映画史に残るSFワイヤーアクション ---
1999年に公開されたSFアクション映画『マトリックス』(原題:The Matrix)は、ウォシャウスキー姉妹(当時はウォシャウスキー兄弟)が監督を務め、キアヌ・リーブスが主演を務めた。物語は、コンピューターによって支配された仮想現実「マトリックス」の存在を知った主人公ネオが、人類解放の戦いに身を投じる姿を描く。
革新的なVFX技術「バレットタイム」やスタイリッシュなアクションシーンは、後の映画やポップカルチャーに多大な影響を与えた。本作は全世界で4億6,700万ドル(当時のレートで約560億円)を超える興行収入を記録し、アカデミー賞では視覚効果賞を含む4部門を受賞した。
『マトリックス』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
近未来の世界。トーマス・アンダーソン(通称ネオ)は、昼は大手企業でコンピューター・プログラマーとして働き、夜はハッカーとして活動していた。彼は日常に漠然とした違和感を抱いており、インターネット上で「マトリックス」という謎の言葉を追い求めていた。
ある日、彼は凄腕のハッカーとして知られる女性トリニティと接触し、伝説の男モーフィアスの存在を知る。モーフィアスはネオを「救世主」と呼び、「今いる世界は、人工知能が作り出した仮想現実にすぎない」ことを告げる。そして、青いカプセルを飲めば何もなかったことになるが、赤いカプセルを飲めば真実を知ることができると選択を迫る。ネオが赤いカプセルを選ぶと、彼は現実世界で目覚め、人類が機械に支配される衝撃的な真実を知る。
モーフィアス率いる反乱組織に加わったネオは、人類を監視し抑圧するエージェント・スミスら人工知能の支配者との戦いに身を投じる。ネオはマトリックスの本質を理解し、救世主として人類の希望となるのか。
『マトリックス』の監督・主要キャスト
- ラナ・ウォシャウスキー(34)監督
- キアヌ・リーブス(34)ネオ / トーマス・アンダーソン
- ローレンス・フィッシュバーン(37)モーフィアス
- キャリー=アン・モス(32)トリニティ
- ヒューゴ・ウィーヴィング(39)エージェント・スミス
- ジョー・パントリアーノ(47)サイファー
- グロリア・フォスター(64)オラクル
- マーカス・チョン(31)タンク
(年齢は映画公開当時のもの)
『マトリックス』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 4.0 ★★★★☆ |
・大切な人と観たい | 2.0 ★★☆☆☆ |
・ひとりでじっくり | 3.0 ★★★☆☆ |
・サイバーパンク的世界観 | 4.0 ★★★★☆ |
・視覚効果「バレットタイム」 | 4.0 ★★★★☆ |
映画界に革新をもたらしたワイヤーアクション
『マトリックス』は、映像表現とアクション演出において映画史に残る革新をもたらした作品だ。特に「バレットタイム」と呼ばれるスローモーション撮影技術は、公開当時はまさに衝撃的で、その後のアクション映画やゲームに多大な影響を与えた。銃弾がゆっくりと空間を切り裂くシーンは今見ても圧巻。ワイヤーアクションと最新のVFXを融合させたスタイルは、香港映画のカンフーアクションをハリウッド的に再構築したもの。
物語面では、現実と仮想世界の対比を通じて、個人の自由意志や認識論的な問いを提示している。サイバーパンク的な世界観のもと、哲学的なテーマをSFアクションに落とし込む手法は、AI時代がまさに迫ろうとしている現代の視聴者にとっても深い思索を促すのではないか。
ダークでスタイリッシュな世界観は、1990年代後半のサイバーパンクブームと相まって強い個性を放った。黒のロングコートにサングラスという独特のファッションは、キャラクターたちのクールさを際立たせる。特にローレンス・フィッシュバーン演じるモーフィアスは、どんな言葉でも「真理のように聞こえる」という圧倒的な存在感を放っている。
こぼれ話
本作の象徴的なアクションシーンは、香港映画の影響を強く受けており、アクション指導には『酔拳』などで知られるユエン・ウーピンが起用された。キャスト陣は撮影前に数カ月間の武術訓練を受けたが、キアヌ・リーブスは当時首の手術を受けたばかりで、最初のうちはキックの練習すらできなかったという。それでも撮影本番では、見事なアクションを披露し、結果的に「最小限の動きで最大の効果を生む」スタイルが確立された。
また、脚本のインスピレーション源として、日本のアニメ『攻殻機動隊』の影響が公言されている。実際、ウォシャウスキー姉妹(当時は兄弟)は映画化の企画をスタジオに売り込む際、『攻殻機動隊』のビデオを見せて「これを実写でやりたい」と説明したという。この影響は、映画のビジュアルやコンセプトにも色濃く反映されており、サイバーパンク的な演出や「デジタル世界と現実の境界線」といったテーマに共通点が見られる。
撮影時には想定外のハプニングもあった。劇中でキャラクターたちが着用するサングラスは、すべて特注品だったが、非常に高価なため、落としたり壊したりしないように細心の注意が払われた。とはいえ、アクションシーンのたびに飛び散るサングラスが続出し、撮影現場では「サングラス専用の予算が必要なのでは?」と冗談が飛び交っていたという。
このように、『マトリックス』の製作にはさまざまな工夫や偶然が重なり、結果的に映画史に残る作品となった。もし視聴する際は、これらの裏話を思い出しながら見ると、新たな発見があるかもしれない。
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