フル・モンティ(1997)の解説・評価・レビュー

The Full Monty コメディ(全般)
コメディ(全般)

イギリス発|男性ストリップ・コメディ ---

1997年公開のイギリス映画『フル・モンティ』(原題:The Full Monty)は、ピーター・カッタネオ監督によるイギリスのコメディドラマで、失業中の男たちが生活のためにストリップショーを企画する姿を描く。舞台は、かつて製鉄業で栄えたが、産業衰退により失業者があふれるイギリス・シェフィールド。主人公のガズ(ロバート・カーライル)は、息子の親権を守るために、仲間と共に“フル・モンティ(完全に脱ぐ)”という大胆なショーを決行することを決意する。

低予算ながらもユーモアと社会風刺を織り交ぜたストーリーが話題を呼び、世界的なヒットを記録。全世界で2億5,800万ドル(当時のレートで約300億円)以上の興行収入を達成し、1998年のアカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、助演男優賞、音楽賞の5部門にノミネートされ、作曲賞(コメディ・ミュージカル部門)を受賞した。英国アカデミー賞(BAFTA)では作品賞を含む4部門を受賞し、社会派コメディの傑作として今も語り継がれている。

『フル・モンティ』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


イギリス・シェフィールド。かつて製鉄業で栄えたこの町は、産業の衰退とともに失業者があふれ、人々は将来の見えない生活を送っていた。元製鉄工のガズ(ロバート・カーライル)もその一人で、仕事を失った上に養育費が払えず、息子の親権を失う危機に瀕していた。ある日、彼は女性向けのストリップショーが盛況であることを知り、自らストリップグループを結成し、一夜限りのショーで金を稼ぐことを思いつく。

ガズは、かつての同僚や友人たちを勧誘し、年齢も体型もバラバラな6人の男たちが集まる。経験ゼロの素人ながらも、彼らはストリップダンサーとしての特訓を開始。最初は戸惑いと恥ずかしさがあったものの、次第に自信をつけ、仲間意識も深まっていく。しかし、周囲の嘲笑や家族との衝突、そしてメンバーの不安や葛藤が重なり、計画は思うように進まない。

果たして彼らは、舞台に立ち、“フル・モンティ(完全に脱ぐ)”という大胆なショーを成功させることができるのか——。

『フル・モンティ』の監督・主要キャスト

  • ピーター・カッタネオ(34)監督
  • ロバート・カーライル(36)ガズ
  • マーク・アディ(31)デイヴ
  • トム・ウィルキンソン(49)ジェラルド
  • スティーヴ・ヒューイソン(35)ロンパー
  • ポール・バーバー(56)ホース
  • ヒューゴ・スピアー(28)ガイ
  • エミリー・ウーフ(23)マンディ

(年齢は映画公開当時のもの)

『フル・モンティ』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 5.0 ★★★★★
・大切な人と観たい 3.0 ★★★☆☆
・ひとりでじっくり 3.0 ★★★☆☆
・勇気の意味 5.0 ★★★★★
・人生の突破 5.0 ★★★★★

ポジティブ評価

『フル・モンティ』は、社会風刺とユーモアが光るイギリス映画の傑作。舞台となるのは、産業の衰退によって失業者が増えたシェフィールドの町。そこで生きる男たちの苦悩や葛藤を描きつつも、重苦しくなりすぎず、軽妙なコメディとして仕上げられているのが本作の魅力である。失業という深刻なテーマを扱いながらも、登場人物たちの奮闘を温かく、そして時にコミカルに描くことで、視聴者に勇気と希望を与えてくれる。

ロバート・カーライルは、どこか頼りないが憎めない主人公ガズを自然体で演じ、彼を取り巻く仲間たちも個性的で魅力的なキャラクターばかり。特に、マーク・アディ演じるデイヴの不器用ながらも心優しい姿や、トム・ウィルキンソン演じるジェラルドの意外な一面は、視聴者の共感を呼ぶ。彼らがダンスの特訓を通じて少しずつ自信を取り戻し、人生に希望を見出していく過程は、ユーモラスでありながらも感動的だ。

音楽の使い方も見事で、特にホット・チョコレートの「You Sexy Thing」や、トム・ジョーンズの「You Can Leave Your Hat On」などの楽曲が映画のコミカルな雰囲気を引き立てている。ダンスシーンの練習風景で流れる音楽は、登場人物たちの不器用な動きと絶妙にマッチし、思わず笑ってしまう場面も多い。

低予算ながらも、脚本の完成度と俳優陣の演技、そして巧みな演出によって世界的な成功を収めた本作は、「人生に行き詰まったときでも、ユーモアと仲間がいれば乗り越えられる」という前向きなメッセージを伝えてくれる。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

映画の題材が「失業した男たちが生活のためにストリップをする」というものなので、そもそもこの設定に抵抗を感じる人もいるだろう。コメディとして描かれてはいるが、状況自体はなかなか過酷であり、「笑っていいのか、泣くべきなのか?」と戸惑う場面もある。

『フル・モンティ』はイギリス映画らしい淡々としたテンポで進行するため、ハリウッド的な派手な展開やドラマチックな演出を期待すると、やや地味に感じる可能性がある。特に前半はキャラクターの境遇や葛藤に焦点が当てられ、ストリップショーの準備が本格化するのは後半から。
本作は、イギリス映画特有のユーモアと社会風刺を楽しめる人にはぴったりの作品だが、明快なエンターテインメントを求める人には、少々地味でクセの強い作品に感じられるかもしれない。「人生いろいろあるけど、まあなんとかなるか」と思わせる作品なのである。

こぼれ話

『フル・モンティ』というタイトルは、劇中で登場人物たちが目指す“すべて見せる”ストリップを指すが、イギリスでは「全部」「完全なもの」という意味のスラングとしても使われる。
本作の制作費はわずか350万ドル(当時のレートで約4憶円)ほど。当時としても決して大きな予算ではなかったが、予想を超える大ヒットとなり、全世界で2億5千万ドル(300億円)以上の興行収入を記録した。これにより、低予算の英国映画が世界的な成功を収める可能性を示した作品の一つとなった。

主演のロバート・カーライルをはじめ、キャスト陣はストリップダンスのシーンに向けてダンス練習を重ねたが、最初のオーディションでは実際に「どこまで脱ぐのか?」という話題が飛び交ったという。幸い、オーディション時点ではそこまで求められなかったが、撮影に入る頃には「やるしかない」という覚悟が決まっていたらしい。

クライマックスのストリップシーンは実際の観客を入れて撮影され、キャストたちの緊張感も最高潮だったという。撮影当日は笑いと応援の声が飛び交い、予想以上に“リアルな”ステージになったとか。キャスト陣は本番前に「全員でやるんだ、もう後には引けない!」と互いに鼓舞し合っていたという。

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