変幻と孤高を武器にした英国演劇出身の名優
本名ゲイリー・レナード・オールドマン。1958年3月21日、イギリス・ロンドン南部のニューハム地区で生まれる。父は溶接工でアマチュアボクサーとしても活動していたが、アルコール依存の影響でゲイリーが幼少期に家を出ており、以降は母と姉とともに慎ましい生活を送った。家庭は決して裕福ではなかったが、映画と音楽に強く惹かれ、早くから表現の世界に興味を持っていた。
10代の頃はピアニストを志すが、演技への情熱に傾き進路を変更。幾つかの演劇学校を経て、最終的にロンドンの名門ロイヤル・アカデミー・オブ・ドラマティック・アート(RADA)の受験を試みるも不合格。しかしロンドンのローズ・ブルフォード・カレッジに進学し、舞台演技を徹底的に学ぶ。卒業後は地方劇場を中心にキャリアを開始し、舞台での実績を経て映画界への道を切り拓いていった。
ゲイリー・オールドマンの経歴
俳優としてのキャリア
1982年、24歳のゲイリー・オールドマンはイギリス映画『Remembrance』でスクリーンデビューを果たす。舞台俳優としても活動を続け、1985年、27歳で『The Pope’s Wedding』の演技が高く評価され、英国演劇界で注目を集める。1986年、28歳で主演した『シド・アンド・ナンシー』では、セックス・ピストルズのベーシスト、シド・ヴィシャス役を演じ、体重を大幅に落とすなど徹底した役作りが話題となった。1987年、29歳のときには伝記映画『プリック・アップ』で劇作家ジョー・オートンを演じ、演技派俳優としての評価を確立した。
1990年代に入り、オールドマンは活動の場をハリウッドに移す。33歳のときに出演した『JFK』(1991年)では、謎多き人物リー・ハーヴェイ・オズワルドを緻密に演じ、その演技力の高さを国際的に示した。続く『ドラキュラ』(1992年)、『レオン』(1994年)、『フィフス・エレメント』(1997年)などでは、圧倒的な存在感と変幻自在な役作りで、個性派・悪役俳優としての地位を確立する。1997年、39歳のときに『エアフォース・ワン』でロシア人テロリストを演じたことで、興行的にも大成功を収めた。
私生活では1987年、29歳で女優レスリー・マンヴィルと結婚し、1988年に長男が誕生。しかし翌1989年に離婚。以降もユマ・サーマン(1990〜1992年)との結婚・離婚を経て、数度の結婚・離婚を繰り返すなど、私生活は複雑な一面を持つ。アルコール依存の克服にも取り組み、2000年代には公私ともに安定を取り戻していく。
2004年、46歳で出演した『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』では、主人公の名付け親シリウス・ブラック役を演じ、幅広い世代から支持を獲得。2005年、47歳のときには『バットマン ビギンズ』でゴードン警部に扮し、ノーラン版『ダークナイト』三部作を通じてシリーズの屋台骨を支える存在となった。
2011年、53歳で主演した『裏切りのサーカス』では寡黙な英国諜報員スマイリー役を演じ、キャリア初のアカデミー賞主演男優賞ノミネートを果たす。2017年、59歳で挑んだ『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』では特殊メイクと入念な役作りで英国首相を演じ、アカデミー賞主演男優賞を受賞。40年近いキャリアの集大成となった。
2020年、62歳で主演した『マンク』では『市民ケーン』の脚本家ハーマン・J・マンキーウィッツを演じ、再びアカデミー賞にノミネート。2022年からはドラマ『スロー・ホース』で主役を務め、69歳にしてなお第一線で活躍を続けている。役ごとに姿勢・声・容貌を自在に変える“変容の俳優”として、国際的に確固たる評価を得ている。
製作者としてのキャリア
ゲイリー・オールドマンは1990年代以降、俳優に加えて脚本・監督・製作の分野にも活動を広げている。1997年、39歳で自ら脚本・監督・主演を務めた自伝的作品『ニル・バイ・マウス』を発表。アルコール依存や家庭内暴力を題材に、社会の片隅に生きる人々をリアリズムあふれるタッチで描き、英国アカデミー賞(BAFTA)英国作品賞・脚本賞を受賞した。以降は俳優としての活動に軸足を置きながらも、作品選定や脚本開発に積極的に関与し、一部の出演作では製作総指揮も兼任している。また、自身の制作会社「SE8グループ」を通じて若手クリエイターの支援にも携わっており、映像表現の広がりに貢献する姿勢を見せている。
受賞歴・代表作
2017年の『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でアカデミー賞主演男優賞を受賞。これ以前にも『裏切りのサーカス』(2011年)、『マンク』(2020年)で同賞にノミネートされており、精緻な役作りと圧倒的な変身力により演技派俳優としての評価を確立している。
代表作には、シド・ヴィシャスを演じた『シド・アンド・ナンシー』、知的な狂気を帯びた殺し屋を体現した『レオン』、英国スパイ像を再定義した『裏切りのサーカス』、首相チャーチル役で頂点を極めた『ウィンストン・チャーチル』、そしてシリウス・ブラック役を演じた『ハリー・ポッター』シリーズがある。多彩なキャラクターに命を吹き込む“変身俳優”として、40年以上にわたり国際的な映画界を牽引してきた。