赤ちゃん1人、男3人。想定外の共同生活コメディ ---
『スリーメン&ベビー』(Three Men and a Baby)は、1987年にアメリカで公開されたコメディ映画である。フランス映画『赤ちゃんに乾杯!』のリメイク作品で、レナード・ニモイが監督を務めた。主演はトム・セレック、スティーヴ・グッテンバーグ、テッド・ダンソンの3人で、ニューヨークのペントハウスで独身生活を謳歌する彼らのもとに、突然赤ちゃんが現れ、騒動が巻き起こる物語である。
本作は興行的に大成功を収め、製作費約1,100万ドル(当時のレートで約16億円)に対し、全米で約1億6,800万ドル(約240億円)の興行収入を記録した。日本では1988年8月に公開され、多くの観客の支持を得た。また、1990年には続編『スリーメン&リトルレディ』も制作されている。
『スリーメン&ベビー』のあらすじ紹介(ネタバレなし)
ニューヨークの高級ペントハウスで共同生活を送るピーター、マイケル、ジャックの3人は、それぞれ建築家、漫画家、俳優として成功し、自由気ままな独身生活を満喫していた。そんなある日、ジャックが海外に仕事で出かけている間に、彼宛の小包が届けられる。しかし、玄関前に置かれていたのは、なんと生後数か月の赤ちゃんだった。赤ちゃんの名はメアリー。彼女はジャックの元恋人が残していった、ジャックの娘だった。
突然の出来事にパニックに陥るピーターとマイケルは、育児の知識ゼロのまま、赤ちゃんの世話に悪戦苦闘する。おむつ替えにミルクの準備、泣き止まないメアリーに振り回される毎日。さらに、誤解から犯罪組織のドラッグ取引に巻き込まれるというトラブルまで発生し、3人は赤ちゃんの世話だけでなく、危険な事件にも直面することになる。
やがてジャックが帰宅し、3人は力を合わせて育児に奮闘することを決意する。最初は戸惑いながらも、メアリーとの生活を通じて、彼らの価値観やライフスタイルは次第に変化していく。自由気ままな独身生活を楽しんでいた彼らが、赤ちゃんを中心とした「家族」としての絆を深めていく過程が、温かくユーモラスに描かれる。
果たして3人は、メアリーの父親としての責任を果たし、彼女のために最良の決断をすることができるのか――?
『スリーメン&ベビー』の監督・主要キャスト
- レナード・ニモイ(56)監督
- トム・セレック(42)ピーター・ミッチェル
- スティーヴ・グッテンバーグ(29)マイケル・ケロガン
- テッド・ダンソン(39)ジャック・ホールデン
- ナンシー・トラヴィス(26)シルヴィア
- マーガレット・コリン(29)レベッカ
- フィリップ・ボスコ(57)警部補
- リンダ&リサ・ブレア(0)メアリー
(年齢は映画公開当時のもの)
『スリーメン&ベビー』の評価・レビュー
・みんなでワイワイ | 5.0 ★★★★★ |
・大切な人と観たい | 5.0 ★★★★★ |
・ひとりでじっくり | 2.0 ★★☆☆☆ |
・80年代シットコム風コメディ | 5.0 ★★★★★ |
・レナード・ニモイ監督! | 4.0 ★★★★☆ |
ポジティブ評価
『スリーメン&ベビー』は、80年代を代表するハートフル・コメディとして、今なお多くの観客に愛される作品である。独身生活を謳歌していた3人の男たちが、突然の育児に振り回されながらも、次第に父親としての責任感を育んでいくというストーリーは、笑いと感動を兼ね備えた魅力的な展開となっている。
本作の最大の魅力は、トム・セレック、スティーヴ・グッテンバーグ、テッド・ダンソンという個性豊かな3人の俳優たちの絶妙な掛け合いにある。育児に対する全くの素人である彼らが、ミルクの作り方をめぐって大げんかをしたり、おむつ交換に四苦八苦したりと、どこか共感を呼ぶドタバタ劇を繰り広げる。その姿がコミカルでありながら、次第に赤ちゃんに愛情を抱いていく過程が自然に描かれ、視聴者も彼らとともに「父親になっていく」感覚を味わうことができる。
また、映画全体に漂う温かみのある雰囲気も、本作の魅力のひとつだ。ニューヨークの高級ペントハウスを舞台にしながらも、育児の現実に直面することで彼らのライフスタイルが大きく変わっていく様子がユーモラスに描かれ、都会的でありながら家庭的な要素も持ち合わせたストーリーとなっている。さらに、赤ちゃんのメアリーを演じた双子(リンダ&リサ・ブレア)の愛らしい演技も、作品にほのぼのとした魅力を加えている。
