沈黙を破るのは、狂気か、真実か ---
1991年公開の『羊たちの沈黙』(原題:The Silence of the Lambs)は、ジョナサン・デミ監督によるサイコスリラー映画である。主演はジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンス、スコット・グレン。原作はトマス・ハリスの同名小説で、若きFBI訓練生クラリス・スターリングと、天才的な頭脳を持つ元精神科医で猟奇殺人犯のハンニバル・レクター博士の対峙を描く。
本作は、巧妙な心理戦と緊迫感あふれるストーリー展開で高い評価を受け、アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞(アンソニー・ホプキンス)、主演女優賞(ジョディ・フォスター)、脚色賞の主要5部門を制覇する快挙を達成。全世界で2億7,200万ドル(当時のレートで約360億円)の興行収入を記録し、サイコスリラー映画の金字塔として今なお語り継がれている。
『羊たちの沈黙』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
FBI訓練生のクラリス・スターリング(ジョディ・フォスター)は、連続殺人犯「バッファロー・ビル」が引き起こした猟奇的な誘拐・殺人事件の捜査に協力することになる。事件解決の糸口を探るため、彼女は元精神科医でありながら凶悪な犯罪者として拘束されているハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)に接触し、彼の知識と洞察力を利用しようとする。
レクターはクラリスに対し、事件の手がかりを与える代わりに、彼女自身の個人的な過去やトラウマを語るよう求める。知的な会話の裏に張り巡らされた心理戦が展開される中、クラリスはバッファロー・ビルの正体に迫っていく。しかし、時間が迫る中で新たな犠牲者が現れ、彼女はレクターとの危うい取引の中で、真実を導き出さなければならない。果たして、彼女は事件を解決し、連続殺人犯を捕らえることができるのか――。
『羊たちの沈黙』の監督・主要キャスト
- ジョナサン・デミ(47)監督
- ジョディ・フォスター(28)クラリス・スターリング
- アンソニー・ホプキンス(53)ハンニバル・レクター
- スコット・グレン(52)ジャック・クロフォード
- テッド・レヴィン(33)バッファロー・ビル
- アンソニー・ヒールド(46)フレデリック・チルトン
- ブルック・スミス(24)キャサリン・マーティン
- ダイアン・ベイカー(53)ルース・マーティン
(年齢は映画公開当時のもの)
『羊たちの沈黙』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 2.0 ★★☆☆☆ |
・大切な人と観たい | 3.0 ★★★☆☆ |
・ひとりでじっくり | 5.0 ★★★★★ |
・ハンニバル | 5.0 ★★★★★ |
・知的で野蛮な心理戦 | 5.0 ★★★★★ |
ポジティブ評価
『羊たちの沈黙』は、サイコスリラーの枠を超えた心理戦の名作として高く評価されている。
ジョディ・フォスター演じるクラリス・スターリングは、未熟さを抱えながらも果敢に事件解決に挑み、彼女の繊細な表情や毅然とした態度が視聴者の共感を呼ぶ。一方、ホプキンス演じるハンニバル・レクターはわずか16分の出演時間ながら、知性と不気味な存在感で二人の対話シーンを通じて映画史に残る緊張感を生み出した。
単なる捜査ではなく、彼女自身の内面と向き合う物語は、派手なアクションに頼らず言葉と心理的な駆け引きだけでスリルを生み出している。ジョナサン・デミ監督の演出も見事で、レクターがクラリスを見つめるシーンでは、彼の視線が真正面から映し出されることで、視聴者も彼の冷徹な分析の対象になったような錯覚を覚える。
本作はアカデミー賞主要5部門を独占するという快挙を成し遂げた。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
ハンニバル・レクターのキャラクターは公開から30年経った今でも名を残すほどのインパクトを持ち、非常に魅力的だが、うわさを聞いて初めて視聴すると思いのほか登場時間が短く、「もっと彼の活躍を見たかった」という思いを残すかもしれない。彼の存在が映画の根幹であるにもかかわらず、メインのプロットはあくまでバッファロー・ビルの事件解決であるため、レクターとクラリスのやり取りを中心にした物語を期待すると、やや物足りなさを感じる可能性がある。
視聴者の声に応える形で、その後ハンニバル・レクター博士を主役とした映画『ハンニバル』が2001年に公開された。
こぼれ話
『羊たちの沈黙』でハンニバル・レクターを演じたアンソニー・ホプキンスは、わずか16分の出演時間でアカデミー賞主演男優賞を受賞した。これは歴代最短クラスの受賞記録であり、彼の圧倒的な存在感がいかに強烈だったかを物語っている。ちなみに、ホプキンスは役作りの参考として、なんとコブラやワニなどの爬虫類の動きを研究したという。彼のゆっくりとした話し方や瞬きの少ない視線は、こうした動物的な特徴を取り入れた結果だった。
撮影中、実際のFBI捜査官が現場に立ち会っており、ジョディ・フォスターの捜査シーンのリアリティ向上に協力していたという。しかし、フォスター自身はハンニバル・レクターのキャラクターが本気で怖かったらしく、ホプキンスと撮影の合間に談笑することはほぼなかったとか。ラストの電話シーンを撮り終えた後も、彼女は「もう彼とは話したくない」と思ったほど。
また、映画の名シーンの一つであるレクターとクラリスの面会シーンは、当初は通常の刑務所の面会室で撮影される予定だった。しかし、ジョナサン・デミ監督は「レクターの異常性を強調するために、ガラスや鉄格子ではなく、彼が檻の中にいるような独特のセットを作ろう」と提案。この演出が功を奏し、レクターのカリスマ性と恐怖感をより際立たせることになった。結果的に、視聴者はまるで彼の視線に捕らえられたかのような感覚に陥り、映画の凄みが倍増することとなった。
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