芸術や政治に関心を示した。
高校卒業後はメルボルン大学で経済学を学ぶが、在学中に旅先のエジプトで映画のエキストラとして出演したことをきっかけに、演技への関心が高まり進路を変更。オーストラリア国立演劇学院(NIDA)に入学し、本格的に演技を学ぶ。卒業後はすぐに舞台で頭角を現し、国内外の演劇賞を受賞しながら映像作品への道を進んでいく。
ケイト・ブランシェットの経歴
俳優としてのキャリア
1993年、24歳のケイト・ブランシェットはオーストラリアのテレビ映画で映像作品に初出演。翌1994年には舞台での演技が高く評価され、国内の演劇賞を受賞。着実にキャリアを積んだ彼女は、1997年、28歳で映画『オスカーとルシンダ』に主演し、繊細な演技が国際的な注目を集める。翌1998年には『エリザベス』で英国女王エリザベス1世を演じ、アカデミー賞主演女優賞に初ノミネート。一気にハリウッドの一線級に躍り出た。
2001年からは『ロード・オブ・ザ・リング』三部作でガラドリエル役を演じ、神秘的な存在感を放つキャラクターでシリーズの象徴の一人となる。2004年、35歳のときに出演した『アビエイター』ではキャサリン・ヘプバーンを演じ、アカデミー賞助演女優賞を受賞。実在の伝説的女優を再構築する演技力が高く評価された。
以降も『アイム・ノット・ゼア』(2007年)、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008年)、『ロビン・フッド』(2010年)など、多様なジャンルで作品ごとに異なる顔を見せ、実力派女優としての評価を確実なものにしていく。私生活では1997年に劇作家アンドリュー・アプトンと結婚し、3人の息子と1人の養女を育てながら、家庭とキャリアを両立。
2013年、44歳で主演した『ブルージャスミン』でキャリア初のアカデミー賞主演女優賞を受賞。崩壊していく上流階級の女性を演じ、その精神的変化を巧みに表現した。2022年には『TÁR/ター』で再び主演を務め、現代クラシック音楽界を舞台にした人物劇で再びアカデミー賞にノミネート。舞台・文芸・歴史・現代と幅広い領域を自在に横断する存在として、現在も世界的評価を受け続けている。
製作者としてのキャリア
ケイト・ブランシェットは2008年から2013年にかけて、夫アンドリュー・アプトンとともにシドニー・シアター・カンパニーの共同芸術監督を務めた。劇場運営と演出企画の双方に関わり、古典から現代劇まで幅広い作品を手がけたことにより、オーストラリア演劇界への貢献が高く評価された。映画分野においても、自らの出演作で製作総指揮を務める機会が増えており、『TÁR/ター』(2022年)では製作にも名を連ねている。また、国際映画祭や映画賞の審査員・運営委員を歴任するなど、俳優にとどまらない映画文化の担い手としても広く活動している。
受賞歴・代表作
2004年の『アビエイター』でアカデミー賞助演女優賞、2013年の『ブルージャスミン』でアカデミー賞主演女優賞を受賞。これまでにアカデミー賞ノミネートは8回にのぼり、ほかにもゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞、ヴェネチア国際映画祭女優賞など受賞歴多数。
代表作には、国際的な評価を決定づけた『エリザベス』、演技変化の柔軟さを示した『アイム・ノット・ゼア』、圧倒的な存在感を放った『ブルージャスミン』、現代的テーマに挑んだ『TÁR/ター』、そして大作映画として知られる『ロード・オブ・ザ・リング』三部作がある。演技力、知性、芸術性を兼ね備えた現代屈指の女優である。