監督を務めたのは、『スター・トレック』シリーズのスポック役で知られるレナード・ニモイ。彼の演出は、ミカルなシーンと心温まるシーンのバランスが絶妙で、シンプルなストーリーながらも最後まで飽きさせないテンポの良さを生み出している。加えて、本作はフランス映画『赤ちゃんに乾杯!』のリメイクでありながら、アメリカ的なエンターテイメント要素を強く打ち出したことで、より幅広い視聴者に受け入れられる作品となった。
『スリーメン&ベビー』は、笑いと感動のバランスが絶妙なコメディ映画として、育児経験のある人はもちろん、そうでない人でも楽しめる作品である。独身貴族の3人が赤ちゃんによって人生を変えられていく姿は、時代を超えて共感を呼び、何度でも観たくなる魅力に満ちている。
ネガティブまたは賛否が分かれる評価要素
『スリーメン&ベビー』は、1980年代の典型的な「みんなが楽しめる」ホームコメディとして人気を博した作品である。そうした特性ゆえに、この映画を積極的に「嫌い」と評する視聴者は少なく、評価が割れることも特にない。
一方で、本作が長年にわたって話題となったのは、いわゆる「幽霊が映っている」という都市伝説。劇中の一場面に“少年の霊”が映り込んでいるとの噂が流れ、VHS時代にはその瞬間を巻き戻して確認する視聴者が後を絶たなかった。実際には、映っていたのは部屋の隅に立てかけられたテッド・ダンソン演じるキャラクターの等身大ポスターであり、製作陣も後に明確に否定している。それでも、この都市伝説は作品の知名度と話題性を高める一因となった。
物語全体の構成はシンプルで、3人の独身男性と赤ん坊という設定に頼り切ったエピソード主導の展開。ありきたりと言えばそうだが、当時としては新しく、むしろそのようなテンプレートを作ったと評価するのが妥当だろう。
こぼれ話
『スリーメン&ベビー』は、80年代を代表するコメディ映画として知られているが、その制作の裏側には興味深いエピソードが数多く存在する。まず、本作の監督を務めたのは、意外にも『スター・トレック』シリーズのスポック役で有名なレナード・ニモイだった。ニモイはSF作品のイメージが強かったが、本作で軽快なコメディ演出を見事に成功させ、興行的にも大成功を収めた。ちなみに、彼は本作の監督オファーを受けるまで、コメディ映画の演出経験がなかったため、当初は戸惑いもあったという。
本作はフランス映画『赤ちゃんに乾杯!』(1985年)のリメイク作品だが、オリジナルの設定を生かしつつ、アメリカの文化に合わせたアレンジが施されている。特に、ニューヨークを舞台にすることで、都会的な雰囲気と洗練されたライフスタイルが強調され、独身男性たちの生活とのコントラストがより鮮明になった。また、フランス版にはなかった「ドラッグ取引を巡るトラブル」というサブプロットが追加されており、コメディにスリラー的な要素が加えられている。
キャスティングに関しても、興味深い話がある。ピーター役のトム・セレックは、当時テレビドラマ『私立探偵マグナム』で大人気だったが、本作で温かみのある父親役を演じたことで、新たな魅力を見せることになった。一方、マイケル役のスティーヴ・グッテンバーグも『ポリス・アカデミー』シリーズで知られており、コミカルな演技には定評があったが、本作ではより親しみやすいキャラクターを演じた。さらに、ジャック役のテッド・ダンソンは、当時大ヒットしていたシットコム『チアーズ』で人気を博しており、彼の出演も話題を呼んだ。
興行的な成功も特筆すべき点である。本作は1987年の年間興行収入ランキングで1位を記録し、『リーサル・ウェポン』や『ダイ・ハード』といったアクション映画が台頭していた時代に、ハートフルなコメディとして異例の大ヒットとなった。製作費約1,100万ドルに対し、全世界で約1億7,000万ドルの興行収入を記録し、1980年代のコメディ映画の中でも特に成功した作品のひとつとなった。
この成功を受け、1990年には続編『スリーメン&リトルレディ』が制作された。続編では、メアリーが成長し、3人の父親たちがさらに奮闘する姿が描かれている。さらに、近年ではディズニーによるリメイク企画が進行中と報じられており、新たな時代にふさわしい形で本作が蘇る可能性もある。
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