セイント(1997)の解説・評価・レビュー

The Saint クライムサスペンス
クライムサスペンススパイアクション

90年代のスタイリッシュ・スパイアクション ---

1997年公開の『セイント』(原題:The Saint)は、フィリップ・ノイス監督、ヴァル・キルマー主演のスパイ・アクション映画。原作は、1928年にイギリスの作家レスリー・チャータリスが生み出した同名の小説シリーズで、かつてロジャー・ムーア主演でテレビドラマ化もされた人気作である。

物語は、変装と偽名を駆使する国際的な大泥棒サイモン・テンプラー(ヴァル・キルマー)が、ロシアの政治的陰謀に巻き込まれ、盗み以上に危険なミッションへと挑むスパイスリラー。彼は冷戦後の混乱が続くロシアで、莫大なエネルギー資源をめぐる陰謀に巻き込まれ、物理学者エマ・ラッセル(エリザベス・シュー)とともに命を狙われることになる。

本作は、ヴァル・キルマーが演じる主人公のカメレオン的な変装と、スパイ映画らしいアクションとサスペンスが特徴。興行的には全世界で約1億6,900万ドル(当時のレートで約120億円)の収益を記録。90年代らしいクールな演出とロシアを舞台にした国際陰謀劇が絡み合い、アクションとロマンスのバランスが取れた作品として一定の評価を得た。

『セイント』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


サイモン・テンプラー(ヴァル・キルマー)は、「セイント(聖人)」の異名を持つ国際的な大泥棒。彼は変装と偽名を駆使し、依頼主からのミッションを次々と成功させていた。ある日、ロシアの富豪で政治家でもあるイワン・トレティヤク(ラデ・シェルベッジア)から、新エネルギー「コールド・フュージョン(常温核融合)」の秘密を盗み出すよう依頼を受ける。

ターゲットとなるのは、美しく聡明な物理学者エマ・ラッセル(エリザベス・シュー)。サイモンは彼女に近づき、巧妙に彼女の研究データを盗み出すことに成功するが、エマとの出会いを通じて、彼の人生に変化が訪れる。

やがて、トレティヤクの真の目的が明らかになり、サイモンはエマとともに命を狙われる立場となる。冷戦後のロシアを舞台に、陰謀が渦巻く中、サイモンは自らの技術と知略を駆使し、迫りくる危機に立ち向かう。彼はただの泥棒ではなく、“聖人”としての新たな使命を見出すことができるのか——。

『セイント』の監督・主要キャスト

  • フィリップ・ノイス(47)監督
  • ヴァル・キルマー(37)サイモン・テンプラー
  • エリザベス・シュー(33)エマ・ラッセル博士
  • ラデ・シェルベッジア(50)イワン・トレティアック
  • ヴァレリー・ニコライエフ(32)イリヤ・トレティアック
  • ヘンリー・グッドマン(47)レフ・ボトビン博士
  • エフゲニー・ラザレフ(60)カルポフ大統領
  • イリーナ・アペクシモーナ(年齢不詳)フランキー

(年齢は映画公開当時のもの)

『セイント』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 5.0 ★★★★★
・大切な人と観たい 4.0 ★★★★☆
・ひとりでじっくり 2.0 ★★☆☆☆
・ヴァル・キルマーの七変化 5.0 ★★★★★
・ロマンス&スパイ 4.0 ★★★★☆

ポジティブ評価

『セイント』は、90年代のスパイアクション映画として評価が高い一作。、最大の魅力は、ヴァル・キルマー演じる主人公サイモン・テンプラーの変装術と、彼が繰り広げる巧妙な駆け引きである。サイモンはミッションごとに異なる偽名とキャラクターを使い分けるが、ヴァル・キルマーの幅広い演技力によって、それぞれの変装がただのコスプレに終わらず、説得力を持ったキャラクターとして機能している。

冷戦後の混乱が続くロシアを舞台にしたことで、政治的な陰謀やエネルギー問題といった当時の世界観が絡み、今視聴すると懐かしい気持ちに。ロシアの政治家トレティアクとの対決は、単なる善vs悪の構図ではなく、経済や権力闘争といった要素も絡むことで、単純なアクション映画以上のドラマ性を生み出している。
エリザベス・シュー演じるエマ・ラッセル博士は、ヒロインでありながら単なる「助けられる存在」ではなく、物語の鍵を握る重要な人物として魅力的に描かれる。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

『セイント』は、スパイ映画としてのアクション面では、『ミッション:インポッシブル』(1996年)や『007』シリーズと比べると、やや地味な印象。ヴァル・キルマーの演技やスタイリッシュな雰囲気を楽しむには十分な作品だが、アクションの派手さやストーリーの緊張感を重視する視聴者には少し物足りなく感じられるかもしれない。反面、90年代のスパイスリラーとしての味わいがあり、じっくりとしたスパイ映画を好む人には魅力的な一本となるだろう。

こぼれ話

もともと本作は、1928年に作家レスリー・チャータリスが生み出した小説シリーズ『セイント』を原作とし、過去に何度も映画化やテレビドラマ化されてきた。特に有名なのは、1960年代のテレビシリーズ『セイント 天国野郎』で、主人公サイモン・テンプラーを演じたのは後にジェームズ・ボンド役となるロジャー・ムーアだった。この影響もあり、本作は「90年代版007」として企画されたとも言われている。

主演のヴァル・キルマーは、変装の達人というキャラクターを演じるにあたり、さまざまなアクセントや口調を研究し、役ごとに異なる話し方を習得したという。彼の変装のバリエーションは作中で10種類以上に及び、あるシーンでは本人と気づかれないほど印象が変わることもあった。また、彼はこの役について「ジェームズ・ボンドよりもダークで、人間味のあるスパイを演じたかった」と語っており、クールな泥棒という側面を強調している。

本作のもうひとつの特徴は、ロケーション撮影の豊富さである。物語の大半が冷戦後のロシアを舞台にしているため、実際にモスクワでの撮影が行われた。特に、赤の広場やロシア正教会の聖堂など、ロシアの象徴的な場所がふんだんに登場。旅行気分を味わうことが出来る。

サウンドトラックは、90年代のクラブミュージックやエレクトロニック・ロックの影響を受けており、当時人気のあったミュージシャンの楽曲が多く使用された。特に、トリップホップやテクノ系の楽曲がスパイ映画らしいクールな雰囲気を演出し、作品の独特なスタイルを確立している。

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