テルマ&ルイーズ(1991)の解説・評価・レビュー

Thelma & Louise ロードムービー
ロードムービー

自由と解放を求めた、女性ふたりによる逃亡ロードムービー ---

リドリー・スコット監督による『テルマ&ルイーズ』(1991)は、自由を求めて旅に出た二人の女性が予期せぬ運命に巻き込まれるロードムービーである。スーザン・サランドンとジーナ・デイヴィスが主演を務め、女性の友情と自己解放を描いた作品として高く評価された。
物語は、平凡な主婦テルマと独立心の強いウェイトレスのルイーズが、小旅行に出るところから始まる。しかし、旅先で起こったある事件をきっかけに、二人は逃亡を余儀なくされ、アメリカ南西部の荒野を駆け抜けることとなる。旅の中で彼女たちは、社会の抑圧から解放され、自らの生き方を見つめ直していく。

本作は、従来のロードムービーの枠を超え、女性のエンパワーメントを象徴する作品として評価され、フェミニズム映画の黎明期に爪痕を残した。1992年のアカデミー賞では、カリ・クーリが脚本賞を受賞し、作品賞を含む6部門にノミネート。また、若き日のブラッド・ピットが端役ながらも印象的な演技を見せ、ハリウッドでの注目を集めるきっかけとなった。

『テルマ&ルイーズ』のあらすじ紹介(ネタバレなし)


平凡な主婦テルマ(ジーナ・デイヴィス)と、独立心の強いウェイトレスのルイーズ(スーザン・サランドン)は、日常からの小さな逃避を求めて週末旅行に出る。しかし、旅先のバーでテルマが見知らぬ男に暴行されそうになり、ルイーズは衝動的に男を射殺してしまう。二人は警察に助けを求めることも考えるが、過去のトラウマを抱えるルイーズは、正当防衛が認められないと判断し、逃亡を決意する。

計画のないまま逃げ続ける二人は、道中でヒッチハイカーの青年J.D.(ブラッド・ピット)と出会う。彼との一夜を楽しんだテルマだったが、彼は二人のわずかな所持金を盗み、逃亡生活はさらに苦しいものとなる。一方、事件を担当するハル警部(ハーヴェイ・カイテル)は、彼女たちの立場を理解しながらも、なんとか投降させようと説得を試みる。

逃亡を続ける中で、テルマは次第に自信を持ち、ルイーズもこれまで抑圧されてきた感情を解放していく。しかし、彼女たちを取り巻く状況は悪化し、警察の包囲網が迫る。二人は追い詰められながらも、自らの運命を決断する。

『テルマ&ルイーズ』の監督・主要キャスト

  • リドリー・スコット(53)監督
  • スーザン・サランドン(44) ルイーズ・ソーヤー
  • ジーナ・デイヴィス(35) テルマ・ディキンソン
  • ハーヴェイ・カイテル(52) ハル・スローカム
  • マイケル・マドセン(33) ジミー・レノックス
  • ブラッド・ピット(27) J.D.
  • クリストファー・マクドナルド(36) ダリル・ディキンソン
  • スティーヴン・トボロウスキー(40) マックス

(年齢は映画公開当時のもの)

『テルマ&ルイーズ』の評価・レビュー

・みんなでワイワイ 4.0 ★★★★☆
・大切な人と観たい 3.0 ★★★☆☆
・ひとりでじっくり 3.0 ★★★☆☆
・女性ふたり旅 5.0 ★★★★★
・ブラピ目当て 3.0 ★★★☆☆

ポジティブ評価

『テルマ&ルイーズ』は、逃亡劇を通じて女性の成長と自己解放を描いた力強い作品。広大なアメリカ南西部の荒野を駆け抜ける彼女たちの旅は、抑圧された人生からの解放を求める魂の旅として描かれる。テルマとルイーズが旅を続ける中で次第に大胆になっていく様子は視聴者にも爽快感を与え、最後に彼女たちが選んだ道はそれらの象徴的な瞬間となった。

スーザン・サランドンとジーナ・デイヴィスの演技は、二人の関係性が自然でありながらも感情の機微が細かく描かれているのが印象的。ルイーズの冷静さとテルマの無邪気さが対照的に描かれ、旅が進むにつれて二人のキャラクターが成長していく様子には思わず感情移入してしまう。
またロードムービーらしく、美しい映像が魅力的だ。アメリカ南西部の壮大な景色が、二人の自由と危機感を同時に映し出しており、映像だけでも観る価値がある。加えて、若き日のブラッド・ピットが登場し、端役ながら強烈な印象を残す点も見逃せない。「ブラピは最初からスターだったんだな」と納得する人も多いはず。

ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素

ロードムービーとしての魅力が詰まったこの作品は、展開が次第に極端になっていき、リアリティよりも演出重視に傾く。ドラマチックではあるが、繊細なヒューマンドラマかというとやや違っていて、そこは好みが分かれるところ。

登場する男性キャラクターの多くがだいたい禄でもない。横暴だったり無理解だったりするため、「男性=敵」という構図に見えなくもない。苦手な人には合わないが、女性からそういう見え方をするという側面を切り取ったことを思えば映画が社会に一石を投じているとも言える。

端役のブラッドピットは、本当に端役。彼目当てでたどり着いた人は「あれもう終わり?」となりかねない。

こぼれ話

主演のスーザン・サランドンとジーナ・デイヴィスのキャスティングについて。本作には当初、ミシェル・ファイファーやジョディ・フォスターといった大物女優が候補に挙がっていたが、スケジュールの都合で辞退。最終的にサランドンとデイヴィスに決定し、結果として二人の代表作となった。なお、ジーナ・デイヴィスはテルマ役が決まるまで「どちらの役でもいいから出演したい」と熱望していたという。
また衝撃的なラストシーンは、当初別の結末も検討されていたが、スーザン・サランドンが「このラストじゃないとダメ」と強く主張し、現在の形に落ち着いたという。彼女たちの熱意を知った上で視聴するとさらに熱くなれる。

また、若き日のブラッド・ピットにとっても、本作は大きな転機となった。彼が演じたJ.D.役には、もともとジョージ・クルーニーが何度もオーディションを受けていたが、最終的にブラピが抜擢された。ジョージ・クルーニーは後に「この役を逃したのは今でも悔しい」と語っており、もしキャスティングが違っていたら、ハリウッドの歴史も変わっていたかもしれない。

さらに、リドリー・スコット監督は当初プロデューサーとして関わっていたが、なかなか監督が決まらず、「それなら自分で撮るか」と自らメガホンを取ることに。普段は『エイリアン』や『ブレードランナー』といったSF作品を得意とするスコットが、女性の逃亡劇を描くのは意外な選択だったが、そのビジュアルセンスとダイナミックなカメラワークは、ロードムービーとしての魅力を大いに引き出している。

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